2024.03.29 (Fri)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第46回)
広告に続々登場「AIタレント」の弱点とは
AIで作られたタレント「AIタレント」は、さまざまな映像表現が可能であり、スキャンダルなどトラブルも無縁というメリットがあります。しかし、弱点も存在します。
一見するとAIとは気付けないAIが、企業のCMに出演している
企業の広告に、AIによって作られた架空のタレント「AIタレント」を起用するケースが増えています。
たとえば2023年9月に放送が開始された、伊藤園の「お~いお茶」のテレビCMには、AIで生成したバーチャルヒューマンが起用されました。
CMの内容は、お茶を手にした白髪の女性が、30年前の姿に若返った自分に商品を渡すというものです。同社では、同一人物の老年期と若い頃の姿のリアリティーを追求するために、加工や微修正が可能なAIタレントを登用したとしています。
このCMに出演する女性のAIは、東京都に本社を構えるAI model株式会社という企業が、AI技術によって生成したオリジナルのモデルです。一見すると、AIとは思えないほどリアリティがあります。公開後、YouTubeで公開されたCM動画は、約80万回もの再生回数を記録しています(現在、同社のYouTubeでは非公開)。
AIの「インフルエンサー」も登場している
広告にAIタレントを起用するケースは、ほかにもあります。
野村ホールディングスは、2023年6月からスタートする新しいNISA(少額投資非課税制度)の広告ポスターに、バーチャルヒューマン「imma」を起用しています。
immaは、ピンク色のショートボブの髪型が特徴のAIモデルです。AIでありながら、Instagramは約40万人、TikTokは約50万人のフォロワーを獲得しており、さながら“AIインフルエンサー”といったところです。2024年2月にはグローバルファッションブランド「COACH」と契約したことも話題になりました。
野村ホールディングスは、immaを広告に起用した理由として、「近未来的で洗練された世界観を通して、広告に触れた方がご自身の未来を思い描き、その実現に向けて歩み出すきっかけとして資産形成に関心を持っていただきたい」と説明しています。
immaを生み出したのは、渋谷に本社を構える株式会社Aww。同社はimmaのほかにも、plusticboy、Riaというバーチャルヒューマンをプロデュースしています。
ファッションビルを運営するパルコは、2023年10月に公開したクリスマスキャンペーン「HAPPY HOLIDAYSキャンペーン」の広告に、AIタレントを起用しています。
この広告では、背景を含めて撮影は一切行わず、グラフィックムービーや音楽、ナレーションに至るまで、全て生成AIを用い、プロンプト(AIに対する指示)のみで作成したことが発表されています。
AIの起用は、企業の先進性のアピールになる
なぜ企業は、AIをタレントとして、自社の広告に起用するのでしょうか?
理由のひとつが、企業の先進性をアピールすることができる点です。野村ホールディングスやパルコのケースで挙げたように、現時点で最新のテクノロジーであるAIを広告で活用するということは、それだけで「新しい取り組みを行っている企業」「新しいテクノロジーを使いこなす企業」というアピールになります。
別の理由としては、伊藤園の例のように、自由な表現が可能になる点です。伊藤園のCMでは、白髪の女性が若返るという映像が描かれましたが、実際のタレントを起用すると、メイクや撮影に相当な時間を要します。しかしAIであれば、髪色や表情も狙った通りに変えることができます。生身のタレントで不可能だった表現が、AIであれば可能になるというわけです。
このほか、AIタレントは生身の人間ではないため、スケジュールを抑える必要もなく、撮影費用も必要ありません。さらにいえば、プライベートで不祥事を起こす恐れもありません。こうした「扱いやすさ」も、AIタレントを起用するメリットといえるでしょう。
AIだけが持つ、人間には無い「個性」とは?
とはいえ、AIタレントが人間のタレントと比べ、すべてにおいて優れているかというと、そういうわけではありません。企業が広告にAIタレントを起用する際には、弱点ともいえるポイントが存在します。
それが、AIタレントの外見が実際の人物と類似することによる、肖像権・パブリシティ権を侵害する可能性を有する点です。肖像権とは自分の顔や容姿をみだりに撮影・公表されない権利、パブリシティ権は、著名人の名前や肖像が持つ経済的な利益・価値を、他者に無断利用されない権利のことです。いずれも、「他人に自分の顔や名前を勝手に使われない」ことを保証する権利です。
もしCMに起用したAIタレントが、実在のタレントに酷似していた場合、その人物から「肖像権とパブリシティ権を侵害している!」として、訴訟を受けるリスクがあります。現実世界のタレントにもリスクは存在しますが、AIタレントにも、AIならではのリスクが存在する、というわけです。
テクノロジーの進化により、今後もAIタレントが広告に起用されるケースが増えることが予想されます。しかし、AIの表現が精巧になればなるほど、AIタレントは人間に似ることになるため、権利関係のリスクも高まります。AIタレントは、人間と何が違うのか、AIタレントだけが持つ個性とは何で、それをどう表現するのか、AIタレントをデザインし、プロデュースする企業の力が試されることになりそうです。
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