2024.03.29 (Fri)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第49回)
打ち上げが本格化。民間企業の宇宙ビジネスの今
一般企業が宇宙ビジネスに参画し、その市場規模は2040年までに100兆円規模に達すると予測されています。宇宙ビジネスではどのようなプロジェクトが進行しているのでしょうか?
民間企業が宇宙ビジネスに続々参入
2024年1月、日本の無人探索機「SLIM」が月に着陸したことが話題を呼びました。このSLIMを打ち上げたのは、国の研究開発法人であるJAXA(宇宙航空研究開発機構)ですが、実は民間企業も、宇宙空間に挑み続けています。
2022年12月には宇宙ベンチャー企業の株式会社ispaceが、月面着陸船を打ち上げたと発表しました。このチャレンジは翌2023年4月に失敗したことが発表されましたが、同社はすでに、2024年内に再度打ち上げを行うことを発表しています。
さらに、キヤノン電子、清水建設、IHIエアロスペース、日本政策投資銀行によって2018年に発足した宇宙スタートアップのスペースワン株式会社は、2024年3月13日、小型ロケット初号機「カイロス」の打ち上げを行いました。こちらはロケットに搭載していた人工衛星を、宇宙空間の軌道に投入することが目的でしたが、残念ながら打ち上げ後に爆発し、チャレンジは失敗に終わっています。
宇宙ビジネスの拡大は、あの世界的実業家のおかげ?
ipsace社やスペースワン社のように、宇宙を舞台にビジネスを行う企業は年々増加しており、市場規模は拡大し続けています。
2023年4月に経済産業省が発表した資料「経済産業省の宇宙産業振興施策について」によると、2021年時点における「宇宙産業」の市場規模は、世界全体で約2,794億ドル(約30兆円/レートは当時のもの)規模で、2040年には100兆円規模まで伸びると予測されています。
同資料では宇宙産業を「地上設備(テレビ、カーナビ)」「衛星サービス(通信・地球観測)」「衛星製造」「打ち上げサービス」の4つに分類しています。市場規模で見た場合、地上設備(約1,420億ドル)と衛星サービス(約1,180億ドル)の2ジャンルが、全体の90%以上を占めています。
特に「衛星サービス」については、現在も数多くの商業衛星(商業目的の人工衛星)が打ち上げられており、積極的な投資が行われています。内閣府が発表したデータによると、2022年に世界で打ち上げられた人工衛星の数は2,368機で、このうち商業衛星は全体の約86%に当たる2,042機。2013年の37機の約55倍に増加しています。
この2,042機の商業衛星うち1,632機は、世界的な実業家であるイーロン・マスク氏が設立した米SpaceX社のものです。同社は衛星通信サービス「Starlink」で使用する小型衛星を大量に打ち上げており、2023年6月時点で4,000機を超える人工衛星を打ち上げています。
一方、日本の企業が運用している商業衛星の数は、2013~2022年の累計で27機のみ。しかも、いずれも自国のロケットではなく、他国のロケットで打ち上げられたものとなります。日本における人工衛星を用いた宇宙ビジネスは、まだまだこれからといえそうです。
宇宙ビジネスが“軌道に乗る”日はいつ来る?
このように人工衛星を用いたビジネスでは遅れをとっている日本ですが、現在さまざまなミッションを掲げた企業が、宇宙ビジネスに続々と参入しています。
たとえば、「宇宙旅行」のビジネスに挑戦している企業もあります。宇宙ベンチャーの株式会社SPACE WALKERでは、有人宇宙飛行用の宇宙船の素材やエンジンなどの研究開発を進めており、ロケットのような“使い捨て”ではなく、繰り返し利用できる“再利用”型の宇宙船の開発を目指しています。同社は2029年の有人飛行を目指しています。
PDエアロスペース株式会社も有人の宇宙船を開発する宇宙ベンチャーで、SPACE WALKER社と同様、再利用型の宇宙船を目指しています。同社は2023年6月に、沖縄県下地島にて無人航空機を打ち上げました。
宇宙空間に漂うゴミ「スペースデブリ」の回収をビジネスとする企業も存在します。株式会社アストロスケールは2024年2月、スペースデブリに接近し、デブリの状況の調査を行う人工衛星「ADRAS-J」の打ち上げに成功し、軌道に投入されたことを発表しました。同社はこれを“世界初の試み”としています。
NASAのチャレンジにも、企業が参画しています。NASAが提案した月面探査プログラム「アルテミス計画」では、トヨタ自動車と三菱重工業が月面探査車を開発しています。このプログラムでは2026年以降に月面に人類や物資を運び、月面拠点を建設して、月で人類が持続的な活動を送ることを目指しています。
宇宙ビジネスは今後も世界規模で拡大していくことが予想されますが、チャレンジには失敗がつきものです。宇宙への一歩を踏み出すまでに、何十回、何百回もの失敗を伴う可能性があります。「失敗は成功のもと」とはいうものの、いつまで経っても成功しないと、ビジネス自体が破綻してしまう恐れもあります。
宇宙ビジネスが、文字通り軌道に乗る日はいつ来るのでしょうか。雲の上の宇宙空間というブルーオーシャンを目指す人類の挑戦は、ここからが本番です。
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