商品がどのようにつくられ、どのように消費されたのかを追跡する「トレーサビリティ」。近年はSDGsの観点からも注目度が高まっており、さまざまな企業がトレーサビリティ向上に努めています。本記事では、トレーサビリティの概要や取り組むメリット、トレーサビリティ向上の事例などを紹介します。
食品トレーサビリティ市場の収益は97.5億ドルに到達すると予測
トレーサビリティとは、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた言葉で、商品の原材料や部品の調達から製造、出荷、販売、消費に至るまでの全過程を追跡する取り組みのことを示します。食品や衣料品、自動車、電子部品、医薬品などさまざまな商品で、安全性や透明性の確保を目的としたトレーサビリティの向上が進められています。
トレーサビリティ自体は新しい概念ではありませんが、SDGsの目標のひとつ「つくる責任 つかう責任」にも関わる社会課題として認識されつつあり、消費者意識の高まりも相まって、トレーサビリティ向上に努める企業が出てきています。
アメリカのEmergen Researchが2021年に発表したレポートによると、食品トレーサビリティ市場の年平均成長率は10.2%、2020年に45.4億ドルだった収益は、2028年には97.5億ドルに到達すると予測されています。また、IBMが2020年に実施した調査でも、トレーサビリティが非常に重要であると回答した調査対象者の71%が「トレーサビリティを提供するブランドに対して割増で料金を払う意思がある」と回答するなど、トレーサビリティの向上が競争優位性の獲得や売上増加に貢献する可能性が示唆されています。
消費者からの信頼性向上や、問題発生時の早期解決につながる
トレーサビリティが向上すると、消費者はより安心・安全な商品や正しいプロセスで製造された商品を選択できるようになります。一方、企業側には以下のようなメリットがあると考えられます。
1.消費者からの信頼性向上
商品がどこでどのようにつくられ、どのような流れで届けられたのか、そのプロセスが明らかになれば、消費者は安心して商品を購入できます。そして、安全性や透明性に配慮したブランド・メーカーであるというイメージを打ち出すことで、消費者からの信頼が高まり、他社との差別化にもつながります。
2.問題発生時の早期対応
商品に不備やクレームが発生した際、トレーサビリティを辿ることで不良や欠陥の原因を早期に特定できます。問題に対処する時間や手間などのコストを最適化できるだけでなく、原因や改善策をいち早く公表することで、ブランドイメージの毀損を最小限に留められる可能性も高まります。
3.品質向上
トレーサビリティは製造・流通の上流工程から下流工程までを追跡するため、各工程における責任の所在が明確になります。不具合や問題が発生した際の改善点も明確になるため、効率的かつ的確な品質改善が期待できます。
トレーサビリティ向上に寄与する、ブロックチェーン技術の可能性
近年、トレーサビリティの向上に寄与するテクノロジーとして注目を集めているのが、ブロックチェーン技術です。ブロックチェーンとは1つひとつの取引(ブロック)が1本の鎖のようにつながる形で情報を記録する技術で、改ざんが極めて困難である点や、仮にひとつの取引データが破壊されても分散管理によってシステム稼動の連続性が確保される点などが特徴です。経済産業省は、ブロックチェーン技術をサプライチェーン領域で活用することによりトレーサビリティを実現し、サプライチェーン全体の活性化・効率化やサステナビリティ向上につながる可能性があると述べています
実際、ブロックチェーン技術を活用してトレーサビリティ向上にチャレンジする企業が出ています。伊藤忠商事は天然ゴム原料のトレーサビリティをブロックチェーンで可視化。さらに売上の一部を原料サプライヤーに還元することで、天然ゴム産業全体のサステナビリティに取り組んでいます。
ローソンは上海の店舗で販売するおにぎりに使用される米のトレーサビリティを確保し、消費者はパッケージのQRコードからブロックチェーン上に記録された産地の情報、生産者の思いやストーリーなどにアクセスできます。
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムのモデル事業に採択された「スマートフードチェーンプラットフォームの構築」では、NTTデータのブロックチェーンに関するソリューションなどを活用したトレーサビリティ確保と、RFID(電波を用いてタグのデータを非接触で読み書きするシステム)を活用した温度管理の実証実験が進められています。
まだ国内では実験段階のプロジェクトが多いものの、さまざまな業種でアイデアが生まれているトレーサビリティ向上への取り組み。今後どのように事業化や商用化が進められるのか、引き続き注目したいところです。
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