
トヨタ自動車は2025年1月、静岡県裾野市に「ウーブン・シティ」という実験都市を2025年10月にオープンすると発表しました。どのような実験が行われるのでしょうか?
富士山の裾野に、トヨタの実験都市が誕生
トヨタ自動車は2025年1月、静岡県裾野市に「ウーブン・シティ(Woven city)」という実験都市を、2025年10月にオープンすると発表しました。
ウーブン・シティは、東名高速道路の裾野ICにほど近い、かつてトヨタの工場(トヨタ自動車東日本・東富士工場)があった場所に誕生します。総面積は70万8,000平方メートルで、その広さは東京ドーム15個分、東京ディズニーランド1.5個分に相当します。
ウーブン・シティ Phase1の様子(トヨタ自動車のリリースより引用)
ウーブン・シティの特徴は、単なるニュータウンではなく、新たなプロダクトやサービスを生み出し、それらを実証するための「実験都市」である点にあります。研究室やオフィスでプロダクトやサービスの開発が行われるように、ウーブン・シティでは日常生活のなかで新しいプロダクトやサービスを試しながら、改善を繰り返していきます。
2025年10月のオープン時点では、全体の約70万平方mのうち、約5万平方mのみが竣工されます。この最初の区画は「Phase1(フェーズ1)」と呼ばれ、トヨタやトヨタ関係者を中心に約360名が居住する予定です。
なお、ウーブン・シティの「ウーブン」は、「機(はた)を織る」を意味する英語「Weave」の過去分詞形である「Woven」が由来です。トヨタの祖業が自動織機(機織り機)の製造であること、街を通る道が網の目が織り込まれるようにデザインされていることから名付けられました。
住民は「インベンターズ」「ウィーバーズ」の2グループに分かれる
ウーブン・シティでは、常に「インベンターズ」(Inventors:発明者)と呼ばれる研究者によって、発明と実験が行われる予定です。その実験を「ウィーバーズ(Weavers:布を織る人、機織り)と呼ばれる住民・来訪者が利用し、インベンターズにフィードバックを返すことで、新たな製品やサービスの開発と実証のサイクルを回していきます。
さまざまな実験が行えるよう、ウーブン・シティでは街の至るところに実験用の施設・設備が用意されています。
たとえば地上には自動運転車用の道路が設けられており、信号機には人流を計測するためのセンサーを取り付けるスペースも用意されています。さらに地下には、街の建物全棟につながる広い地下道が用意されており、自動配送ロボットによる実証実験が計画されています。
トヨタ以外の企業も、インベンターズとして参加する予定です。2025年1月の時点では、ダイキン工業、ダイドードリンコ、日清食品、UCCジャパン、増進会ホールディングスの5社の参加が新たに発表されました。
このほかENEOS、日本電信電話(NTT)、リンナイの3社については、すでにインベンターズとして参加が発表されており、たとえばENEOSでは、同社の水素ステーションからウーブン・シティ内の水素利用機器に、パイプラインで水素を供給する実験の計画が、2023年に発表されています。
インベンターズが発明したプロダクトは、主に「Kakezan Invention Hub」(カケザン・インベンション・ハブ)という施設に展示されます。インベンターズはここでウィーバーズと意見を交わすことが可能です。
「永遠に未完成の街」「街の形をしたテストコース」
ここまで紹介してきたように、ウーブン・シティの根幹には「実験」があります。
トヨタの豊田章男会長はウーブン・シティについて「永遠に未完成の街」と評しており、ウーブン・シティのホームページでも「街の形をしたテストコース」と表現されています。一般的な街とは一線を画していることがうかがえます。
本文で触れたように、ウーブン・シティのPhase1については10月にオープンが予定されていますが、現在はそれに続く「Phase2」の造成も進められており、将来的には2,000人の入居が計画されています。もちろん、その入居者はすべてインベンターズ、もしくはウィーバーズということになり、より多くの発明が生まれ、より多くの改善が行われることが予想されます。
ウーブン・シティがどのように日々実験を進めるのか、現地で見学したい、視察したいと考える人も多いかもしれません。しかしウーブン・シティのサイトでは、現場で安全に視察を受け入れる体制を整えられていないことから、現時点では受け付けてないとのことです。裾野市も同様に、見学の受け付け・仲介はしていないと発表しています。
ただし、サイトでは「今後見学・視察の受け入れが可能となりましたら、Webサイトなどでお知らせします」という文言も付記されており、将来的には見学が許可される可能性は十分にありそうです。加えて居住者についても、詳細が決まり次第、募集するとしています。
豊田章男会長は、2025年1月に行われたイベント「CES 2025」のプレスカンファレンスにて、ウーブン・シティをつくった理由を「新しいアイデアで人々を幸せにする」と語っています。どんなアイデアが生まれるかは、街がスタートしていない現時点ではわかりませんが、富士山の裾野で、ウーブン・シティという種が撒かれたことは確かなようです。
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