2017年10月、金融庁は、仮想通貨によって企業が資金調達を行うこと(ICO)への規制を強化する姿勢を明らかにしました。また世界各国でも、ICOに関する規制や論議が始まっています。しかし、その内容は国によってまちまちです。本記事では、各国のICO規制の現状を紹介します。
ICOは新たな資金調達の手段
ICOとはInitial Coin Offeringの略で、金融庁では「企業などが電子的にトークン(証票)を発行して、公衆から資金調達を行う行為」の総称として定義しています。
トークンとは、資金調達したい企業が独自発行する仮想通貨のこと。トークンを購入するには、企業が指定するビットコインなどの主要な仮想通貨を支払うのが一般的です。企業は独自の仮想通貨を発行し、得られた仮想通貨を現金化して、事業を行います。事業が成功すれば、ICOがその事業で行うサービスなどで利用できたり、主要な仮想通貨として扱われることにより価値が上がるなどで、出資者は利益を得る仕組みです。
企業がこれまで行ってきた資金調達法といえば、銀行から融資を受けるか、株を交付して出資を募るといったことが一般的でした。しかし、両者とも金融機関の審査や証券取引所の手続きという時間のかかる手間やコストがあったのです。
一方、トークンの発行には第三者による審査や手続きがありません。インターネット上で出資者を募る企業のみで行えるわけです。このため中小企業や新興ベンチャーだけでなく、個人でも少額から資金調達ができる手段として注目されました。
革命的な資金調達手法に見えますが、トークンは発行時に第三者の審査や確認がないため、事業計画や企業の実態を出資者が見抜かなければなりません。そのような点を悪用した詐欺事件が海外では起こっており、金融庁はICOを資金決済法や金融商品取引法などの規制対象とすることを発表しました。金融庁は監視を行うために、取り扱い事業者に対して内閣総理大臣への登録や関係法令の履行を定めたのです。
禁止・管理・推進・検討中と各国で違う規制事情
2017年はICOに対して規制をかけようという流れが、世界各国で起こりました。
その中で一番強い規制を行ったのは中国でした。同年9月に中央銀行である中華人民銀行が「ICOは違法な資金調達方法である」として取引の全面禁止措置を発表します。
それに続いたのが韓国で、同月にICOの全面禁止措置を発表しました。しかし現在、今後は緩和されるかもしれないという見通しもあります。
禁止とまでは行かずとも、管理を強化したのがアメリカです。2017年7月に、ICOが規制の対象になりうるという判断を示し、取引所の登録義務化と同時に事業者の活動までを管理下に置くと発表。過去の詐欺行為に関しても法的な対応を検討しているとのことです。
逆に積極的に促進しているのが、スイスとカナダです。カナダは2017年9月に政府が認可したICOを誕生させています。スイスは同年9月に正式な規制ガイダンスを発表。ガイダンスでは、法的及び道徳的な義務の履行に言及しながらも、そのイノベーションを支援することを前面に押し出しています。
ロシアも2017年11月、中央銀行が「ICOはスタートアップに資金を調達するチャンスを与える」という発言を行っていることから、容認の方針であると考えられています。
ヨーロッパでは、ドイツが規制を検討中、イギリスは警戒しながらも容認、フランスは一部を認めるなど国によって対応はさまざまです。しかしEUの政策執行機関である欧州委員会は、ICOや仮想通貨がテロリスのマネーロンダリングにつながることを以前から危惧しており、2017年9月には仮想通貨犯罪の罰則強化を決定しました。
2018年3月のアルゼンチンでのG20に注目
ICOはインターネット上で行われるため、国という概念で規制することは難しいといえるでしょう。前述のようにある国で禁止されたとしても、他国では推進されているからです。その特性から、世界で統一した規制が必要だという見方もあります。
ドイツ中央銀行は「ICOを世界レベルで規制すべきだ」という見解を示しており、フランスと共同で2018年3月19日にアルゼンチンで開かれるG20においてICO規制を議題に挙げるように提案する姿勢を表明しています。これによって各国の思惑が顕在化し、規制に向けた議論が始まるでしょう。
法整備の有無や度合いは違えども、各国で問題視されているICOのリスク。規制の議論もG20を経て、世界的レベルで活発になってくるでしょう。ICOのイノベーションを推進しつつも、規制によって安全性・安定性をどう担保するのか、今後に注目したいところです。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年3月4日)のものです。
【関連記事】
http://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/06.pdf
http://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency02/index.html
連載記事一覧
- 第1回 出張が不要になる?新技術「ホロポーテーション」 2016.07.15 (Fri)
- 第2回 AIがオフィスの空気を管理すれば生産性は上がる? 2016.08.29 (Mon)
- 第3回 目は口ほどにものを言う、「感情認識」の新ビジネス 2016.09.28 (Wed)
- 第4回 仕事中の危険を未然に防ぐ「バイタルデータ」とは 2016.10.14 (Fri)
- 第5回 社会インフラを激変させる可能性を秘めた仮想通貨 2017.10.03 (Tue)
- 第6回 企業が仮想通貨で資金調達する時代は到来するか? 2018.03.26 (Mon)
- 第7回 東大廣瀬教授が語る「本気のVRが企業教育を変える」 2021.02.19 (Fri)
- 第8回 建設業界で注目のDX「デジタルツイン」とは 2021.09.14 (Tue)
- 第9回 中小企業こそDXに向く。町工場・今野製作所の挑戦 2021.12.10 (Fri)
- 第10回 小売業の広告販促DX「リテールメディア」の始め方 2021.12.10 (Fri)
- 第11回 「小売業再建のプロ」が語る、利益率UPのヒント 2022.03.01 (Tue)
- 第12回 年4億円コスト削減を達成した地方製造業のIoT活用術 2022.03.04 (Fri)
- 第13回 「幻の日本酒」が安定供給できた裏にデータ活用あり 2022.06.27 (Mon)
- 第14回 いまどきの企業PRに不可欠、Twitterスペースとはなにか 2022.11.15 (Tue)
- 第15回 雇用確保につながる可能性も、覚えておきたい「給与のデジタル払い」2022.12.21 (Wed)
- 第16回 なぜ世界の小売店が「リテールメディア」に参入しているのか?2023.03.06 (Mon)
- 第17回 経済効果は2兆円!女性の悩みを解決するフェムテックとは2023.03.06 (Mon)
- 第18回 バブル期京都でDX実現! 24時間稼働の無人工場2023.03.15 (Wed)
- 第19回 どうする「2024年問題」物流DXの課題と事例2023.03.30 (Thu)
- 第20回 なぜ企業や自治体が「VTuber」を起用するのか? 2023.03.30 (Thu)
- 第21回 未来を予測し先手を打つ。「AI需要予測」の活用術2023.03.30 (Thu)
- 第22回 顧客の本音を読み解く「センチメント分析」の活用法2023.03.30 (Thu)
- 第23回 「気象ビッグデータ」が売上増とロス削減に貢献する2023.03.30 (Thu)
- 第24回 消費者から信頼感を得るには、トレーサビリティ向上が不可欠2023.04.28 (Fri)
- 第25回 健康のDX「パーソナライズド・ニュートリション」2023.09.08 (Fri)
- 第26回 「Web3」がもたらすビジネスや社会への影響とは2023.09.08 (Fri)
- 第27回 「観光DX」は日本の観光業をどう変えるのか?2023.10.04 (Wed)
- 第28回 大手企業も導入「リーガルテック」で何が変わる?2023.10.04 (Wed)
- 第29回 情報漏えいの原因を解析「デジタルフォレンジック」2023.10.04 (Wed)
- 第30回 関東大震災から百年、災害対策はどう進化したのか?2023.10.04 (Wed)
- 第31回 ITに疎くてもDXはできる!老舗食品企業の挑戦2023.11.22 (Wed)
- 第32回 極地でも高速通信「スターリンク」の可能性2023.12.21 (Thu)
- 第33回 インフラの「老朽化」は、最新技術でメンテナンスできる2024.01.24 (Wed)
- 第34回 新たな個人データ収集方法「ゼロパーティデータ」とは2024.01.24 (Wed)
- 第35回 2024年4月から限定解禁「ライドシェア」の可能性2024.01.24 (Wed)
- 第36回 AIが奪うのは仕事ではなく電力?生成AIのエネルギー事情2024.02.09 (Fri)
- 第37回 トークン経済で市場に好循環は起こるのか?2024.03.01 (Fri)
- 第44回 バス運行を効率化「AIオンデマンド交通」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第45回 生成AIとの対話が成長を促す「AIコーチング」2024.03.29 (Fri)
- 第46回 広告に続々登場「AIタレント」の弱点とは2024.03.29 (Fri)
- 第47回 訪日客が日本のファンになる鍵は「AI」にあり2024.03.29 (Fri)
- 第48回 脳と機械が繋がる「ブレインテック」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第49回 打ち上げが本格化。民間企業の宇宙ビジネスの今2024.03.29 (Fri)
- 第50回 バイヤーもサプライヤーも歓迎!?「自動交渉AI」2024.03.29 (Fri)
- 第51回 医療・建設業界で導入が進む「自律型ロボット」とは2024.03.29 (Fri)
- 第42回 6G、7Gで世界はどう変わるのか?「Beyond 5G」の可能性2024.03.22 (Fri)
- 第43回 脱炭素の効果はブロックチェーンで証明できる2024.03.29 (Fri)
- 第38回 総務省が認可「Wi-Fi 7」とは何か?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 総務省が発表「モバイル市場競争促進プラン」とは?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 インボイスにも対応「IT導入補助金2024」を解説2024.03.29 (Fri)
- 第40回 文章生成AIの理想的な使用法とは?東京都がガイドラインを公開2024.03.29 (Fri)
- 第41回 新たなテクノロジー「光の半導体」とは何か?2024.03.29 (Fri)
- 第52回 訪日観光客が増えるとトラブルも増える!?オーバーツーリズムをどう解決するか2024.05.22 (Wed)
- 第53回 ウェブアクセシビリティが義務化。どう対処する?2024.07.11 (Thu)
- 第54回 決済時間を1/2に短縮「タッチ決済」が普及中2024.07.12 (Fri)
- 第55回 なぜEUは、生成AIを規制しようとしているのか2024.07.12 (Fri)
- 第56回 2024年10月につくば市でスタート「インターネット投票」とは?2024.08.08 (Thu)
- 第57回 7月実施完了。デジタル庁の「フロッピーディスク」使用規定撤廃の方針とは2024.08.08 (Thu)
- 第58回 Googleが動画作成ツール「Google Vids」をテスト開始。どんなツール?2024.08.08 (Thu)
- 第59回 「パーソナルAI」が、ビジネスを代行する時代が来ている2024.08.13 (Tue)
- 第60回 多言語対応や旅行プラン作成も!観光業での生成AI活用法2024.08.13 (Tue)
- 第61回 GoogleもMicrosoftも参入。「生成AI検索」は何が凄いのか2024.09.24 (Tue)
- 第62回 Googleの生成AI「Gemini」は、ChatGPTと何が違うのか?2024.09.24 (Tue)
- 第63回 DX人材は生成AIにどう向き合うべきか?経産省がデジタルスキル標準を改訂2024.10.08 (Tue)
- 第64回 能登半島地震で被害を受けた通信インフラはどのように回復したのか?2024.10.08 (Tue)
- 第65回 政府が世界から誘客する「デジタルノマド」とはどんな人たち?2024.10.08 (Tue)
- 第66回 まずは何から"生成"する?総務省が生成AIの入門書を発表2024.10.08 (Tue)
- 第67回 Web会議の新たなパートナー。耳を塞がないヘッドホンが登場2024.10.08 (Tue)
- 第68回 行政こそ生成AIが効く!都城市に「自治体DX」の進め方を聞く2024.10.09 (Wed)
- 第69回 なぜコープさっぽろは、AIに"人間らしい"要素を求めたのか2024.10.09 (Wed)
- 第70回 Officeの買い切り版が新発売。サブスク版とは何が違うのか?2024.11.21 (Thu)
- 第71回 携帯電話の番号に「060」が開放された理由とは2024.11.21 (Thu)
- 第72回 自動車内でWi-Fiが使い放題のサービスが登場2024.11.22 (Fri)
- 第73回 根拠を元に回答を生成「Perplexity」(パープレキシティ)の魅力2024.11.22 (Fri)
- 第74回 Wi-Fiの電波が1km先まで届く!?「Wi-Fi HaLow」とは2024.11.22 (Fri)
- 第75回 誤差はセンチメートル級。衛星測位システム「みちびき」が導く未来2024.12.20 (Fri)
- 第76回 市場拡大中!AIで進化する音声認識技術の今2024.12.24 (Tue)
- 第77回 ブランドイメージ向上に効果あり。「香りマーケティング」の今2024.12.24 (Tue)
- 第78回 図表を自動で作成する生成AI「Napkin.ai」が登場2024.12.27 (Fri)
- 第79回 Googleの新ルール「サイト評判の不正使用」とは何か?2024.12.27 (Fri)
- 第80回 水道の老朽化が進行中......解決のカギはAIにあり2024.12.27 (Fri)