2024.10.08 (Tue)

テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第63回)

DX人材は生成AIにどう向き合うべきか?経産省がデジタルスキル標準を改訂

 経産省が設定する「デジタルスキル標準」に、生成AIに関する活用法を反映した「Ver.1.2」が発表されました。DX人材は、生成AIに対しどのように向き合うべきなのでしょうか?

ビジネスパーソンが身につけるべきスキル「デジタルスキル標準」に生成AIが追加

 IT関連の企業に勤めている人であれば、「デジタルスキル標準」という言葉をご存じの方も多いかもしれません。

 デジタルスキル標準とは、ビジネスパーソンがDXに関する基礎的な知識やスキルやマインドを身につけるため、経済産業省が発表している指針のことです。デジタルスキル標準は2つの基準で構成されており、全てのビジネスパーソンが身につけるべきスキルを定義した「DXリテラシー標準」(DSS-L)と、DXを推進する人材の役割やスキルを定義した「DX推進スキル標準」(DSS-P)が存在します。

 デジタルスキル標準は、2022年12月に第一弾となる「Ver.1.0」に発表され、2023年にはその改訂版の「Ver.1.1」が発表されました。そして2024年7月には、現時点で最新版の「Ver.1.2」が公開。このVer.1.2では、新たに生成AIに関する内容が追記されました。

 デジタルスキル標準で追加された、生成AIに関する記述とは、一体どのようなものなのでしょうか? 経産省やIPA(情報処理推進機構)が公開している、デジタルスキル標準の改訂された内容を紹介します。

生成AIは、要約・分析・提案の場面で高い能力を発揮する

 Ver.1.2では主にDX推進スキル標準の領域において、生成AIに関する内容が追記されました。

 追記内容としては、生成AIの有用性について「日本の生産性や付加価値の向上等を通じて大きなビジネス機会を引き出す可能性がある」「業務の高度化・効率化等が実現され、経済/社会/環境面での様々な利点が想定される」と、その価値を高く評価する記述が追加されました。生成AIの具体的な用途としては、要約や分析、提案を生み出す業務を挙げ、こうした場面において高い能力を発揮し、人間が意思決定を行う一助になり得るとしています。

 その一方で、生成AIのリスクについても指摘されています。たとえば使い方によっては、誤情報や倫理・法令的に不適切な結果が出力され、それを鵜呑みにしてしまうリスクや、日本と諸外国の法律・ガイドラインなどの整備・施行状況が異なることで、権利侵害・情報漏洩、倫理的な問題等のリスクもあるといいます。加えて、生成AIを利用することによるエネルギー消費量やコストの増加という、新たな問題も存在するとしています。

 さらに、生成AIを「開発する」「提供する」ことの意味についても、新たに定義されました。

 生成AIを「開発する」「提供する」ことについては、「DXを推進する人材が、ビジネスや自組織の業務プロセスに対して、生成AIを組み込んだ製品・サービスを開発し、顧客・ユーザーに提供する」ことと定義。加えて、生成AIを「活用する」ことについて、「DXを推進する人材自身が、一般に公開されている生成AIを業務で活用すること、組織・企業の業務プロセスに組み込まれた生成AIを活用すること」と定義しました。


デジタルスキル標準Ver.1.2では、主にDX推進スキル標準の領域に、生成AIに関する内容が追加された

ビジネスパーソンは、未知の技術とどのように向き合うべきなのか?

 これに加えて、生成AIを含む、新たな技術への向き合い方や、行動の起こし方についても新たに追記されました。

 資料では、生成AIについて「社会に大きなインパクトを与える新技術であり、今後もビジネスに変革をもたらす可能性がある」とし、生成AIに留まらず、そのような新技術の登場は今後も想定されるとしています。そのためDXを推進する人材は、新技術がもたらす変化を自分自身で捉え、適切に用いながら、変革につなげることが重要であり、そのためにはDXを推進する人材に求められる新技術への向き合い方・行動の起こし方を定義する必要があるとしています。

 新技術に対する向き合い方・行動の起こし方としては、【1】新技術に触れた上でのインパクト・リスクの見極め、【2】新技術を用いるための仕組み構築と、DXを推進する組織・人材への変革促進、【3】新技術の変化のスピードに合わせたスキルの継続的な習得という、3つのステップを踏む必要があるといいます。

【1】の「見極め」については、新技術に常に関心を持ち、それらに触れながら、有用性やリスクなどその特性を理解し、その上でビジネスや業務の変革など、達成したい目的を設定し、目的の実現可能性や、社会・組織・個人に対し新技術が与えるインパクト・リスクを見極めることを指摘しています。

【2】の「組織・人材への変革促進」は、新技術を用いて、安全に価値創造する仕組みを、同じ人材類型(※)同士が連携し、早期かつ小規模に構想・構築することが挙げられてます。見直しも随時行い、最適な仕組みを提供する必要があるといいます。

※人材類型…DX推進スキル標準が定義する人材のパターンのこと。ビジネスアーキテクト、データサイエンスト、サイバーセキュリティ、ソフトウェアエンジニア、デザイナーの5種類がある。

【3】の「スキルの継続的な習得」は、【2】にて構築した仕組みの中で、新しい価値創造やアウトプットの品質を高めて変革の効果を狙うこと、あらゆる人材の能力を高め、DXを推進する組織・人材への変革を促すことが挙げられています。


DXを推進する人材には、新技術に対して3つのステップで向き合う必要があるという


 生成AIという新技術が登場して1年以上が経過していますが、デジタルスキル標準にて生成AIに関する内容が追記されたということは、自社のビジネスのDX化を推進するためには、生成AIについて、そのメリット・リスクを踏まえたうえで、ビジネスシーンで活用する必要があるということがいえます。

 DX推進を掲げつつも、まだ業務で生成AIを活用していない企業は、そろそろ重い腰を上げ、生成AIに向き合うべきでしょう。

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