2023.03.30 (Thu)

テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第19回)

どうする「2024年問題」物流DXの課題と事例

 インターネット通販の普及拡大に伴い、宅配ニーズが増加していますが、一方でその運び手となるドライバーは不足しています。2024年4月からはトラックドライバーの労働環境改善のため、ドライバーの時間外労働が規制強化されますが、その結果、輸送能力の大幅な低下が懸念されています。こうした運輸の現場が抱える課題は、物流のデジタル化(物流DX)で解決できる可能性が高まります。

深刻化するドライバー不足と「2024年問題」

 物流業界におけるドライバーの数は、年々減少しています。経済産業省・国土交通省・農林水産省が2022年9月に発表した「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」という資料によると、物流分野における労働力不足は近年顕在化しており、トラックドライバーが不足していると感じている企業は増加傾向にあると指摘しています。

 その一方で、インターネット通販の需要は急増傾向にあり、2021年までの5年間で宅配便取扱量の増加幅は23.2%(9.34億個)に上ります。加えて、荷物の多頻度化・小ロット化により、トラックに無駄なスペースが生じ、積載率の低水準も課題となっています。

 こうした現状に追い打ちをかけるのが、2024年度に施行されるトラックドライバーの時間外労働の規制強化です。これまで上限のなかった時間外労働時間が年960時間に規制され、月60時間以上の時間外労働の賃金割増率が、中小企業では25%から50%に引き上げられます。

 この規制強化は、ドライバーの労働環境の改善を目的としたものですが、一方で同じ人員体制による長距離輸送は簡単ではなくなります。NX総合研究所による物流需給予測によれば、2030年には需要全体の34.1%(9.4億トン)にあたる荷物が運べなくなると推計されています。

 このドライバーの規制強化は、業界では「物流の2024年問題」と呼ばれることもあり、全産業において輸送コスト増などの影響が及ぶ可能性があります。一方で、パーソルホールディングスが行った意識調査によれば、この問題に対する認知度は産業全体で5割にとどまっており、荷主に対するさらなる理解促進が必要といえます。

すでに物流DXを進め、成果を出している企業がある

 ここまで挙げたように、物流業界は人手不足と規制強化に直面していますが、一方で一部の企業では、すでにこうした問題をさまざまなテクノロジーを導入することで解決しているケースもあります。ここからは、すでに現場で行われている“物流DX”のいくつかの例を取り上げます。

 オフィス用品などを扱うEC企業のアスクルでは、AI活用配送システム「とらっくる」というテクノロジーを採用しています。これは、自社の物流網が蓄積したビッグデータをもとに、配送先の駐車スペース情報や道路の混雑状況を加味した配送ルートを自動生成し、リアルタイムで再配達を指示するなどの機能を備えたシステムです。同社はパートナーの運送会社にこのシステムを開放することで、運転以外の業務負担の軽減を図りました。

 同社はさらに、配送指定日を遅く設定した顧客にポイント還元を行う取り組みを行っています。これにより、配送日を分散させることで夜勤スタッフの手配を減らし、コスト削減効果が出ているといいます。

 通信機器企業のOKIでは、複数車両で荷物を配送する分割配送のルート計画をつくる独自のAI「コスト最小型ルート配送最適化AI」を開発。さらに、熟練スタッフに依存していた配車技量もAI化しました。

 このAIを利用すれば、渋滞や通行止めといった配送リスクの高いルートが除外でき、さらに有料道路の利用有無を計算したり、搬入の時間帯を分散させることができるといいます。

 物流サービス会社の日本パレットレンタルでは、登録企業の物流ルートのデータをもとに、荷主企業同士の共同輸送をAIでマッチングするサービス「TranOpt」を開発。経路や想定運賃、荷量の需給、季節変動を考慮した詳細なマッチングを行い、異業種間の共同輸送を促進しているといいます。

 NTTデータは、荷待ちや荷積み・荷下ろしなど配送業務のどのプロセスでどの程度の時間的コストが発生しているかを特定するアセスメントシートを作成。その算出結果に加え、改善策を講じた場合に期待できる輸送費などのコスト削減額を荷主に提示することで、荷主都合で発生するBtoB配送の非効率解消に寄与しています。

ドローン配送・自動配送ロボットも実用化へ

 ドライバー不足解消に向けた物流DXとしては、ドローン(小型無人機)や自動配送ロボット、無人トラックなどの配送の自動化・省人化も取り組みが進みつつあります。ドローンについては2022年12月の改正航空法施行で市街地上空での自動飛行が可能となり、実用化に向けて続々と開発が進んでいます。

 日本郵便は、2023年度からドローンによる郵便配達を本格始動する方針で、人手不足が深刻な山間部や離島から導入するとしています。既に山間部でのドローン配送実用化をしているセイノーホールディングスは、同年度中に都市部での配送サービスの実用化をめざしています。ほかにも、ANAホールディングスとセブン-イレブン・ジャパンによる店舗から離島・山間部へのドローン配送も2025年度に開始予定です。

 2023年には道路交通法改正で自動配送ロボットが遠隔操作で公道を走行可能になる予定で、実用化に向けて産官連携の取り組みが活発になっています。楽天グループは、茨城県つくば市内の小売店・飲食店と連携し、自動配送ロボットによる商品配送サービスを提供開始。スマートフォン向けの注文サイトや、注文と配送を一元管理する店舗向けシステムを開発しており、今後のサービス拡大をめざしています。

 こうした運送業務のスマート化は、運輸業界の人手不足解消はもちろん、無駄な配送が減ることでトラックが排出するCO2を削減する効果にもつながります。物流の2024年問題に頭を悩ませている企業は多いかもしれませんが、物流DXが解決の糸口となることでしょう。

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