
鉄道会社や百貨店など、異業種が金融サービスを提供する事例が増えています。「BaaS」と呼ばれるこのビジネス形態には、どのようなメリットがあるのでしょうか?
なぜ鉄道会社や百貨店が銀行ビジネスを始めるのか?
ここ数年、金融機関とは関係の薄そうな異業種の企業が、金融サービスをスタートする例が増えています。
たとえば2024年5月には、鉄道会社のJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)が、子会社の株式会社ビューカードとともに「JRE BANK(ジェイアールイーバンク)という金融サービスをスタートしました。
その前年の2023年3月には、プロ野球球団・北海道日本ハムファイターズの関連会社である株式会社ファイターズスポーツ&エンターテイメントが、「F NEOBANK(エフネオバンク)」というサービスを開始。さらにその前年の2022年6月には、大手百貨店「高島屋」を運営する株式会社高島屋が、「髙島屋ネオバンク」という金融サービスを始めています。
これらの金融サービスは、それぞれの企業がゼロから金融システムを作り上げたわけではなく、銀行業の免許を取得しているわけでもありません。それなのになぜ、金融サービスが始められるのでしょうか? その背景には、「BaaS」(バース)という仕組みが存在します。
銀行機能をサービスとして提供。企業はあくまでも“代理店”
BaaSとは「Bank as a Service」の略で、銀行が提供する預金の受け入れ/資金の貸し付け/為替取引といった機能を、企業が自社のサービスに組み込み、インターネットやスマートフォンのアプリを介してエンドユーザーに提供する仕組みのことです。
たとえばAという銀行が本来持つ機能やサービスは、基本的には銀行業の免許を持つA銀行しか利用できないものです。しかしBaaSを介することで、A銀行が持つ銀行機能を、クラウドサービスとしてBという企業に提供し、B社がA銀行の支店(代理店)として、エンドユーザーに金融サービスを提供することが可能になるのです。
BaaSを図式化したもの。企業Bは銀行Aの代理店として、エンドユーザーに金融サービスを提供する
先に挙げた高島屋ネオバンクの場合、銀行機能は住信SBIネット銀行のBaaSを利用します。そのため高島屋ネオバンクは、住信SBIネット銀行の銀行代理業者という立場で、エンドユーザーに銀行としてのサービスを提供します。
JRE BANKでは、楽天銀行のBaaSが使用されます。JRE BANKを経由して口座を作った場合、口座の名前は「楽天銀行 JREはやぶさ支店」といったように、JRE BANKに口座が作られるわけではなく、楽天銀行に口座が設けられます。振込などの操作は、JRE BANKのアプリを使用します。
日本におけるBaaSは、特に住信SBIネット銀行の「NEOBANK」(ネオバンク)の採例が非常に多く見られます。たとえば先に挙げたF NEOBANKや、2020年にスタートした日本航空の「JAL NEOBANK」も、銀行機能は住信SBIネット銀行が担っています。
銀行、BaaSを利用する企業、エンドユーザーの3者にメリットをもたらす
BaaSを利用することで、銀行、BaaSを利用する企業、エンドユーザーの3者それぞれにメリットをもたらすことが期待されます。
まず銀行側のメリットとしては、新規顧客獲得の機会が広がります。さまざまな異業種の企業がBaaSを利用することで、銀行業だけでは出会いにくい顧客を発掘することが可能になります。
BaaSを利用する企業にとっては、銀行業の免許を取得せず、銀行サービスをエンドユーザーに提供することができます。たとえば企業が独自に提供しているポイントカードと連携し、「今口座を開設すれば〇〇ポイントをプレゼント」といったキャンペーンを打つことも可能です。
エンドユーザー側のメリットとしては、ネットバンキングサービスが手軽に利用できるうえ、口座開設特典など企業が提供するさまざまなサービスを受けることができます。たとえばJRE BANKでは、口座の利用状況に応じて、JR東日本路線内の優待割引券や普通列車のグリーン車が無料で利用できるSuicaグリーン券が提供されるといいます。
このように各ステークホルダーにさまざまなメリットが期待できるBaaSですが、機密性の高い金融サービスのため、使用するアプリやシステムには高いセキュリティ対策が求められます。もしセキュリティインシデントが発生した場合、その悪影響はエンドユーザーやBaaSを利用する企業だけに留まらず、BaaSを提供する銀行側にも被害が及びます。サービスが安定して継続できるよう、もしもの時の備えは徹底すべきでしょう。
BaaSを導入する企業は、生命保険会社や不動産会社、大手私鉄グループや家電量販店など、このほかにも多数存在します。口座を開設するだけであれば、どのBaaSであっても無料です。もし普段利用する機会が多い企業が金融サービスをスタートしているならば、口座を解説し、その使い勝手を体験してみてはいかがでしょうか。
※本記事の内容は、すべて公開時点のものです。
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