
人間が操作をしなくても、周囲の状況を判断しながら自動で作業を行う「自律型ロボット」が登場しています。彼らは人間に代わり、どのような任務をこなしているのでしょうか?
「自律型」のロボットの特徴とは
「ロボット」と聞いて、マンガやアニメに出てくる、人間同様に意思を持ったキャラクターを思い浮かべる人もいるでしょう。
もちろん、現実世界でそこまで優れた知能を持ったロボットは、現在のところまだ生まれていません。しかし、ロボットの高性能化は徐々に進んでおり、すでに自律的に動作するロボットは登場しています。それが、医療機関や建設現場で導入されつつある「自律型ロボット」です。
自律型ロボットは、人間が操作をしなくても、プログラムされた内容に基づき、周りの状況などを判断して自動で動くロボットのことです。人手不足の現場で人間のサポートをしたり、人が立ち入りにくい場所や、危険が伴う場所での作業を代替する役割が期待されています。
建設業界では、ダンプカーやブルドーザーが自律的に動いている
特に自律型ロボットの導入が進んでいるのが建設業界です。すでに多くの企業が、建設現場に自律型ロボットを配備しています。
鹿島建設が開発した「A4CSEL(クワッドアクセル)」は、ダンブカーやブルドーザーなどの建機(建設機械)に、GPS、ジャイロ、レーザースキャナなどの計測機器と制御用のPCを搭載し、それらに作業データを送信することで、建機自身が自律的に、自動で作業を行うことを可能にした施工システムです。
A4CSELの自動運転には、熟練オペレーターが多様な作業に対応した際の建機操作データが取り入れられています。加えて、各建機の位置や姿勢、周辺状況の計測結果をもとに、人や障害物の有無、走路の安全性を判断し、作業の自動停止や自動再開を自律的に行います。
すでに同システムを活用した、自律型自動ブルドーザーによる土砂の撒き出し作業や、自律型自動ダンプトラックでの運搬、荷下ろし作業が行われており、2021年には、全国3カ所の現場で稼働するACSELの建機を、東京都港区の本社から管制操作することにも成功したといいます。
自律型ロボットが、現場スタッフの事故を防ぐ
大林組では、自動・自律運転が可能な複数台の建機を、連動して協調運転できるよう制御する「建機フリートマネジメントシステム(建機FMS)」を開発し、福島県と大阪府をつないだ遠隔操作の現場実証を行いました。
現場実証では、1人のシステム管理者が遠隔地から指令を与えて3台の建機を制御し、福島県飯館村における盛土工事でダンプへの土砂の積み込み、場内運搬と荷下ろし、地面を整地する「敷きならし転圧」といった一連の作業を行いました。
自律型ロボットは、単にロボット自体が便利であるだけではなく、各ロボットが収集するデータを分析し、さらなる業務効率化に活かせるという、副次的なメリットも存在します。
大林組の取り組みでは、各建機の運行履歴データや盛土の出来形データをクラウド上へ自動保存しモニタリングすることで、定量的な進捗確認および施工計画の最適化が図られたといいます。こうしたデータによって安全性や効率性がさらに高められれば、現場を訪れるスタッフの人数を抑えることができ、省人化や建機と作業員との接触事故の発生率低減のような、作業員のウェルビーイング的な側面での効果も期待できます。
建設業界では現在、作業者の高齢化や熟練作業者の不足、作業者の大幅な減少が課題となっています。しかし、自律型ロボットの導入が進み、少人数建設業務が実現すれば、業界全体の生産性・安全性向上に寄与していくことでしょう。
自律型ロボットによる手術は、人間よりも精度が高い?
自律型ロボットの導入は、医療業界でも進みつつあります。たとえば、薬剤や検体などの院内搬送業務に活用されている「HOSPI(ホスピ―)」という自律型ロボットは、あらかじめ記憶した院内・施設の地図情報に基づいて走行経路を決定し、自律で搬送を行います。
HOSPIには高性能なセンサーが複数台搭載され、人や車いす、下り階段といったリスクのある場所を検知して、自動で停止や回避をします。さらに、ネットワーク通信によってエレベーターの呼び出し・乗り降りや、自動ドアの通過にも対応しています。
医療機関では昼夜を問わず日常的に発生する搬送作業を、ロボットが医療スタッフに代わって担うことにより、スタッフは人にしかできない他の専門業務に集中することができるというメリットがあります。
HOSPIは医療現場の「運搬」を担うロボットですが、これ以外にも、医療業界で最もシビアな場面である「手術」においても、自律型ロボットが登場しています。
2022年、米ジョンズ・ホプキンス大学のホワイティング工学部のアクセル・クリーガー機械工学助教授は、「STAR」(Smart Tissue Autonomous Robot、スマート組織自律ロボット)という自律型ロボットが、医療分野で初めて外科医の手を介さずに、豚の腹腔鏡手術を成功させたと発表しました。
このSTARには、腹腔の組織の動きや手術の作業のデータが学習されており、カメラによる撮影映像を元に、手術の計画を作成します。STARから提出された計画内容をオペレーターが選択することで、手術を行います。組織の位置が3mm以上変化した場合は、その旨をオペレーターに通知し、新たな手術の計画を再提案します。
STARによる手術は4頭の豚に対して行われ、同大学のリリースでは、いずれも「人間が同じ手術を行うよりも格段に良い結果が得られた」としています。
自律型ロボットは、人間よりもさらに効率的に、さらに高精度に、さらに安全に作業ができる特徴を備えています。もし自社の業務で、効率性や精度が求められたり、危険性が伴う作業があれば、そこには自律型ロボットが活躍する未来があるかもしれません。
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