2024.08.13 (Tue)

テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第60回)

多言語対応や旅行プラン作成も!観光業での生成AI活用法

 2023年以降、国内の観光消費動向が増加に転じています。その一方で、観光地ではオーバーツーリズムや関連業界の人手不足といった課題が顕在化し始めています。観光地のPRやプラン作成、観光施設・飲食店・宿泊所における利用者対応など、観光業には多様な業務がありますが、こうした業務には「生成AI」の活用が有効といえそうです。

観光客増加の一方で、人手不足が深刻化。今、観光業界が置かれている状況は?

 観光庁が発表した「令和6年版観光白書について(概要版)」によると、2023年の訪日外国人旅行者数は、約2,507万人。2022年の約383万人から飛躍的に増加し、コロナ禍前の2019年と比べても約79%まで回復しました。さらに、訪日外国人旅行消費額は約5兆3,065億円と、過去最高額を記録しています。

 日本人による国内旅行においても、2023年の消費額は約21兆9,101 億円に上っています。2019年比では0.1%減とわずかに劣りますが、2022年比では27.7%と大幅に増加しています。(出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査2023年 年間値(確報)」より)

 観光業界がこうした回復を見せる一方で、業界で働く人手は不足しているようです。たとえば、国土交通省関東運輸局観光部が公開した「宿泊業界説明会2023 観光業における国の施策について」という資料によると、業種別の人手不足率では、旅館・ホテルなどの宿泊業が正社員(77.8%)、非正社員(81.1%)と、ともに1位でした。

 さらに、日本銀行が2023年9月に発表した「観光産業の現状と課題」という資料によると、2022年における宿泊業の離職率は2.63%で、調査産業の平均値である1.98%を大きく上回っています。

 宿泊業だけでなく、接客スタッフが足りないというデータも存在します。2023年6月に京都市観光協会が市内の観光関連事業者に人手不足に関するアンケートを取ったところ、回答事業者の7割が人手不足を感じており、不足している職種は「接客」が46.0%で最も高い結果となりました。

 まとめると、現在の日本の観光業界は、外国人や日本人など観光客が増える一方で、その観光客に応対する働き手が不足しているという、極めてバランスの悪い状況にあるということがいえそうです。

多言語対応に旅行プラン作成、人手不足を補う生成AIが登場

 観光客が多い一方で、働き手が少ないギャップを、どのように埋めれば良いのでしょうか? そのための手段として、入力された文字に対し自動で返答する「生成AI」の活用が始まっています。

 たとえば公益財団法人大阪観光局では、公式観光情報サイトの「OSAKA-INFO」に、20以上の言語に対応できる多言語生成系AIチャットボット「Kotozna laMondo(コトツナ ラモンド)」を導入しました。

 同サービスは旅行者の質問に自然な言葉で回答するというもので、ブラウザの言語に応じて自動で表示言語が切り替わるため、ユーザーが自身で言語の設定を変える必要がありません。さらに、サイトの情報更新に合わせて自動で更新が行われるため、管理者による更新作業の省力化が見込まれています。この取り組みは、内閣官房が進める「デジタル田園都市国家構想」内で開催されたイベント「Digi田甲子園」でも評価を受けました。

 旅行のプラン作成においても、生成AIの活用がはじまっています。ナビタイムジャパンが提供する「NAVITIME Travel AI」では、ユーザーが出発地点と目的地点を指定し興味のあるテーマを選択すると、2つの地点の間で立ち寄り可能なおすすめの観光スポットを、最適な順番で巡回できる1日分のプランが、生成AIによって提案されます。

 本サービスでは、同社独自整備によるスポットデータや観光コンテンツ等の情報資産、複数地点の巡回経路探索の技術資産と、生成 AIを掛け合わせることによって、明確な旅行計画がなかったり、旅慣れていないユーザーでも、簡単に旅行プランを作成できるといいます。

生成AIの利用にリスクはつきもの。正しい知識が求められる

 このように観光業において活用が進みはじめた生成AIですが、利用の際にはいくつかのリスクが考えられます。総務省が作成した教材「生成AIはじめの一歩~生成AIの入門的な使い方と注意点~」では、次のようなリスクがあると指摘されています。

 一つは、個人情報や機密情報流出のリスクです。生成AIは利用者が入力したデータを学習データとして利用することがあります。個人情報を入力すると他者の質問の回答に使われ、情報が漏えいする危険性に加え、その情報がサイバー犯罪などに悪用される可能性も考えられます。生成AIを自社サービスに取り入れる場合には、データ管理に関わる従業員の教育やセキュリティ強化に関する対策が求められます。

 さらに、誤情報による回答や発信といったリスクも考えられます。生成AIは学習したデータの偏りや不足から、実際には存在しないデータや偽りの情報を生成してしまう可能性があるからです。生成AI自体が十分な量の学習データを有し、精度を向上することでこのリスクは軽減されていきますが、ユーザーにはこうした落とし穴があることを知った上で利用することが求められるでしょう。

 事業者側、利用者側が正しい知識をもって生成AIを使うことで、活用の場や可能性はさらに広がっていき、やがては人手不足を解消するほどの働きを見せるかもしれません。旅行に出かけた時は、こうした生成AIを使用してみてはいかがでしょうか。

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