2024.03.29 (Fri)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第40回)
文章生成AIの理想的な使用法とは?東京都がガイドラインを公開
多くの地方自治体が、文章生成AIを業務に使用する際のガイドラインを公開しています。東京都の資料によれば、文章生成AIには向いている業務と向かない業務があるといいます。
多くの市区町村が、文章生成AIのガイドラインを公開している
2023年、文章を自動で生成するAI「ChatGPT」が誕生しました。
ChatGPTは、「プロンプト」と呼ばれる命令を入力することで、その命令に応じた文章を自動で作成する点が特徴です。そのため、うまくプロンプトを活用すれば、メールなどビジネス文書を作ることにも使用できます。
実際に、すでに文章の作成に活用しているという企業もあるかもしれません。とはいえ、生成AIの使用に慣れていない場合は、ビジネスのどのような場面でどのようにプロンプトを入力すれば良いのか、よくわからないという企業もまた多いでしょう。
そんな中、東京都を始めとするいくつかの地方自治体では、職員が生成AIを業務に使用するガイドラインを発表しています。一体、どのような使用方法があるのでしょうか?今回は、東京都が2023年8月に発表した「文章生成AI 利活用 ガイドライン Version 1.2」を元に紹介します。
文章生成AIを使用するうえで、守らなければいけないこととは?
東京都のガイドラインでは、まずは文章生成AIの利用環境と、職員が守るべき利用上のルールが紹介されています。
利用環境は、都のデジタルサービス局が整備した、Microsoft Azureの環境上で使用できる文章生成AIサービス「Azure OpenAI Service」に限定。さらに、入力データが学習目的で利用されず、職員の入力データがサーバー側に保存されない「オプトアウト機能」を利用することも明記されました。
利用上のルールは大きく以下の4点に分けて紹介されています。
【1】個人情報等、機密性の高い情報は入力しないこと(情報漏えいを防ぐため)
【2】既存の著作物に類似する文章の生成につながるようなプロンプトを入力せず、回答を配信・公開する場合は、既存の著作物に類似しないか入念に確認すること(著作権保護のため)
【3】文章生成AIが生成した回答の根拠や裏付けを必ず自ら確認すること(内容の正確性のため)
【4】文章生成AIの回答を対外的にそのまま使用する場合は、その旨を明記すること
特に【3】については、AIの回答には最新の情報が反映されていなかったり、偏った価値観やアンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)が反映される恐れがあるとしています。
文章生成AIは、現在の日本の首相の名前を答えられない?
ガイドラインでは、使用上の注意だけでなく、生成AIの効果的な活用方法も紹介されています。これは、実際に都のデジタルサービス部が試したもので、行政での利用に向いているものと不向きなものがあったといいます。
特に向いているものとしては、要約や文案作成といった「文書作成の補助」、考えの整理などの「アイディア出し」、マクロやVBAといった「ローコード等の生成」の3点が挙げられています。
一方で、最新情報や正確性が必要な情報の検索や、数学的な計算を命令した場合、誤回答が見られたといいます。たとえば「2023年7月現在の日本の現職の総理大臣を教えて下さい」という命令をAIに出した際、その答えは「2023年7月現在、日本の現職の総理大臣は存在しません。ただし、現在の日本の総理大臣は、2021年9月現在、菅義偉(すが・よしひで)氏が務めています。」という内容だったといいます(正しくは2021年10月より岸田文雄総理大臣)。
理想的な文章を作るためにはコツが必要
資料ではさらに、質の高い回答が得やすいプロンプトのコツも紹介されています。
コツとしては、「【A】文章の書き手の立場をはっきりと定義すること」「【B】文章の使用目的・使用背景を具体的に指定すること」「【C】文字数や箇条書きなど、出力形式を指定すること」の3点が挙げられています。
具体的には、【A】には「あなたは東京都の職員で、文章生成AIを職員に活用してもらうためのガイドラインを作っている責任者です」、【B】には「全職員向けに文章生成AIを活用してもらうための説明会を開きます」、【C】には「冒頭の挨拶文を作ってください」というプロンプトを入力します。
その後、文書が生成された後は「職員向け案内文に掲載するため、200字で原稿を作ってください」といったように、仕上がりの精度をより高めていくプロンプトを入力します。
このような自治体における生成AIのガイドラインは、東京都だけでなく、他の都道府県や市区町村でも発表されています。利用環境や利用方法に関する注意の内容はほぼ同じですが、効果的な活用方法については異なります。たとえば東京都町田市のガイドラインでは、日本語を英語・中国語・タイ語に翻訳する方法や、EXCELの数式の作り方についても触れられています。
これらのガイドラインでは、基本的に役所で使用することを念頭に置いた内容が記載されていますが、多くは企業でも流用できる内容です。生成AIを使ったことがない人はもちろん、使ったことはあるものの、有効に使えていないという人は、ガイドラインを参考に、日々の仕事に採り入れてみてはいかがでしょうか。
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