遠隔地にいる人と、いつでも実際に会って話ができる。SFの世界ではいろんな形で描かれてきましたが、いよいよそれが現実化するかもしれない技術が発表されました。それは一体どのようなテクノロジーなのか、私たちの仕事や生活にどのような変化をもたらすのでしょうか。
TV会議やWeb会議でコミュニケーションは改善されたか?
既に企業での導入が進んでいるTV会議やWeb会議は、遠隔地でも容易に対面でのコミュニケーションを可能にし、情報伝達や社員間のコラボレーションを今まで以上に促進しています。また、会議のたびに発生する移動費や出張費を削減し、さらに移動時間の無駄を省くというメリットも見逃せません。日常的にこれらを利用している企業やビジネスパーソンにとっては、今では手放せないビジネスツールになっているでしょう。
しかし完全にFace to Faceの代替コミュニケーションになっているかといえば、またそれも微妙なところです。確かにTV会議やWeb会議で相手の顔を見ながら話せるようになったとはいえ、やはりまだお互いの距離を感じる方も少なくないはずです。
マイクロソフトが開発した「horoportation(ホロポーテーション)」という技術は、お互いの距離感を飛躍的に縮め、遠隔地でのコミュニケーションをさらに円滑にしてくれるかもしれません。
バーチャルなものをよりリアルに表現するVR(Virtual Reality=バーチャル・リアリティ)技術や、ヘッドマウントディスプレイを用いて現実世界に3D映像を重ねて表示できるホロレンズは以前から開発が進められ、既に実用化が始まっています。今回発表された「ホロポーテーション」は、現実に遠隔地に存在するものや人をリアルタイムで目の前に3D映像で映し出すことができるテクノロジーです。
離れた場所にあるものを目の前に出現させる
マイクロソフトは以前から、ヘッドマウントディスプレイを利用して3D映像を目の前に映し出す「hololens(ホロレンズ)」の開発を進めていましたが、今回のホロポーテーションはその開発コンセプトをさらに一歩進めるものです。
まずは下記の動画で、どのようなものか見てみてください。
holoportation: virtual 3D teleportation in real-time (Microsoft Research)
https://www.youtube.com/watch?v=7d59O6cfaM0
動画では、プロジェクトリーダーのシャーロム・イザディ氏によってホロポーテーションを実現させるための技術の説明が行われています。動画の前半に登場してイザディ氏と会話する男性、後半に登場する女の子はイザディ氏と別の部屋にいて、同氏はホロレンズを装着することによって彼らの3D映像を目の前で見ることができます。
ちなみに女の子はイザディ氏の実娘。次の開発プロジェクトを進める中で公私にわたり最も課題となったテーマを考えたときに、それがコミュニケーションであることに着眼し、そこからこのホロポーテーションが生まれまたそうです(娘さんと会えなくて寂しかったということですね)。
さて、このホロポーテーションを実現するためには、遠隔地にいる人物(被写体)の周囲に高性能の3Dカメラを何台も用意し、綿密に計算された位置に注意深く設置する必要があります。
以前よりマイクロソフト社では「Kinect(キネクト)」という3Dカメラを実用化し販売していますが、ホロポーテーションで使用する3Dカメラはそれを大幅に高性能化したもの。もともとキネクトは人間の骨格を追跡するように設計されていますが、すべての特徴を再構築するために人間の体の細かい部分を高い精度で感知する必要があります。
このように注意深く高精度でセンシングされた3Dデータの1つひとつを、今度は特殊なソフトウエア上で貼り合わせることにより、1個の完全な3Dモデルに再構築します。そして出来上がったのが御覧いただいた映像です。
そしてホロレンズのようなデータ受信と3D描画可能なVR装置があればどこにでもその映像をリアルタイムで転送できるというわけです。
技術的にはまだデータフレーム数や処理速度の面に課題はありますが、目標はホームシアターのように簡単に家庭などでも利用可能にすること。もちろんそうなると企業での活用が進む可能性があります。
私たちのビジネスをどう変えるのか?
これが手軽に利用できるようになれば、PCとこのホロポーテーション装置、そしてちょっとした場所さえあれば、どこでも身軽に仕事ができてしまいそうです。
今後は自動翻訳の精度向上も期待されていますので、共に活用すればグローバルなコラボレーションも格段に活発になるでしょう。
また、ワークスタイルやオフィス環境にも大きな変化をもたらす可能性を秘めています。「テレワーク」などをはじめ、社員の状況や業務内容により適した生産性の高いワークスタイルが現在でも模索されていますが、コミュニケーションの課題もホロポーテーションが実用化すればかなり解決するでしょう。
そうなると「事務所」や「オフィス」の考え方も必然的に変化せざるを得ません。現代の「同じ会社の社員が集まって仕事をする場」という意味でのオフィスは色あせた空間になり、真の意味での『新しい価値を創造する場』だけが必要とされるかもしれません。
それが実際にどのようなカタチで実現されるかはまだ分かりませんが、仕事の生産性も格段にアップし、付加価値率も相当向上しそうです。
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