2024.01.24 (Wed)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第34回)
新たな個人データ収集方法「ゼロパーティデータ」とは

インターネット上の行動を追跡する「Cookie」が世界的に規制されつつある今、顧客が自発的に企業に提供する個人データ「ゼロパーティデータ」を活用する動きが見られています。
顧客が積極的にデータを提供「ゼロパーティデータ」とは
「ゼロパーティデータ」という言葉をご存知でしょうか。これは「顧客自らが意図的、積極的に企業と共有する個人データ」を意味する言葉です。
企業が顧客のデータを収集する際、一般的には自社が主体となって、Webサイトやアプリの行動履歴や購買履歴、会員登録情報などを参考にします。このように、企業が自社で得た顧客のデータは「ファーストパーティデータ」と呼ばれます。
これに対しゼロパーティデータは、アンケートやヒアリングなど、顧客の同意・協力のもと、嗜好や購入意思といったよりパーソナルな顧客情報を収集するものです。顧客が企業に“自分のことをもっとよく知ってほしい”、あるいは“情報を共有するから、それと引き換えにサービスを向上してほしい”といったような、顧客からの期待や信頼のもと、顧客側から積極的に提供されるデータとなります。
顧客は“いつの間にか”データが収集されることに不信感を抱いている
ゼロパーティデータが登場した背景には、消費者の個人データの提供に対する警戒意識が高まっていることが考えられます。
総務省の調査によれば、サイトやアプリの利用時に、企業が個人データを収集していることを認識している消費者の割合が約4割、セキュリティへの不安などから個人データを提供することに不安を感じる人は6割弱に上ります。
最近では、企業が収集したCookieなどのパーソナルデータを元に、ユーザーに適したコンテンツや広告などを自動的に表示する「パーソナライズ」機能を備えたサイトも多く見られますが、企業が顧客の個人データを扱うことについて、5割以上の消費者が「不安を感じている」と回答しています。企業によって“いつの間にか”個人データが収集され、販売促進などに利用されることに対する不信感は、決して低くないようです。
こうしたCookieなどのパーソナルデータは、ユーザー側から「企業に渡さない」設定にすることも可能です。しかし、多くのユーザー側に拒否されると、企業側は信頼性のある顧客データを収集することが難しくなります。そのため、顧客自らが積極的にパーソナルデータを企業に提供するゼロパーティデータが注目を集めているというわけです。
すでにゼロパーティデータをビジネスに活用している企業も
とはいえ、企業がゼロパーティデータを取得するのは容易なことではありません。顧客が自ら個人データを差し出すための動機付けや、情報提供の対価となる顧客体験を用意する必要があります。
いくつかの企業では、すでにゼロパーティデータを収集する仕組みを確立し、ビジネスに取り入れています。
完全栄養食「BASE FOOD」シリーズを提供するベースフード社では、顧客が商品への意見や活用アイディアを投稿できるオンラインコミュニティ「BASE FOOD Labo」を構築しています。同ラボでは主要な意見が顧客から提供された場合、すぐに商品改善や新商品の企画に反映するという循環型の開発スタイルを採用しています。顧客にとっては、同ラボに情報を提供することで、より良い商品が企業から提供されるというメリットがあります。同社はこの施策を通して、定期購入の継続率の向上に成功したといいます。
アパレルブランド「ラコステ(LACOSTE)」では、ECサイトにて「長袖ポロシャツ」を購入するユーザーが多いことから、ECサイト上で「ポロシャツの着用シーン」「チャレンジしたいポロシャツの色」のアンケートを実施し、ユーザーの嗜好や着用シーンのデータを収集。従来のキャンペーンの2倍以上のエンゲージメント率を獲得したといいます。
チャイルドシートとベビーカーの老舗メーカー「イーブンフロー(evenflo)」は、自社ECの売上拡大を目的に、サイト内にクイズコンテンツを設置。サイト訪問者が商品の購入検討理由や利用シーン、優先したい機能など簡単な設問に答えると、商品がおすすめされるというシンプルな仕組みで、ターゲットの見直しにつながる顧客データを収集しました。同社は結果として、未回答の訪問者より38%高いコンバージョン率が獲得できたといいます。
こうしたゼロパーティデータを収集するためには、専用の設問を用意する手間やコストが発生することになります。加えて、ユーザー自ら“データを提供したい”と思う仕組みを構築する必要もあります。しかし、それらの課題を解決すれば、「知らぬ間にデータが使われてしまう」といった嫌悪感を抱かれることなく、ファーストパーティデータよりも質の高いデータが集められる可能性もあります。新しいデータの収集方法として、選択肢のひとつに加えておいても良いでしょう。
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