2023.03.06 (Mon)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第17回)
経済効果は2兆円!女性の悩みを解決するフェムテックとは
女性従業員は、妊娠や出産といったライフステージの変化や、月経痛やPMS(月経前症候群)といった女性特有の健康課題に大きく影響を受けます。こうした課題を、女性だけが抱えるものではなく、企業や社会全体で解決していく技術として、「フェムテック」というツールが登場しています。本記事では、フェムテックとは何か、具体的な商品やサービス、企業のフェムテックの活用事例を紹介します。
活用すると2兆円の経済効果、活用しないと4,900億円の損失
フェムテックとは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語です。月経痛やPMSなどの健康課題、妊娠や出産、更年期症状など、ライフステージの変化における女性特有の課題を解決するために開発された、商品やサービスのことを示します。
経済産業省が公開している「働き方、暮らし方のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査」の資料によると、月経痛やPMSなどの症状により、生産パフォーマンスが低下することによる経済的損失額は約4,900億円と試算されています。さらに、不妊治療や更年期症状などの治療を行うとなると、仕事と治療の両立が困難となるため、経済的損失はさらに増えることが予想されます。
同資料では、社会全体でフェムテックの活用機会が促進され、上記にあげた課題などが改善・解決された場合にもたらされる経済効果は、2025年時点で約2兆円/年と推計されています。
フェムテックの活用で期待できるのは経済効果だけではありません。同資料によると、妊娠・不妊分野では出生率の向上、更年期分野では女性管理職比率・女性の正規職員比率の向上といった、社会全体における課題が改善する可能性も期待されています。
フェムテックで業務のパフォーマンスは向上する
現在国内で展開されているフェムテック関連商品やサービスには、さまざまなものがあります。たとえば株式会社エムティーアイでは、「ルナルナ」という月経管理サービスを展開しています。月経周期を管理することで、ホルモンバランスの変化による体調の変動を把握し、健康管理がしやすくなるといったメリットがあります。
近年では、月経痛やPMS、婦人科系疾患、妊活・不妊治療などの相談を目的としたオンライン診療サービスも登場し、これらを福利厚生サービスとして活用する企業も増えつつあります。
フェムテックを活用し、女性従業員の健康サポートに力を入れている企業のひとつが、丸紅株式会社です。同社では、月経痛やPMSなどの改善、更年期症状の緩和、妊活や不妊治療にまつわる悩みについて、オンラインで診療・相談できるサービスを導入しています。オンライン上で気軽に適切な治療を受けやすくなったことで、業務パフォーマンスが改善しているといいます。
小田急電鉄株式会社でも、妊活や不妊治療の相談サービスである「ファミワン」や、産婦人科に特化した相談サービスの「産婦人科オンライン」といった、オンライン相談窓口サービスを導入しています。
同社は従業員の9割が男性(運転士や車掌、駅員などの現業職の場合)と、非常に男性の割合が多いものの、女性従業員が気軽に健康上の悩みを相談しやすくなる環境づくりを進めています。しかも、上記のオンライン相談サービスを導入するにあたり、男性の現場監督者を対象としたセミナーを実施し、女性の健康課題に対する理解を深める取り組みも行われています。
男性向けのフェムテックも
フェムテックを利用するのは、女性だけではありません。男性が用いるためのフェムテックツールも登場しています。たとえば株式会社電通では、2019年に男性の育児参加をサポートするための「授乳・寝かしつけデバイス」を開発しています。これはミルクタンクを内蔵した乳房型のウェアラブルデバイスで、父親も母親と同じように、乳児を抱えながら授乳したり、寝かしつけたりすることができます。
奈良女子大学と甲南大学の研究チームは、男性が月経痛を疑似体験できる装置を開発しています。下腹部に電極パッドを装着し、電気刺激で月経痛を疑似体験したり、特殊なゴムバンドを太ももに装着し、経血が足を伝って漏れる状況を体感することで、月経時の悩みをリアルに体験することができます。
月経痛疑似体験装置は、Indeed Japan株式会社が社内イベントの一環で使用した実績があります。男性が月経痛を疑似的に体感することで、女性の働き方をサポートするための取り組みについて、より具体的に考える機会の創出に活用されています。
ひとりで抱えていた悩みは、社会で、テクノロジーで解決できる
女性特有の諸課題は、女性だけのものと思われることが多く、話題にしづらい傾向がありました。しかし、フェムテックの普及によって、そうした課題を企業や社会が正しく理解し、共に解決するための土台が少しずつ整えられています。最近では、男性更年期の治療や男性の妊活ツールといった、男性の健康課題にも目を向けた「メールテック」という造語も誕生しています。
女性が健康問題などにとらわれず、働きやすく、生きやすい環境をつくり出すことは、女性だけにメリットがあるものではありません。誰にも言えず、ひとりで抱えていた悩みを、性別を超えて共有し、助け合う環境をつくり出すことにつながります。フェムテックの活用が、新たな企業価値を創出する鍵になるといえるでしょう。
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