AIによる画像認識技術の精度が上がり、撮影された映像から一瞬で人物特定ができる時代になりました。
そんな中、画像から「感情」を認識する技術が実用化されようとしています。その技術はどのようなものか、これからどのように活用される可能性があるのでしょうか。
自ら認識技術を学習する「ディープラーニング」とは
画像認識や顔認識の技術は日に日に進化しています。顔が正面を向いていなかったり、顔や体の一部が隠れていたりしても、特定の人物の識別ができるようなレベルにまで進んでいます。
このような技術が進んだのは、AIが物事を学ぶ方法の1つ「ディープラーニング」によるところが大きいと言われています。
ディープラーニングとは、AIが自律的に物事を学ぶ「機械学習」を可能とする技術です。通常AIを含むコンピュータに何らかの判断をさせる場合は、その判断基準をすべて人間が与えなければなりませんが、機械学習であれば判断基準を人間が与える必要がなく、情報源を与えるだけで、コンピュータ自身が判断基準を試行錯誤しながら見つけ出していくことができます。
たとえば画像認識で個人を特定する場合、機械学習を使うと、AI自身が判断基準自身を生成していくので、元になる画像を一定量以上与えるだけで画像認識による人物特定などが可能になります。機械学習を使わない場合は、その人物の特徴を人間が定義して、判断基準を人間がコンピュータに与え続けるという、たいへん困難な作業を伴います。その手間を省くのが、ディープラーニングによる機械学習なのです。
事故の原因となる感情の昂ぶりをどう抑える?
こうした画像認識をさらに発展させたものが「感情認識」です。感情認識とは、顔の表情からその人の感情を読み取る技術で、すでにさまざまなアイデアをもって実用化が進みつつあります。
米ベンチャーのEyeris社では、感情認識を自動車の安全性を高めることに応用しようとしています。
米運輸省道路交通安全局(NHTSA)によると、アメリカで発生する事故の約80%がドライバーの不注意や怒りの感情によって起きているといいます。ドライバーの視線や眠気を感知する技術はこれまでも進められてきましたが、同社では「怒りの感情」を検知することに着目しました。
車内に搭載されたセンサーがドライバーの怒りの感情を検知すると、「危険度が高い」と判断して、シートベルトをしっかり締めたり、ブレーキの反応応答性を高めたりして、事故の被害を低減しようとします。さらに、ハンドルの振動や警告音によってその時の状態をドライバーに伝えることも可能です。これらにより、ドライバーを一瞬我に返らせることで、事故防止や発生時の被害抑制に対する効果を狙っています。技術がさらに進化することで、単に警告を発するだけではなく、社内照明やBGMを使って感情をコントロールするということも予想されます。
また、最近Appleに買収されたことで話題になったスタートアップのEmotient社でも、同様の技術が研究されています。こちらでは、スーパーボール(米プロフットボールリーグの優勝決定戦)の動画に映し出された大勢の人間の表情から感情を認識すること、テレビCMを見た人の反応を評価するなどなど、主にリサーチ的な使い方での応用が試みられています。
表情を読むことが顧客満足度向上につながる
Eyeris社ではまた、同社の技術を用いることで、「Joy(喜び)」「Surprise(驚き)」「Disgust(うんざり)」「Sadness(悲しみ)」「Fear(恐れ)」「Anger(怒り)」の7つを認識できるとしています。これだけの感情を素早く、正確に把握できれば、さまざまなシーンで活用できるでしょう。
たとえば店舗。来店する顧客の感情を、店舗内の行動と共に分析することができれば、店舗内の場所やさまざまなシーンで、顧客がどのような感情を抱いたかが具体的に分かります。それを元にさらに詳しく解析を進めれば、店舗設計や店舗運営、棚割り、ひいては商品戦略にまで参考になる情報を得ることができる可能性があります。
反対に顧客目線で分析すれば、店舗スタッフ対応や店のつくりが快適か不快か分かり、店舗全体の接客レベルを向上させ、満足度を大幅に向上させることも可能になります。自動車での応用のように、顧客のその時の感情によってBGMや室温度、さらに香りなどを自動的に最適化するというもの可能になるかもしれません。
さらに、サポートセンターが顧客対応を行う場合、現在は電話やメール、そしてチャットによる対応が主流でしたが、感情認識機能を備えたテレビ電話で対応することで、これまでコミュニケーションを取りにくかった遠隔地の顧客とでも、距離感を縮めて対応できる可能性があります。
これら店舗やサポートセンターなどが一丸となって「顧客の感情」を配慮した対応ができるようになれば、顧客にとっても心地よい「おもてなし」を実現することができるでしょう。
顧客対応だけではなく、リサーチ系の応用もできそうです。上記でも触れましたが、店舗での行動と同期した感情分析ができるようになれば、商品の購入動機(または購入しない理由)や、購買意欲の客観的な分析が可能になります。
「目は口ほどに物を言う」ということわざがあるように、人間の表情には多くの情報が含まれています。その情報を正確に認識することが、これからのビジネスの鍵となりそうです。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年7月22日)のものです。
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