2024.12.20 (Fri)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第75回)
誤差はセンチメートル級。衛星測位システム「みちびき」が導く未来
「GPS」をはじめとする衛星測位システムは、今や私たちの生活に欠かせない技術です。日本における同システムは、現在は4機体制で運表されていますが、2026年度に7機体制、2030年には11機体制への拡張を予定しています。
なぜ日本では現在、衛星測位システムが増強されているのでしょうか?本記事では、衛星測位システムの現在と未来を解説します。
その測位誤差は「センチメートル級」
スマートフォンやカーナビには、現在位置を地図上に示す機能が搭載されていますが、これは衛星測位システムのはたらきによるものです。衛星測位システムは、地球のはるか上空を周回する人工衛星と通信を行い、さまざまなものの現在位置を測位し、その情報を画面上に表示します。
こうした衛星測位システムは、俗に「GPS」と呼ばれることがありますが、GPSは厳密には1980 年代にアメリカが開発した衛星測位システムのことを指します。衛星測位システムにはロシアの「GLONASS」、ヨーロッパの「Galileo」などがあり、これら衛星測位システムをまとめて「GNSS」(Global Navigation Satellite System、全球測位衛星システム)と呼びます。
日本もGNSSを保有しています。それが、2018年に管理・運用を開始した「みちびき」です。みちびきは日本の真上あたりを飛行する測位衛星で、GPSとともに測位のための電波を出しています。
みちびきの最大の特徴は、測位誤差が世界トップレベルの「センチメートル級」であることです。衛星測位サービスを高精度かつ安定的に供給し、デジタル基幹インフラとしての役割が期待されています。
日本は現在、みちびきのさらなる強化を目指しています。内閣府が2023年に発表した「衛星測位に関する取組方針」によると、2026年には「他国の衛星測位システムに頼らず、たとえ1機を喪失しても機能・性能を維持する」ために、現状の4機体制から7機体制、2030年には「日本の東西にも軌道を持たせる」ために11機体制にするとしています。同時に提供するサービスも拡大し、GPSの補完・補強、災害危機時のアラート機能の実装も目指すとしています。
災害時でも途切れない放送や、トラックのCO2排出量の予想が可能に
民間企業でも、みちびきを活用した事例が増えています。
たとえば山口県の放送会社である山口放送は、2023年度に「『みちびき』災害・危機管理通報を活用した被災対応FMラジオ放送システムの実証」を実施しました。同局では災害時にも多くの人に情報を伝えるため、FM送信所からの情報伝送を受けて地域に放送する「補完中継局」の整備に力を入れていましたが、ネットワークの一部が被災した場合、ラジオ放送が継続できなくなるという課題がありました。
そこで山口放送は、日本通信機とNHKテクノロジーズと共同で、みちびきから災危通報(※)受信する時刻同期システムを開発。ネットワークの一部が途絶した場合でも、自動放送により災危情報を途切れなく提供できるFMラジオ放送システムを構築しました。
※災危通報…防災機関から発表された地震や津波発生時の災害情報など、危機管理情報をみちびき経由で送信する災害・危機管理通報サービスのこと
2024年1月には、LocationMind株式会社とNEXT Logistics Japanが共同で、みちびきの高精度位置情報と信号認証技術を利用した「CO2排出量モニタリング支援ソリューションの実証実験」を開始しました。
この実証実験は、輸送車両によるCO2排出削減を目的としたもので、みちびきによってトラックの正確な位置情報を取得することにより、従来よりも緻密なCO2排出量の算出が可能になったといいます。将来的には、CO2の削減だけではなく配送効率の向上など、運送物流事業者と荷主企業の双方に対して付加価値を提供することが可能になるといい、現在もその実現に向けて取り組みが行われています。
同じく2024年1月には、オーシャンソリューションテクノロジー株式会社が、「みちびきを利用したAIによる漁業操業情報の自動作成の実証」に取り組んでいることを発表しました。水産業界が抱える課題には、「高齢化による後継者不足」と「水産資源の大幅な減少」があり、同社はこの課題に向き合うため、船に機器を取り付けるだけで、漁業における操業の詳細を自動で記録・分析するサービス提供を開始しました。
このサービスでは、これまでの操業日誌や航路情報などのデータと、「みちびき」からの位置情報データをAIが分析することにより、漁業にかけられた時間や燃料消費量などのコスト(漁獲努力量)を正確に推測することが可能になりました。経験の浅い漁業者でも、より水産資源の多い漁場で操業が行えるといいます。
すでに400近い製品が誕生。日本の未来を導く存在に
みちびきに対応する製品数は、2023年末時点で「429」に上っています(内閣府「準天頂衛星システムみちびき『衛星測位に関する取組方針』2024の策定」より)。例えば、災危通報を受信して表示するスマートウォッチや、自動運転運支援技術を搭載した電気自動車、自動航行や自動離着桟を可能とする船舶など、新しい製品・サービスが続々と生まれています。
みちびきのさらなる利活用を促す環境整備も進行中です。国内戦略としては、政府のデジタル・スマート計画との連携強化のほか、スマート農業、地殻・海洋のモニタリング、防災・減災、インフラ管理などを包括した「地理空間情報社会(G空間社会)」への取り組みが進んでいます。
さらに海外戦略としては、国連などの国際的な場で環境・制度の協議・整備を行うほか、ベトナム、フィリピン、タイ、カンボジア、インドネシアなど共に、国家間で連携した高精度測位サービスの検証なども実施しています。
今後もみちびきを活用した新たな商品やサービスが誕生し、我々の暮らしがより便利に、より快適になる可能性も十分に考えられます。みちびきはその名の通り、我々の未来を導く存在といえるかもしれません。
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