2024.03.29 (Fri)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第43回)
脱炭素の効果はブロックチェーンで証明できる
2020年10月、日本政府は2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言し、以降、多くの企業がカーボンニュートラルに取り組んでいます。しかし、取り組んでいるだけでなく、その活動により得られた効果について証明しなければ、発展的に継続していくことは難しいでしょう。本記事では、脱炭素の効果を実証する意義を提示した上で、デジタル技術を使用した効果実証事例などを紹介します。
なぜ脱炭素の効果を可視化する必要があるのか?
2050年カーボンニュートラル宣言から、社会全体で温室効果ガス削減に向けた取り組みが進められています。この取り組みが進むとともに登場しはじめたのが、二酸化炭素の排出量などの削減量を可視化するソリューションです。
なぜ脱炭素の効果を可視化する必要があるかというと、それにはいくつかの理由があります。
大きな理由としては、ビジネスにおいて「脱炭素」への取り組みが求められ始めているという点が挙げられます。特に製造業では、メーカーがサプライヤーに対し、脱炭素や温室効果ガス削減を求める動きが見られています。そのため、サプライヤー側が脱酸素に向けた取り組みを数値やグラフなどで可視化することで、より良い契約を結ぶことが期待されます。
別の視点でいえば、カーボンニュートラルに対する取り組みが、投資先の選定基準となっている点も挙げられます。たとえばESG投資(※)を行っている企業や投資家は、投資の基準として、投資先の候補企業がカーボンニュートラルに配慮した事業を行っているか否かを見ています。そのため、カーボンニュートラルの効果がどれだけ出ているかを数値で示すことで、資金調達などを優位に進められる可能性があります。
※ESG投資…環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの観点で投資先企業を評価する投資のこと
3つ目は、「J-クレジット制度」への参画がスムーズになることです。J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や森林経営の取り組みによって、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度のことで、このクレジットは、大企業や自治体などに売却をすることで資金に変えることができます。クレジット認証のためには、削減量などの数値を明確にしなければならないため、効果の可視化は必須となります。
カーボンニュートラルの効果は、ブロックチェーンで証明できる
しかし、カーボンニュートラルの効果をどのように証明するかという議論は、未だそれほど多くない状況です。林野庁が2020年に公開した資料「『気候変動×デジタル』プロジェクト~デジタル化によるJ-クレジット制度の抜本拡充策~」では、J-クレジットの課題として「相対取引が中心で市場の透明性に欠け、リアルタイムでの取引が困難」と指摘されており、カーボンニュートラルの効果を証明するためのルールの整備が急がれます。
同資料ではさらに、カーボンニュートラルの効果証明の手段として、「ブロックチェーン技術」を検討すべきと言及されています。ブロックチェーン技術は、取引の記録(ブロック)を時系列順に沿ってチェーンのように連結することで、データを処理・記録する技術のことです。データの改ざんが難しいため、効果証明の手段に適した技術です。
先に挙げた資料は2020年のものですが、それから数年経った今、すでにいくつかの企業では、ブロックチェーン技術を用いてカーボンニュートラルの効果証明を行っています。
温室効果ガスの削減データを自動で計測し、自動で申請
まずは、日立製作所の事例です。同社では2023年より、IoTセンサーなどを用いたデータ収集から、ブロックチェーンによるデータの検証、J-クレジットの認証・発行に至る一連のプロセスをデジタル化するシステムを構築し、効果検証を行っています。
このシステムでは、各事業所に設置された、再生エネルギーの発電設備により得られた温室効果ガスの削減量のデータを自動収集し、そのデータを元に、J-クレジットの認証申請まで自動的に行います。自動収集されたデータは改ざんが困難なため、データの正当性を担保した状態で可視化でき、正しく証明された数値として、対外的に示すことが可能です。
自治体でも導入例があります。たとえば佐賀県佐賀市では、ブロックチェーン「Tapyrus」の開発を行う株式会社chaintopeと提携し、ブロックチェーンを活用した資源循環の可視化を行っています。
Tapyrusは、佐賀市内の清掃工場ごみ発電所の発電記録や、市役所本庁舎などの公共施設における再生エネルギー利用実績をブロックチェーンで自動記録します。そして、ごみ発電所から発電された電力の地産地消率や二酸化炭素の削減量などを電子データ化することで、J-クレジットの申請手続きの効率化を図っています。
ブロックチェーン技術は、カーボンニュートラルに対する効果を証明するだけでなく、効果を証明するための作業効率を高め、活発な取り組みを行うための推進剤になります。自社でカーボンニュートラルやJ-クレジットに取り組む際は、その効果をどのように証明するかも併せて考えておくべきでしょう。
連載記事一覧
- 第1回 出張が不要になる?新技術「ホロポーテーション」 2016.07.15 (Fri)
- 第2回 AIがオフィスの空気を管理すれば生産性は上がる? 2016.08.29 (Mon)
- 第3回 目は口ほどにものを言う、「感情認識」の新ビジネス 2016.09.28 (Wed)
- 第4回 仕事中の危険を未然に防ぐ「バイタルデータ」とは 2016.10.14 (Fri)
- 第5回 社会インフラを激変させる可能性を秘めた仮想通貨 2017.10.03 (Tue)
- 第6回 企業が仮想通貨で資金調達する時代は到来するか? 2018.03.26 (Mon)
- 第7回 東大廣瀬教授が語る「本気のVRが企業教育を変える」 2021.02.19 (Fri)
- 第8回 建設業界で注目のDX「デジタルツイン」とは 2021.09.14 (Tue)
- 第9回 中小企業こそDXに向く。町工場・今野製作所の挑戦 2021.12.10 (Fri)
- 第10回 小売業の広告販促DX「リテールメディア」の始め方 2021.12.10 (Fri)
- 第11回 「小売業再建のプロ」が語る、利益率UPのヒント 2022.03.01 (Tue)
- 第12回 年4億円コスト削減を達成した地方製造業のIoT活用術 2022.03.04 (Fri)
- 第13回 「幻の日本酒」が安定供給できた裏にデータ活用あり 2022.06.27 (Mon)
- 第14回 いまどきの企業PRに不可欠、Twitterスペースとはなにか 2022.11.15 (Tue)
- 第15回 雇用確保につながる可能性も、覚えておきたい「給与のデジタル払い」2022.12.21 (Wed)
- 第16回 なぜ世界の小売店が「リテールメディア」に参入しているのか?2023.03.06 (Mon)
- 第17回 経済効果は2兆円!女性の悩みを解決するフェムテックとは2023.03.06 (Mon)
- 第18回 バブル期京都でDX実現! 24時間稼働の無人工場2023.03.15 (Wed)
- 第19回 どうする「2024年問題」物流DXの課題と事例2023.03.30 (Thu)
- 第20回 なぜ企業や自治体が「VTuber」を起用するのか? 2023.03.30 (Thu)
- 第21回 未来を予測し先手を打つ。「AI需要予測」の活用術2023.03.30 (Thu)
- 第22回 顧客の本音を読み解く「センチメント分析」の活用法2023.03.30 (Thu)
- 第23回 「気象ビッグデータ」が売上増とロス削減に貢献する2023.03.30 (Thu)
- 第24回 消費者から信頼感を得るには、トレーサビリティ向上が不可欠2023.04.28 (Fri)
- 第25回 健康のDX「パーソナライズド・ニュートリション」2023.09.08 (Fri)
- 第26回 「Web3」がもたらすビジネスや社会への影響とは2023.09.08 (Fri)
- 第27回 「観光DX」は日本の観光業をどう変えるのか?2023.10.04 (Wed)
- 第28回 大手企業も導入「リーガルテック」で何が変わる?2023.10.04 (Wed)
- 第29回 情報漏えいの原因を解析「デジタルフォレンジック」2023.10.04 (Wed)
- 第30回 関東大震災から百年、災害対策はどう進化したのか?2023.10.04 (Wed)
- 第31回 ITに疎くてもDXはできる!老舗食品企業の挑戦2023.11.22 (Wed)
- 第32回 極地でも高速通信「スターリンク」の可能性2023.12.21 (Thu)
- 第33回 インフラの「老朽化」は、最新技術でメンテナンスできる2024.01.24 (Wed)
- 第34回 新たな個人データ収集方法「ゼロパーティデータ」とは2024.01.24 (Wed)
- 第35回 2024年4月から限定解禁「ライドシェア」の可能性2024.01.24 (Wed)
- 第36回 AIが奪うのは仕事ではなく電力?生成AIのエネルギー事情2024.02.09 (Fri)
- 第37回 トークン経済で市場に好循環は起こるのか?2024.03.01 (Fri)
- 第44回 バス運行を効率化「AIオンデマンド交通」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第45回 生成AIとの対話が成長を促す「AIコーチング」2024.03.29 (Fri)
- 第46回 広告に続々登場「AIタレント」の弱点とは2024.03.29 (Fri)
- 第47回 訪日客が日本のファンになる鍵は「AI」にあり2024.03.29 (Fri)
- 第48回 脳と機械が繋がる「ブレインテック」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第49回 打ち上げが本格化。民間企業の宇宙ビジネスの今2024.03.29 (Fri)
- 第50回 バイヤーもサプライヤーも歓迎!?「自動交渉AI」2024.03.29 (Fri)
- 第51回 医療・建設業界で導入が進む「自律型ロボット」とは2024.03.29 (Fri)
- 第42回 6G、7Gで世界はどう変わるのか?「Beyond 5G」の可能性2024.03.22 (Fri)
- 第43回 脱炭素の効果はブロックチェーンで証明できる2024.03.29 (Fri)
- 第38回 総務省が認可「Wi-Fi 7」とは何か?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 総務省が発表「モバイル市場競争促進プラン」とは?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 インボイスにも対応「IT導入補助金2024」を解説2024.03.29 (Fri)
- 第40回 文章生成AIの理想的な使用法とは?東京都がガイドラインを公開2024.03.29 (Fri)
- 第41回 新たなテクノロジー「光の半導体」とは何か?2024.03.29 (Fri)