2023.11.22 (Wed)

テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第31回)

ITに疎くてもDXはできる!老舗食品企業の挑戦

 老舗食品企業の風月フーズは、平均年齢50歳のチームによってDXを推進することで、従業員1人あたりの売上高UPに成功しました。どのようにDXを進めたのでしょうか?

福岡の老舗食品企業は、なぜDXを志したのか?

 日本ではいま、労働人口が減りつつあります。みずほ総合研究所によると、2020年時点での労働力人口は約6,400万人なのに対し、40年後の2060年には約4,300万人にまで減ることが予想されています。

 労働力が減る中で、現状のサービスを維持していためには、DX(デジタル・トランスフォーメーション)によって業務をデジタル化・効率化していくことが解決策となります。しかし、そもそもDXを推進するための人材が確保できなければ、デジタル化を推進することもできません。

 そんな中、ITに疎いベテランスタッフが中心となって、DXを推進した企業が存在します。福岡県に本社を構える、風月フーズ株式会社です。

 同社は九州・福岡を中心に、空港・高速道路におけるレストランの運営、洋菓子・パンなどの製造販売を手掛けている企業です。1949年に福岡・天神の喫茶店として創業以来、74年もの長い歴史を持っており、福岡の土産品「雪うさぎ」「博多まるかと」のメーカーとしても有名です。

 同社の代表取締役社長を務めるのは、創業者の故・福山正直氏の孫に当たる福山剛一郎氏。福山氏が社長に就任したのは2020年3月ですが、以前から社内にいくつかの課題を感じていたといいます。その課題とは、社内のコミュニケーションが不足していたこと、属人的な経験に基づいて意思決定を行っていたこと、そして“内向き”な組織になっていたことの3点です。

 「『社内のコミュニケーション』については、これまでは電話やFAXだけでしか行っておらず、誰が出社しているのか、どのような業務を行っているのか、情報の把握や共有が困難で非効率でした。『意思決定』についても、属人的な“勘ピュータ”で行うことがあったため、今後はデータや論理に基づいた判断をしたいと考えていました。

 従業員の目線も、いつのまにか社内の内へ内へ向かってしまっており、これをお客さまの方向へ移したいと思っていました。私が社長に就任することは2019年から決まっており、就任後はこれらの課題を解決するために、何かしらの変化を生む必要があると感じていました」(福山氏)

 これらの課題の解決のために福山氏が選択したのが「DX」でした。福山氏は、ITを活用し業務プロセスを改善することで、自社のビジネスモデルを変革していくことを志します。

 「“とにかく組織改革をしたい”、その一心で選んだ手段がDXでした。私自身はDXに関してまったくの素人ですが、私が社長に就任した2020年はちょうどコロナ禍で、在宅勤務への対応が迫られており、DXによって業務をスピードアップしないと時代に取り残される状況でした」

中心メンバーはITに疎いベテランばかり。なぜ推進できたのか

 福山氏がまず導入したのが、チャットツールやグループウェアです。これらを導入することで、従業員同士でメッセージを送ったり、スケジュールを共有するなど、社内のコミュニケーションの活性化を狙いました。

 ツールの導入はスムーズに進み、コミュニケーション量を増やすことに成功しましたが、課題の改善としては単発的なものにとどまっていました。

 コロナ禍に際して業務改善をさらに進めるには、社内システムの課題を全般的に解決する必要があります。しかし、課題の全体像を把握するには、社内のリソースが足りていませんでした。

 この結果を受けた福山氏は、コミュニケーションだけではなく業務全体をDX化して、日々の業務を効率化する必要があると判断。外部パートナーと連携したうえで、「次世代システムプロジェクト」と銘打ったチームを結成し、従来の自社開発によるオンプレミスの基幹システムやレジシステムなどのクラウド化を進めました。

 クラウドの利点は、スピーディかつスモールスタートできる点にあります。次世代システムプロジェクトではこの利点を最大限に活用し、無料の試用期間中に複数のサービスを試しながら比較検討し、クラウド化を進めました。

 このプロジェクトの自社メンバーには、デジタルに明るい人材はいませんでした。しかし福山氏は、そのことはむしろメリットになったと評価します。

 「プロジェクトのメンバーには、現場の状況をよく知る総務・経理・営業の担当者が参加しました。実務経験が長いベテランが集結しているおかげで、現場の状況もよく把握できており、DX化はやりやすかったと感じています。第一線で業務に携わるメンバーの協力によって、数多くの業務が短期間でクラウド切り替えられました。高い年齢層が、マイナスになったことはありませんでした」(福山氏)

アプリの開発メンバーは平均50歳。でも作れた!

 福山氏はこうした業務のクラウド化に加え、別の取り組みにも注力します。それが、経理伝票や勤怠・営業日報を入力・管理するためのアプリの「内製化」です。

 こうしたアプリは、何も自社で開発する必要はなく、既存のサービスを利用したり、外部パートナーに開発を委託する方法もあります。しかし「自分たちでできることを少しでも増やしていこう」という福山氏の思いから、内製化を決定しました。

 アプリの開発担当者には、経理の女性係長が就任。開発メンバーの平均年齢は約50歳と、年齢層は高めでしたが、ノーコード開発ツール(AppSheet)を用いて、外部パートナーからの技術指導を受けながら開発を進めていきました。

 同社 管理部 経営企画課の田中茂任氏は、内製によってさまざまなアプリの開発に成功したといいます。

 「たとえば経理伝票の管理システムに関しては、会計システムとのデータ連携や支払先への影響も考慮する必要があったため、開発に約3~4カ月を要しましたが、無事完成し、現在も使用しています。これ以外にも、『社用車の管理アプリ』も自作しており、複数ある社用車を誰がどれを選んだか、どのくらいの距離を走ったか記録する機能も備えています。

 これらのアプリは使いやすさも意識して作っており、例えば入力項目はすべて手入力させるのでなく、ある程度の情報は別のアプリやシステムから引用できるように工夫しました。結果的に良いアプリが作れたと考えています」(田中氏)

従業員1人あたりの売上高が増加。“筋肉質”に変貌

 福山氏によると、こうしたDXの取り組みを通じて、社内の雰囲気も少しずつ変化していったといいます。

 「アプリ開発とは無縁の現場担当者が中心となってチームを組み、次々とDXによる業務改革に取り組んできたことで、中堅の社員も“変わらなくてはいけない”という意識を持つようになりました。『こんなことができると面白いのではないか』と意見を出す社員も増え、『データを見ながらその変化を見てみたい』といった声も上がるようになりました」(福山氏)

 DXに対する抵抗感も、社内全体で見れば強いものではなかったといいます。

 「今までの業務が変わるのですから、抵抗を感じる社員も中にはいたでしょう。ただし弊社に関しては、ある意味でタイミングが良かったところがあります。というのも、DXを進めた時期はちょうどコロナ禍と重なっており、弊社の売上もコロナ前から半減していました。“変わっていかないと生き残れない”と社員全員が感じていましたし、何よりデジタル化によって自分たちが楽になることを皆が実感していました。

 例えば、以前の勤怠管理は紙に打刻して行っていましたが、今はスマホやパソコンで簡単に登録できます。一気にガラッと変えず、スモールスタートで徐々に変革していったことで、現場も自然に慣れていったのも大きかったと思います」(福山氏)

 福山氏は、こうしたDXへの取り組みが経営に与えたインパクトについて「かなり大きかった」と振り返ります。コロナ以前は、約700人の従業員で60億円の売上高だった風月フーズが、現在では500人弱の従業員数で、50億円の売上高を上げています。つまり、人手不足という課題は抱えながらも、従業員1人あたりの売上高が約17%増加したことになります。

 「先ほども触れましたが、弊社はコロナ禍の影響による売上減という非常に厳しい経験をしました。しかしその中で、DXによって少ない人数でも運営できる仕組みを構築できました。バックオフィス業務や事務作業も大幅に削減でき、無駄のない“筋肉質”な業務体制が整ったと感じます」(福山氏)

店舗運営にもDX化が求められる時代に

  同社は今後、さらなるDXを進める方針を掲げています。 管理部 経営企画課の金山淳也氏は、今後は店舗運営など、顧客接点においてもDX化を進めていくといいます。

 「現時点では、お客さまの購買情報を発注担当者が把握するところまではできています。その情報をもっと深く分析し、どの地域のお客さまがどのような商品を購入しているかまで理解したいと考えています。その情報をベースに、さらなるデジタル活用を進めていきたいです。

 店舗のDXとしては、すでに弊社が運営する店舗の一部において、配膳ロボットやQRコードを活用したスマートフォンによるモバイルオーダーシステムを導入しています。今後は生成AIなどの仕組みも取り入れながら、人手が少なくても、これまで以上の価値をお客さまに提供できるよう取り組んでいければと考えています」

 冒頭で触れたように、日本は少子高齢化が進んでおり、労働者人口が減り続けています。高度経済成長期のような、人手が潤沢な時代はもう戻ってきません。だからこそ業務を省力化し、顧客に新たな価値を生むDXが求められています。

「これからの時代、さらに人口が減ることが予想されますが、それでも今まで以上の価値をお客さまに提供し、その実現のために自分たちの仕事を変えていけるかどうかが、我々のビジネスには問われていると思っています。私たちはこれからもDXを推進することで、お客さまに価値を提供し続けていきたいと考えています」(福山氏)

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