1km以上の長距離でも使用が可能な「Wi-Fi HaLow」という規格が存在します。Wi-Fi HaLowは、どんな場面で、どんな用途で使用するのに向いているのでしょうか?
なぜWi-Fiは近距離でもすぐ途切れるのか
自宅や職場、飲食店などで「Wi-Fi」(無線LAN)を使用している人は多いでしょう。パソコンやスマートフォンなどの端末にLANケーブルを接続することなく、ワイヤレスで簡単にネットワークに接続することが可能です。
ただし、Wi-Fiルーター(アクセスポイント)が設置された場所から、一定以上の距離を離れた場所で端末を使用する場合、うまくネットワークに接続できなかったり、通信速度が低下する可能性があります。
Wi-Fiルーターのメーカーであるエレコム社によると、Wi-Fiの電波は障害物のない屋外でな直線距離で50~100mほど飛ぶとしています。しかし、鉄筋コンクリートなど障害物がある場合、電波が途中で遮断され、たとえWi-Fiルーターから距離が近くても途切れやすくなりるといいます。
Wi-Fiには、「2.4GHz」と「5GHz」という、2つの周波数帯も用意されています。2.4GHzは遠くまで電波が届きやすいというメリットがある一方で、電子レンジなど他の家電・電化製品でも使用されているため、電波の干渉を受け速度低下などの悪影響を受ける恐れがあります。
一方の5GHzは、他の家電・電化製品で使用している機器が少ないため、干渉を受けにくいという特徴があります。その一方、電波が遠くまで届きにくいため、ルーターと端末の間に障害物や遮蔽物がある場合、電波が弱まり、通信が不安定になる可能性があります。
1km以上離れた距離でも繋がるWi-Fiがある
このようにWi-Fiを快適に使用するためには、ルーターから端末までの距離が重要な要素となりますが、Wi-Fiの中には、なんとルーターから1km以上も離れた距離からでも、Wi-Fiに接続が可能なタイプも存在します。それが、「Wi-Fi HaLow」(ワイファイ ヘイロー)です。
Wi-Fi HaLow(IEEE802.11ah)は、日本では2022年9月に初めて国内利用が認可された、920MHz帯の周波数を利用するWi-Fiの規格です。基本的にはIoTの通信システムでの使用が期待されており、家庭やオフィス向けのものではありません。
Wi-Fi HaLowの特徴は、何といってもその長い通信距離です。総務省の「地域デジタル基盤活用推進事業のご案内」という資料によれば、通信距離は「1km~数km」まで届くといいます。
しかも、通信速度は「数Mbps」と、従来のIoT通信システム「LPWA」(Low Power Wide Area)の「数十kbps」よりも高速な点も特徴です。LPWAでは難しかった画像や映像の通信も簡単にできるといいます。
このほか、低消費電力、最新のWi-Fiセキュリティ「WPA3」への対応、免許不要といった特徴もあります。
Wi-Fi HaLowと、従来のIoT通信システム「LPWA」の違い(総務省「地域のデジタル変革を総合的にご支援します~地域デジタル基盤活用推進事業のご案内~」より引用)
遠隔地でも映像をWi-Fi経由で確認。災害対策などの監視に向いている
総務省ではこのWi-Fi HaLowを活用することによって、従来の通信よりも効率的かつ精緻なデータの収集・活用ができるようになり、災害対策や農業などの分野において、これまでにない価値をもたらすとしています。
たとえば、大雨など災害時における水位の監視にも利用でいます。従来のLPWAでは、河川に急激な水位変動があった場合、画像や映像での確認ができないため、詳しい状況を画像で確認することが困難でした。
しかしWi-Fi HaLowであれば、LPWAとは異なり画像や映像の通信も可能です。河畔にWi-Fi対応の防犯カメラを設置すれば、そのカメラが撮影した映像を元に、水位の変動状況や増水の原因、水門の開閉といった判断を、現地に足を運ばずに行うことができます。もちろんカメラだけでなく、水位センサーなど各種IoT機器もWi-Fi HaLowに接続することが可能です。
似たようなケースとしては、鳥獣害対策のために、山間部に仕掛けた罠などの対策設備にカメラを設置することで、害獣の出没状況やどのような害獣が出没したのかといったデータが映像ですぐに把握でき、対策も迅速に打つことが可能です。
このほか、学校やダム、農場などにも監視カメラを設置し、遠隔で異状がないかを確認することも可能です。Wi-Fi HaLowを導入することのメリットをまとめると、遠隔地にいながらも映像・画像を通じた詳細状況が把握できる、現場確認のための稼働負担や危険性が低減できる、現場に足を運ばず迅速な対応ができるという3点が挙げられるでしょう。
Wi-Fi HaLowのデメリットとしては、日本ではまだ数年前に認可されたばかりの新しい規格のため、まだまだソリューションやサービスが少ない点です。Wi-Fi HaLowの認知が高まっていくことに連れ、徐々にその特徴を活かしたサービスが誕生することでしょう。
もし現在、LPWAのような長距離の通信ネットワークを使用していたり、拠点から遠く離れた箇所を見張る業務が自社に存在するのであれば、Wi-Fi HaLowの出番かもしれません。
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