2024.05.22 (Wed)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第52回)
訪日観光客が増えるとトラブルも増える!?オーバーツーリズムをどう解決するか
日本を訪れる外国人観光客が増加していますが、同時に想定以上の観光客が押し寄せる「オーバーツーリズム」も問題となっています。どう解決すべきなのでしょうか。
訪日観光客は、過去に例がないほど増えている
日本を訪れる外国人観光客が増えています。
JNTO(日本政府観光局)の調べによると、2024年3月の訪日外客(訪日観光客)は308万1,600人で、2023年3月よりも69.5%、コロナ前の2019年3月比と比べても11.6%多い数値を記録しました。これは、単月としては過去最高を更新で、300万人を突破したのも初といいます。
この流れは、今後も続きそうです。旅行会社のJTBが2023年12月に発表した2024年の旅行動向の見通しによると、2024年の訪日外国人旅行者数は3,310万人で、2023年比で31.3%増、2019年比で3.8%増という高い数値が予想されています。増加の背景には、2023年4月における日本の水際対策終了に伴う海外から日本への旅行のしやすさ、欧米と比べた物価の安さ、円安などが挙げられています。
さらに、日本政策投資銀行と日本交通公社が2023年10月に発表した、アジアや欧米など12カ国を対象とした調査では、「次に、あなたが観光旅行したい国・地域」として日本が他国を大きく離した1位に挙がっています。
これらの調査結果を見る限り、日本を訪れる外国人観光客は、これからも増え続けていくことが予想されます。
「次に海外旅行したい国・地域について」に関するアンケート結果
データは株式会社日本政策投資銀行・公益財団法人日本交通公社「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2023年度版」 、画像はJTBのリリースより引用
観光客の増加に伴い、各地でオーバーツーリズムが発生中
しかし、日本を訪れる観光客が増えるということは、一方で「オーバーツーリズム」(観光公害)を招くことにもつながります。オーバーツーリズムとは、観光地に観光客が押し寄せることで、地域住民の生活が困難になったり、自然環境や景観が悪化するなどで、結果的に観光地の魅力が低下することを指します。
国土交通省が2023年10月に発表した「観光の現状について」という資料によると、実際に日本のいくつかの観光地でオーバーツーリズムによる問題が発生しているといいます。
たとえば神奈川県鎌倉市では、鎌倉駅の周辺で観光客による混雑が発生。さらに、人気アニメ「スラムダンク」のモデルと見られる鎌倉高校前駅付近の踏切に観光客が殺到し、写真撮影のため多くの観光客が公道に滞留する事態が起こっており、観光客によるごみの投棄も問題になっているといいます。
京都府京都市では、主要観光地へ向かうバスを増便しているにも関わらず、それ上回る乗客が訪れることで、バスターミナルや車内に混雑が発生。さらに、街を歩く芸妓・舞妓を無断で写真撮影したり、車道に広がって歩行をしたり、私有地に無断で立ち入るなどのマナー違反も度々発生しているといいます。
京都と鎌倉では、どのようなオーバーツーリズム対策を行っているのか?
このようなオーバーツーリズムに対し、観光庁では「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」という資料を発表。観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立しつつ、地域の実情に応じた具体策を講じ、国が総合的な支援を行うとしています。
このパッケージでは、たとえば混雑対策としては、観光スポットや周辺エリアの混雑状況をデータで可視化したり、需要が高い地域では「混雑運賃」を設定することなどが挙げられています。マナー違反に対しては、言葉が通じなくてもルールが伝わるよう統一ピクトグラムを国が策定すること、私有地や文化財の防犯カメラの設置支援を行うことなどが挙げられています。
観光地でもすでにオーバーツーリズム対策は行われ始めています。京都市では、観光客がバスに殺到することを受け、バスの一日乗車券の販売を2023年で終了(利用は2024年3月まで)。そのかわり、バスに加え市営地下鉄の利用にも対応した「地下鉄・バス1日券」の取り扱いをスタートし、バスだけでなく地下鉄の利用を促進し、観光客の分散を狙っています。
2024年6月からは、京都駅と人気観光スポットを結ぶ「観光特急バス」の運行もスタートします。このバスを利用するためには、通常のバス路線の倍の料金となる500円を支払う必要がありますが、観光スポット以外の停留所を通過するため、通常のバスよりも早くたどり着けるというメリットがあります。
鎌倉市では大型連休中の鎌倉駅周辺の混雑を避けるため、江ノ島電鉄の始発である鎌倉駅と、長谷寺や鎌倉大仏などの観光スポットが集まる長谷駅の間を、徒歩で移動することを観光客に呼びかける取り組みをスタート。さらに、沿線住民が鎌倉駅の混雑の悪影響を受けないよう、沿線に住む人に対し、乗車待ち列に並ばず駅構内へ入場できる証明書を配布する社会実験も行われました。
冒頭でも触れたように、日本には現在、過去に例がないほど多くの観光客が訪れています。観光客が増えることで、トラブルの種も増えることも予想されますが、事前の対策が施されていれば、未然に防ぐことも可能です。観光客も地域住民も、互いに不満を持つことなく過ごすことができれば、観光地としての日本の世界的な評価はさらに高まっていくことでしょう。
連載記事一覧
- 第1回 出張が不要になる?新技術「ホロポーテーション」 2016.07.15 (Fri)
- 第2回 AIがオフィスの空気を管理すれば生産性は上がる? 2016.08.29 (Mon)
- 第3回 目は口ほどにものを言う、「感情認識」の新ビジネス 2016.09.28 (Wed)
- 第4回 仕事中の危険を未然に防ぐ「バイタルデータ」とは 2016.10.14 (Fri)
- 第5回 社会インフラを激変させる可能性を秘めた仮想通貨 2017.10.03 (Tue)
- 第6回 企業が仮想通貨で資金調達する時代は到来するか? 2018.03.26 (Mon)
- 第7回 東大廣瀬教授が語る「本気のVRが企業教育を変える」 2021.02.19 (Fri)
- 第8回 建設業界で注目のDX「デジタルツイン」とは 2021.09.14 (Tue)
- 第9回 中小企業こそDXに向く。町工場・今野製作所の挑戦 2021.12.10 (Fri)
- 第10回 小売業の広告販促DX「リテールメディア」の始め方 2021.12.10 (Fri)
- 第11回 「小売業再建のプロ」が語る、利益率UPのヒント 2022.03.01 (Tue)
- 第12回 年4億円コスト削減を達成した地方製造業のIoT活用術 2022.03.04 (Fri)
- 第13回 「幻の日本酒」が安定供給できた裏にデータ活用あり 2022.06.27 (Mon)
- 第14回 いまどきの企業PRに不可欠、Twitterスペースとはなにか 2022.11.15 (Tue)
- 第15回 雇用確保につながる可能性も、覚えておきたい「給与のデジタル払い」2022.12.21 (Wed)
- 第16回 なぜ世界の小売店が「リテールメディア」に参入しているのか?2023.03.06 (Mon)
- 第17回 経済効果は2兆円!女性の悩みを解決するフェムテックとは2023.03.06 (Mon)
- 第18回 バブル期京都でDX実現! 24時間稼働の無人工場2023.03.15 (Wed)
- 第19回 どうする「2024年問題」物流DXの課題と事例2023.03.30 (Thu)
- 第20回 なぜ企業や自治体が「VTuber」を起用するのか? 2023.03.30 (Thu)
- 第21回 未来を予測し先手を打つ。「AI需要予測」の活用術2023.03.30 (Thu)
- 第22回 顧客の本音を読み解く「センチメント分析」の活用法2023.03.30 (Thu)
- 第23回 「気象ビッグデータ」が売上増とロス削減に貢献する2023.03.30 (Thu)
- 第24回 消費者から信頼感を得るには、トレーサビリティ向上が不可欠2023.04.28 (Fri)
- 第25回 健康のDX「パーソナライズド・ニュートリション」2023.09.08 (Fri)
- 第26回 「Web3」がもたらすビジネスや社会への影響とは2023.09.08 (Fri)
- 第27回 「観光DX」は日本の観光業をどう変えるのか?2023.10.04 (Wed)
- 第28回 大手企業も導入「リーガルテック」で何が変わる?2023.10.04 (Wed)
- 第29回 情報漏えいの原因を解析「デジタルフォレンジック」2023.10.04 (Wed)
- 第30回 関東大震災から百年、災害対策はどう進化したのか?2023.10.04 (Wed)
- 第31回 ITに疎くてもDXはできる!老舗食品企業の挑戦2023.11.22 (Wed)
- 第32回 極地でも高速通信「スターリンク」の可能性2023.12.21 (Thu)
- 第33回 インフラの「老朽化」は、最新技術でメンテナンスできる2024.01.24 (Wed)
- 第34回 新たな個人データ収集方法「ゼロパーティデータ」とは2024.01.24 (Wed)
- 第35回 2024年4月から限定解禁「ライドシェア」の可能性2024.01.24 (Wed)
- 第36回 AIが奪うのは仕事ではなく電力?生成AIのエネルギー事情2024.02.09 (Fri)
- 第37回 トークン経済で市場に好循環は起こるのか?2024.03.01 (Fri)
- 第44回 バス運行を効率化「AIオンデマンド交通」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第45回 生成AIとの対話が成長を促す「AIコーチング」2024.03.29 (Fri)
- 第46回 広告に続々登場「AIタレント」の弱点とは2024.03.29 (Fri)
- 第47回 訪日客が日本のファンになる鍵は「AI」にあり2024.03.29 (Fri)
- 第48回 脳と機械が繋がる「ブレインテック」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第49回 打ち上げが本格化。民間企業の宇宙ビジネスの今2024.03.29 (Fri)
- 第50回 バイヤーもサプライヤーも歓迎!?「自動交渉AI」2024.03.29 (Fri)
- 第51回 医療・建設業界で導入が進む「自律型ロボット」とは2024.03.29 (Fri)
- 第42回 6G、7Gで世界はどう変わるのか?「Beyond 5G」の可能性2024.03.22 (Fri)
- 第43回 脱炭素の効果はブロックチェーンで証明できる2024.03.29 (Fri)
- 第38回 総務省が認可「Wi-Fi 7」とは何か?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 総務省が発表「モバイル市場競争促進プラン」とは?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 インボイスにも対応「IT導入補助金2024」を解説2024.03.29 (Fri)
- 第40回 文章生成AIの理想的な使用法とは?東京都がガイドラインを公開2024.03.29 (Fri)
- 第41回 新たなテクノロジー「光の半導体」とは何か?2024.03.29 (Fri)
- 第52回 訪日観光客が増えるとトラブルも増える!?オーバーツーリズムをどう解決するか2024.05.22 (Wed)