2024.12.24 (Tue)

テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第77回)

ブランドイメージ向上に効果あり。「香りマーケティング」の今

 ブランディングや販売促進の一手段として、消費者の感覚に直接はたらききかける「香り」のマーケティングが行われています。なぜわざわざ「香り」をマーケティングに用いる必要があるのでしょうか?企業ブランディングや販促マーケティングにおける成功事例を紹介します。

香りには不思議な効果が秘められている

 特定の匂いを嗅いだときに、記憶や感情がよみがえるこの現象のことを「ブルースト効果」と呼びます。これは、フランスの小説家であるマルセル・プルーストが執筆した『失われた時を求めて』という小説の中に、主人公がマドレーヌを紅茶に浸し、その香りで昔の記憶を思い出す場面があることに由来しているといわれています。

 さらに、アメリカのある研究によると、香りのある環境は、消費者の購買意欲を高めたり、店舗への滞在時間を長くする効果が期待できるということも分かってきました。

 多くの企業は、こうした香りによる効果を、ブランディングに活用しています。

 例えば、世界中に400軒以上のホテルを展開するハイアット プレイスでは、2007年の創業以来、バニラとムスクをベースに、ブルーベリーと軽いフローラルの香りをブレンドした、優雅さと落ち着きを感じさせる香りを、館内のフレグランスに使用しています。社内調査や利用者の声を聞いた結果、この香りが何千人もの宿泊客の訪問体験を向上させ、ブランドのイメージを高めているといいます。

 シンガポール航空でも、ブランディング強化の一環として、同社のオリジナルフレグランスを開発。機内や空港ラウンジで、利用者にワンランク上の旅行を楽しんでもらうことを目的に、オリジナルフレグランスを使用しています。このフレグランスは家庭用にも販売されており、ブランドの差別化やサービス向上のために用いているようです。

マクドナルドのポテトの香りが広告になる!?

 上記のように「香り」の効果は以前からブランディングに活用されてきましたが、最近は広告マーケティングでも有効に使われています。

 マクドナルドは、フライドポテトの匂いで嗅覚に訴える「香る看板広告」をオランダで実施しました。同広告で使用される看板は、黄色、もしくは赤色一色に塗られたもので、マクドナルドのロゴマークすら描かれていません。しかし、看板の5m以内に近づくと、フライドポテトの独特の匂いが漂ってきます。看板は店舗から約198m以内に戦略的に設置されており、匂いを感知した後で周囲を見渡せば、すぐに店舗を発見し、訪問することが可能です。

 日本でも同様の広告が存在します。香りの空間演出、香り演出機器の開発・販売を手掛ける株式会社SceneryScentは、空気圧縮機などを製造・販売するアネスト岩田株式会社と共同で、人感センサーを用いた嗅覚サイネージシステム「Anbiscent」をリリースしました。

 これはデジタルサイネージから3mの距離における人の動きを感知し、人に向けてに香りを噴射します。焼きたてパンやフライドチキン、バニラアイスといったベーシックな香り40種類のほか、オリジナルの香りを調香師に依頼することも可能です。冷凍食品の自販機の前など、匂いが発生しない場所へ設置することで、集客力の向上が期待できます。周囲に人がいない場合は、香りは噴出されないため、周囲に香りが蔓延することも防ぐ仕様となっています。

 POSレジを提供する東芝テック株式会社と総合企画事業を展開する株式会社スコープは、「香りリテールメディア」サービスを共同開発しました。これは、商品の棚に香りが噴射されるデバイスを取り付け、その上部に顧客の動きを撮影するAIのカメラを設置し、映像とPOSデータを紐づけることで、香り商材の販促効果を検証するというものです。

 このサービスは、香りが特徴のハンドクリーム商品で実証実験が行われました。「香りリテールメディア+サイネージ」「サイネージのみ」「販促物なし」の3パターンで比べたところ、「香りリテールメディア+サイネージ」の売り上げ効果は、「販促物なし」と比較して1.66倍増、「サイネージのみ」と比較して1.24倍増だったといいます。

AIで香りを見つけるサービスも。嗅覚はビジネスの新たな可能性がある

 最近ではAIを活用し、消費者が自分好みの香りを見つけるためのサービスも登場しています。

 SCENTMATIC株式会社は、香りを“言語化”するAIシステム「KAORIUM(カオリウム)」を開発しました。同システムはテーブル型のインタラクティブサイネージを中心としたシステムで、サイネージの上のコースターに好きな香りを置くと、香りの特徴を表すいくつかの言葉が浮かびます。その中から「優美な」など求めているイメージに合う言葉に触れると、関連する香りのボトルが画面上でハイライトされる仕組みになっています。香りの特徴を可視化することで、自分にマッチする香りを見つけることができるサービスです。

 JR東日本スタートアップ株式会社と、においの悩みを解決するAI/IoTソリューションを提供する株式会社レボーンは、好みに合った香りの商品を提案する「香りAIマイスター」サービスの実証実験を実施しました。本システムは、レボーンが独自開発したアルゴリズムを用いて、「さわやか」「フレッシュ」のような一般的な表現と、調香師が使う「Milky」「Woody」「Herbal」といったより細かく専門的な表現を結びつける機能を搭載しています。

 実証実験では、おすすめのシャンプー3種を提案するサービスが提供されました。このサービスでは、店舗内の全17種類のシャンプーに対する調香師の評価をAIが学習した後、来店者が7つの感性キーワードの期待値を自由に調節し、好みの香りのプロファイルを作成すると、AIがその希望に適したシャンプーを提案するという流れです。これにより香りの専門知識がなくても、感性的なイメージワードからプロの評価に基づく商品選択をすることができます。

 「五感」という言葉があるように、我々人間の感覚はさまざまなものから感じることができます。匂いを感知する嗅覚は、ビジネスシーンではそこまで用いられることはありませんが、マーケティングに活用することで、これまでには無かった大きな効果をあげるかもしれません。

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