2023.10.04 (Wed)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第30回)
関東大震災から百年、災害対策はどう進化したのか?
1923年9月1日に発生した関東大震災から、100年が経過しました。しかし、現在の日本も依然として南海トラフや都市直下地震のリスクは高く、近年では気候変動に伴う豪雨災害なども頻発しています。国や自治体では、こうした自然災害への対策として、土地や住民のデータとIT技術を活用した「防災DX」の取り組みを進めています。本記事では、防災のデジタル化が進む背景と事例、それらを取り入れる上での注意点について紹介します。
震度6の地震、記録的豪雨……その時、自治体が取るべき対応とは
日本ではたびたび自然災害が発生しています。NHKがまとめた2022年の主な災害状況によると、同年3月には福島県沖を震源とした震度6強の地震、6月には石川県能登地方で最大震度6弱の地震が発生し、土砂崩れや地割れなどの大きな被害がありました。
8月には東北地方で線状降水帯による豪雨が発生。山形県飯豊町で24時間の降水量が306ミリを記録するなど、各地に観測史上最も多い雨量をもたらしました。9月には「スーパー台風」と呼ばれる台風14号が鹿児島県上陸後に日本列島を縦断し、全国で死者5人、けが人150人以上の被害を出しました。
こうした自然災害の被害拡大を防ぐためには、現場における自治体の対応が重要になります。
防災テックのベンチャー企業であるSpectee社が、自治体で防災・災害対応に携わる関係者に実施した「自治体の災害対応とデジタル化」に関するアンケート調査によると、「災害発生時に直面する課題」の質問で1位となったのが「初動対応が迅速にできない」(43.5%)。以下、「刻一刻と変化する状況を把握することが難しい」(42.1%)、「住民へいかに迅速に情報を伝達するか」(36.0%)と続きました。
この結果をまとめると、災害対策としては「初動対応」「被害状況の把握」「市民への情報共有」が重要であるということがわかります。
「防災DX」とは、具体的にどんな対策なのか?
こうした自然災害時における初動対応、被害状況の把握、市民への情報共有という防災対策について、デジタルの力で取り組む「防災DX」が、国や自治体、研究機関で進められています。
行政では2022年末に、デジタル庁が「防災DX官民共創協議会」を発足しました。同協議会には、2023年9月時点で地方公共団体86団体、民間事業者など276団体が参画。防災分野の課題の明確化、災害状況に応じた防災アプリケーションに求められるデータ項目、マイナンバーカードを活用した防災対策などについて協議を行っています。
研究分野では、国立研究開発法人の「防災科学技術研究所」が不動産会社と協力し、地震動情報と建物の構造データを掛け合わせて、地震発生後10分~2時間程度で、建物別の被害状況や液状化現象の発生状況を即時に把握できる防災情報システムを構築しました。
同システムでは、被害状況や建物損傷度を独自に設定した5つのランクに分別し、損傷ランクの大きな建物から対応することで、復旧工事の早期終結や災害対応の効率化を目指しています。
自治体独自の取り組みも進んでいます。人口における高齢化率が20%を超える沖縄県の石垣市、宮古島市などでは、災害時に避難行動要支援者(※)に向け、架電による一斉安否確認を行い、その結果をリアルタイムで集計できるシステムを導入しました。安否確認の回答集計後は、地図上への被災者の居場所表示、レポート作成が行われます。これにより、要救助者への対応の迅速化や、関係機関に向けた報告の効率化を狙っています。
※避難行動要支援者支援…要配慮者(高齢者、障がい者、乳幼児、妊産婦、児童、傷病者、外国人など、特に配慮を要する者)のうち、自ら避難することが困難で、円滑かつ迅速な避難を行う際に特に支援を要する者のこと
高齢化率が30%超とさらに高い福島県会津若松市では、2023年3月から大手キャリアが開発した防災アプリを運用。位置情報を活用した防災アラート情報や防災マップ、避難ルートといった情報を住民に届ける「デジタル防災」を推進しています。
防災対策と個人情報保護をどう両立する?
こうした防災DXを進めるにあたって、ひとつ大きな問題が存在します。それが、個人情報の保護です。
自治体が災害発生時における安否確認や、各住民の状況に応じた正確な情報を届けていくためには、住民データの活用が必要になります。もちろん、住民データはプライバシー性の高い情報のため、個人情報保護法に準拠した取り扱いが求められます。2023年4月に施行された改正個人情報保護法では、改正前は各自治体それぞれの条例に基づいて取り扱われていた個人情報が、現在では新たな個人情報保護法の下で扱われることになっています。
前述した防災DX官民共創協議会によるシンポジウムでも、防災DXを推進するにあたっての懸念点として、個人情報の取り扱い方、本人同意と本人確認、データ連携における法的課題や技術的課題といった点が示されました。
こうした課題に応じて、内閣府の防災担当は2023年3月に「防災分野における個⼈情報の取扱いに関する指針」を発表。災害時に必要な個人情報の活用範囲は変わること、活用判断は地方公共団体に委ねられることを前提とし、有事の際には各自治体の判断に資する内容の指針を示しました。
つまり自治体は、災害時における救助活動であれば、自らの責任にて個人情報を扱うことが許可されます。たとえば、安否不明者の氏名を自治体が公表するといったようなことも、災害時においては可能ということになります。
災害が発生した時に、「どうやって対処しよう?」「個人情報はどう扱えば良いんだろう?」と慌てているようでは、被害はさらに広がるばかりです。いつ災害が発生しても対処できるよう、ITの面でも法制度の面でもあらかじめ準備をしていくことが、災害大国の日本で求められているといえるでしょう。
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