2024.10.08 (Tue)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第65回)
政府が世界から誘客する「デジタルノマド」とはどんな人たち?
日本は現在、国を転々としながらリモートで自由に働く国際的なリモートワーカー「デジタルノマド」の受け入れを推進していますが、その理由は何なのでしょうか?
旅する高収入リモートワーカー「デジタルノマド」は世界中に存在する
2020年に始まったコロナ禍の影響により、オフィスに出社しないで働く「リモートワーク」は、日本でも当たり前になりつつあります。
リモートワークは、必ずしも自宅だけで働くことだけを指すわけではありません。たとえばカフェで、時には空港で、場合によっては海外のリゾート地でも、パソコンと通信環境があれば、どこでも働くことが可能です。
このようにパソコンやネット環境を利用し、場所にとらわれない働き方をするビジネスパーソンのことは、俗に「デジタルノマド」または「ノマドワーカー」と呼ばれます。ノマド(nomad)とは「遊牧民」を意味する英語です。
一般社団法人日本デジタルノマド協会では、デジタルノマドの定義について「携帯・パソコン・インターネットを活用して仕事をしながら旅を続ける生活スタイルの人々」と、仕事と旅行を両立している人のことを指すとしています。
JTB総合研究所の資料によると、デジタルノマドは世界に約3,500万人存在し、その市場規模は7,870億ドル(約111兆円)に及ぶといいます。
同資料では、デジタルノマドの特徴として高収入な人が多い点も指摘しており、年収が700万~1,400万円未満、および年収1,400万~3,500万円未満人が、それぞれ34%存在するといいます。中には、3,500万円以上を稼ぐ人も8%存在します。男女比はほぼ半々で、全体の66%が1つの場所に3~6カ月滞在していたといいます。
なぜ日本はデジタルノマドの誘客に力を入れているのか?
こうしたデジタルノマドに対し、現在日本では、積極的に誘客を呼びかけています。
たとえば2024年4月1日には、日本を訪れるデジタルノマドに対し、専用のビザの発給をスタート。滞在期間が1年のうち6カ月を超えないこと、申請の時点で個人の年収が1,000万円以上であることなどの要件をクリアしたデジタルノマドはおよびその配偶者と子は、「特定活動」の在留資格が与えられます。
デジタルノマド向け在留資格(入出国在留管理庁の資料より引用)
さらに2024年4月には、デジタルノマドの誘客に先駆的に取り組む実証事業の募集をスタートしました。
対象となるのは、1事業当たり1,000万円を上限とした事業で、採択された場合、デジタルノマドを招聘した費用(宿泊費やコワーキング施設利用費など、滞在中のプログラム費用)を、最大5名分まで観光庁が全額負担します。航空券代・保険代は原則的に支援対象外ですが、観光庁が必要と認めた場合に限り支払われます。
現在、募集は終了しており、7月にはモデル事業として5つの地域における事業が選定されました(宮崎県日向市、石川県金沢市、福岡県福岡市・大分県別府市・長崎県長崎市・五島市、和歌山県、沖縄県名護市など北部・沖縄市)。今後、これら5つの地域にて、デジタルノマドの特性やニーズを踏まえた受入体制の構築、滞在プログラムの造成に取り組んでいきます。
すでにいくつかの事業では、デジタルノマドの受け入れがスタートしています。たとえば石川県金沢市の事業では、事業主体である株式会社パソナJOBHUBのサイトにて、9月20日よりデジタルノマドの募集が開始されています。応募期間は10月21日までで、外国籍であり、かつ2週間の滞在が可能なデジタルノマドが申し込めます。
ノマドワーカーの受け入れは、訪日外国人消費額「6兆円」の切り札になるか?
日本政府がこのようにデジタルノマドを歓迎する背景には、現在好調なインバウンド需要を、さらに伸ばす狙いがあります。
日本におけるインバウンド需要は目下絶好調で、2023年の訪日外国人消費額は過去最高となる5兆円を記録しました。2024年も高い数値を記録しており、2024年4~6月は対前年同期比で73.5%増となる2兆1,370億円を達成しました。
政府では現在、2025年に6兆円の訪日外国人消費額の達成を目指しており、これを達成するためには、さらなるインバウンド需要が求められます。そこで、多くのデジタルノマドが日本に長期で滞在することを促し、地域消費の拡大などビジネス面における経済効果を生み、より消費額を高めていくために、デジタルノマドを積極的に受け入れているというわけです。
こうしたインバウンド需要の増加により、観光地など日本のいくつかの地域では、通常よりも多くの収入が見込めている地域も多いでしょう。しかし、特に目立った観光資源が無い地域では、その恩恵にあずかれていないケースもまた多いかもしれません。
デジタルノマドを受け入れれば、たとえその人数が少なくとも、地域に多くの経済効果を生むことができます。そのデジタルノマドがインフルエンサーだった場合は、地域の良さが世界に発信され、地域へのデジタルノマドのさらなる来訪につなげることも可能です。
世界のどこにいても働けるようになったいま、世界の誰かが、我々が住んでいる土地を気に入る可能性は十分に考えられます。自治体関係者や地域に根付いたビジネスをしている方は、ノマドワーカーの受け入れ体制を整えてみてはいかがでしょうか。
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