2024.03.01 (Fri)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第37回)
トークン経済で市場に好循環は起こるのか?
日本政府は現在、経済の強靭化を図る手段の一つとして、ブロックチェーン技術を基盤とした経済圏「トークン経済」の可能性を探っています。どのような経済なのでしょうか?
トークン経済は、従来の経済と何が異なるのか?
コロナ禍や不安定な国際情勢によって物流や資源供給が鈍化、さらには円安の加速やエネルギー資源の輸入価格の高騰など、日本経済ではここ数年の間にさまざまな問題が発生しています。
そんな中、日本政府は現在、社会情勢や物理的な距離などに影響を受けず、経済の強靭化を図る手段の一つとして、暗号資産(仮想通貨)など、ブロックチェーン技術を基盤とした経済圏「トークン経済」の可能性を示しています。
ブロックチェーンを活用した暗号資産といえば「ビットコイン」が有名で、すでに世に誕生してからしばらく経ちます。ビットコインのような、ブロックチェーン上における暗号資産はトークン(Token、英語で「代用貨幣」の意味)と呼ばれ、このトークンを媒介とし、価値の「共創・保有・交換」を行う経済のことを、経済産業省では「Web 3.0」、もしくは「トークン経済」(トークンエコノミー)と定義しています(以下、トークン経済)。
このトークン経済の世界では、売る側も買う側も、トークンが鍵となります。売る側は、自身が販売するデジタルデータにNFT(非代替性トークン、Non-Fungible Token)を付与することで、商品のデータ偽造が困難になり、商品の真正性が担保されます。一方の買う側は、基本的には売る側に対して、トークンを直接支払う形で取引を行います。
加え、口コミサイトに投稿した場合、そのユーザーに対しサイト運営者側が報酬としてトークンを支払うということも可能になります。トークンはブロックチェーンで管理されるため、管理費や仲介手数料が不要というのもメリットです。
トークン経済では、円やドルといった既存の通貨を使用せず、基本的にはトークンによって取引を行います。そのため、「円高」「円安」といった現行通貨の価値変動の影響は、基本的には受けません。トークンをわざわざドルやユーロに変える必要もなく、トークンで海外の商品を直接購入したり、海外へ直接販売することも可能です。
トークン経済では、実際にどのようなビジネスが始まりつつあるのか?
日本や海外では、いくつかの企業において、すでにトークンを活用したビジネスがスタートしています。
国内のスタートアップ企業であるスタートバーン株式会社では、アート作品に対しNFTを発行し、ブロックチェーン上で作品の流通経路を管理することで、作品の真正性を担保するブロックチェーンインフラ「Startrail」を構築しています。デジタルデータの作品はもちろん、オフラインの作品もNFCチップ(近距離無線通信チップ)を埋め込み、そのチップ内のデータにNFTを発行することで、作品の流通経路を、作品の媒体を問わずに追跡し、作品の価値を長期的に伝える体制を採用しています。
加えて、ブロックチェーン上でNFTの取引を行う際、インセンティブの条件をNFTに設定し、取引のたびにクリエイターへの適正な収益を還元する仕組みを構築しています。これらはファッションやアート領域におけるクリエイティブな活動を支援する新たな仕組みとして、経済産業省や文化庁による市場活性化の実証実験にも用いられています。
海外で運営されているスポーツファンのためのプラットフォームの事例も存在します。ブロックチェーンインフラ上に構築されたプラットフォーム「Socios.com」では、ユーザーがファントークンを購入し、そのトークンの所有数によって、応援するクラブチームのファンイベントや特典を得ることができます。Socios.comとパートナーシップを結んでいるクラブチームは、ファントークンの売上から収益を得ることが可能です。
加えて、Socios.comで用いられるファントークンは、「Bitcoin.com Exchange」などの仮想通貨取引所で売却(転売)できます。プラットフォーム内だけの利用にとどまらず、ファントークンの二次利用といった仕組みが拡大すれば、トークンによって新たな市場を形成する可能性も期待できます。
トークン経済を支える人材が海外に流出している?
トークン経済が活性化することで、従来の経済活動とは異なった形での市場拡大が期待できますが、経団連が発表したレポートによれば、トークン経済がさらに発展するためには、法人や投資家を中心に、トークンの保有・投資・流通をさらに促進させる必要があるとしています。
それ以外にも、Socios.comのような二次流通市場まで派生するようなトークンビジネスについては、現状の日本では対応できる法令が整備されていません。法整備がままならない状況では、参入する企業や人も増えず、新たなトークンビジネスの創出はあまり進まないかもしれません。
シンガポールやアラブ首長国連邦では、暗号資産関連ビジネスを行う企業に対し、優遇税制を設けるなどの支援策を講じており、企業誘致が先行しています。経済産業省ではこうした諸外国の動きもあって、優秀な人材や企業が、より良い事業環境を求めて海外に流出してしまう点を懸念しています。
トークン経済が日本国内で普及していくためには、トークンに関する税、会計、知財などの法制度をはじめ、トークンに不安を抱える人を安心させるような取り組みが必要といえるかもしれません。
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