2024.07.11 (Thu)

テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第53回)

ウェブアクセシビリティが義務化。どう対処する?

 2024年4月、障害者差別解消法が改正され、障害のある人に対する「合理的配慮」が、国や自治体と同じように民間事業者に義務付けされました。これにより企業のサイトにも、誰もが情報やサービスを利用しやすくする「ウェブアクセシビリティ」の向上が求められています。ウェブアクセシビリティは、どうすれば向上できるのでしょうか?

なぜ2024年に、ウェブアクセシビリティが求められているのか?

 「ウェブアクセシビリティ(Web Accessibility)」という言葉をご存知でしょうか。これは、高齢者や障害者を含め、年齢や利用環境に関わらず、誰もがウェブ上で提供される情報や機能、サービスを支障なく利用できることを意味する言葉です。

 具体的には、キーボード操作だけでウェブ上のすべての操作ができたり、写真やイラストなど画像が示す情報に代替テキストを付与し、視覚に障害がある方でも使いやすいサイトにするなど、あらゆる人でもサイトが使えるよう、配慮が行き届いたサイト設計・運用を行うことを指します。

 このウェブアクセシビリティについて、注目しているビジネスパーソンは多いことでしょう。というのも、2024年4月、障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)の改正により、企業のサイトにも、高いウェブアクセシビリティが求められているからです。

 同法では、障害のある人に対する合理的配慮(※)が、国や自治体と同様、民間事業者にも義務付けられました。企業が運営するサイトにも合理的配慮が必要となり、規格(JIS X 8341-3:2016)に準拠し、ウェブアクセシビリティを確保することが義務化されます。

※合理的配慮…障害のある人が、社会生活の中にあるバリア(障壁)を取り除くために何らかの対応を必要としている場合、役所や事業者が、負担が重すぎない範囲でそれに対応すること

「動画サイトに字幕が無い」もウェブアクセシビリティ的にマイナス

 ウェブアクセシビリティは世界中で導入されおり、代表的なものとしては「WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)」というガイドラインが存在します。

 欧州では2025年6月より、「European Accessibility Act」という新ガイドラインが適用される予定です。このガイドラインでは、EU領域内で提供されるEコマース、ウェブサイト、モバイルアプリなど、すべてのウェブサービスのアクセシビリティが対象となります。

 最近では日本のウェブサービスやアプリが海外進出するケースもありますが、当然ながらこうしたガイドラインが設けるレベルをクリアする必要があります。

 ガイドラインをクリアしない場合、訴訟のリスクを抱える恐れもあります。Accebility.comというサイトの調べによると、2023年のアメリカにおけるウェブアクセシビリティ関連の訴訟件数は、2,281件を記録したといいます。過去にはNetflixやAmazonなどの動画配信サイトに対して、聴覚に障害のある人が字幕の付与を求めて提訴し、サイト側が敗訴した例もあります。

 日本の改正障害者差別解消法では、企業が違反したとしても直ちに罰則が課されることはありませんが、障害のある方の権利利益の侵害に当たるような差別が繰り返し行われ、かつ自主的な改善が期待できない場合は、その事業者が行う事業の担当大臣が報告を求める場合もあります。その際、虚偽の報告をしたり、報告を怠った場合は、罰則(20万円以下の過料)の対象になります。

 ユーザーの利便性のためにも、企業イメージを失墜させないためにも、ウェブアクセシビリティへの対応は欠かすことはできないといえるでしょう。

ウェブアクセシビリティを高めるためのツールが存在する

 とはいえ、ウェブアクセシビリティについて最近ようやく知ったという企業の担当者が、自社サイトのウェブアクセシビリティを強化するというのは、簡単なことではありません。どうすれば良いのでしょうか?

 最近では、複雑な知識やスキルがなくとも、自社サイトのウェブアクセシビリティの足りない点が確認できるツールが登場しています。

 たとえばマイクロソフト社が提供するAIサービス統合管理プラットフォーム「Azure AI Studio」は、音声でのやり取りでチャットアプリを作成できる機能や、視力や認知機能に障害をもつ人に向けたダークモード画面などが簡単に利用できます。障害を持った従業員の視点を取り入れることで、インターフェースや機能のアクセシビリティの強化がしやすいツールといえるでしょう。

 このほか、イスラエルのスタートアップ企業であるEqually AI社は、OpenAIの生成AIツール「ChatGPT」の機能を活かし、Webサイトにおけるアクセシビリティの問題の特定、修正、監視を迅速に行うプラットフォーム「Flowy」を開発しました。プログラミング知識やスキルを持たないノーコーダーでも、簡単に修正の実装の判断ができるといいます。

 ウェブアクセシビリティの基準を満たしているかを評価するツールとしては、総務省の「みんなのアクセシビリティ評価ツール:miChecker」があります。このツールでは、音声読み上げソフトを使用した際のユーザビリティの確認や、色覚に障害のある人にサイトがどのように見えているかをシミュレーションすることが可能です。

ウェブアクセシビリティは、サイトの「合理的配慮」である

 前述のとおり、改正障害者差別解消法ではウェブアクセシビリティを行わないことによる罰則は基本的には無く、努力義務とされています。

 しかし、デジタル庁の資料「ウェブアクセシビリティ 導入ガイドブック」によると、日本にはウェブアクセシビリティの恩恵を受ける人は日本だけで少なくとも428万人以上いるとしており、しかも人数が年々増加しているといいます。

 ウェブアクセシビリティを放置しても、基本的には罰則がありません。しかし、ウェブアクセシビリティを確保すれば、障害のある人や高齢者、色覚特性のある人など、400万人以上の人が自社サイトを訪問する可能性が生まれます。

 ウェブアクセシビリティによって、障害のある人のサポートを行うことは、これまで開拓できなかった新規顧客を獲得することにも似ています。ビジネスの一環として、ウェブアクセシビリティという「合理的配慮」をより推進してみてはいかがでしょうか。

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