2024.03.29 (Fri)

テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第50回)

バイヤーもサプライヤーも歓迎!?「自動交渉AI」

 生成AIを活用し、取引に関する交渉プロセスを自動化する「自動交渉AI」がビジネスシーンで導入されつつあります。自動交渉AIは、従来のビジネスをどう変えるのでしょうか?

生成AIが自動で交渉する時代が到来

 ユーザーの命令に基づき、学習済みのデータから文章や画像を自動で作り出す「生成AI(Generative AI)」は、ビジネスシーンでも普及しつつあります。社内用の簡単な業務連絡や、社外へ送るメールの定型文などのテンプレート文であれば、生成AIでも簡単に作成できます。

 最近では、この生成AIの技術を利用した「自動交渉AI」というものも登場しています。自動交渉AIとは、生成AIを活用して、契約や取引に関する交渉プロセスを自動化し、交渉の効率化や質の向上を支援するシステムやサービスのことです。

 具体的には、生成AIが契約書や契約条件の内容を分析し、交渉時に相手に要求すべき内容をテキストで自動生成するAIや、人間が入力した内容に返答し、スケジュールなど複雑な交渉を行うAIチャットボットなどが、自動交渉AIに含まれます。

 なお、自動走行車やドローンが互いに衝突しないよう運航管理するAIも「自動交渉AI」と呼ばれることもありますが、本稿では、従来は人と人が口頭や文章にて行ってきた交渉の業務に置き換わるAIに限定して取り上げます。

バイヤーもサプライヤーも、自動交渉AIを歓迎

 すでに海外では、ビジネスに自動交渉AIが組み込まれている例が存在します。

 アメリカの大手スーパーマーケットであるウォルマート(Walmart)社は、「Pactum AI」(パクタムAI)という生成AIチャットボットを導入し、10万社以上のサプライヤー(納入業者)との交渉を自動化しています。

 この生成AIチャットボットは、バイヤーであるウォルマート側の“代理人”として交渉の場に立ち、サプライヤーからの要求に対し、あらかじめ指示された予算額と優先事項に従って「この額ではどうか?」「こういう契約内容ではどうか?」と自動で提案を行います。AIでの交渉を望まないサプライヤーに対しては、従来通りのやり方で交渉を行います。

 生成AIチャットボットの導入は、ウォルマート側、サプライヤー側ともに好評なようです。ウォルマートでは価格合意までの交渉がスムーズに完結できるようになり、導入前と比べ数%のコスト削減に成功したといいます。サプライヤー側も、過半数以上の企業がAIによる交渉を歓迎したといいます。

数時間~数日の交渉業務が「分単位」に短縮

 ウォルマートが導入したのはPactum社のAIですが、これとは異なる、新たな価格交渉プラットフォームも誕生しています。

 アメリカのスタートアップ企業である「Nibble Technologies」社は、ECサイトにおける生成AI交渉プラットフォームを提供するスタートアップです。

 同社の自動交渉AIでは、ECサイトにおけるユーザーの離脱意図や滞在時間、ページの再訪問などのデータに基づき、ユーザーごとに交渉を行うことで、売上増加、在庫最適化、利益率の向上を狙います。たとえば、購入金額が高額な場合や購入点数が多い場合は、それに応じて割引を提案する機能も備えているといいます。

 日本でも、自動交渉AIが社会に導入されつつあります。

 NEC(日本電気株式会社)と自律調整SCMコンソーシアムは、NECの子会社の調達関連システムに自動交渉AIを連携し、サプライヤーから部品を購買する業務における納期の調整を、自動交渉AIによって行う実証実験を2023年に行いました。従来は担当スタッフが行っていた調整交渉をAIが行うことで、これまでは数時間から数日要していた業務時間を“分単位”まで短縮できたといいます。

今までは気後れして聞けなかったことも、AIなら相談できる

 ここまで挙げてきたように、顧客やサプライヤーとの交渉をAIに任せることで、業務の効率化、新たな顧客体験の創出といった効果が期待できます。しかし、実際に社会に導入するとなると、課題も考えられます。

 たとえば、交渉時における「品質」をどのように表現するのかという問題です。

 バイヤーとサプライヤーが交渉する際、商品の品質に関する話題は避けられませんが、ひとくちに品質といっても、製品によっては表現が難しい場合もあります。品質のように定性的で数値化しづらいものを、AIを介した交渉でどのように表現をするかは、大きな課題のひとつといえます。

 とはいえ、自動交渉AIで合意できなかった場合は、従来のように人と人が話し合って交渉をすれば良いだけです。比較的簡単な交渉はAIで手早く済まし、複雑で時間のかかる交渉は、従来通りのやり方で行う、という使い分けも可能です。

 交渉相手が人間からAIに変わることで、今までは「こんなことを聞くのは失礼かも」「こんな条件は通らないだろう」と気後れしていた事項も、気兼ねなく問い合わせることが可能になります。自動交渉AIが一般的になれば、バイヤー側とサプライヤー側の交渉が盛んになり、双方に納得感のあるビジネスが可能になるかもしれません。

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