さまざまなデータをAIが学習・分析することで、将来の需要を予測する「AI需要予測」というツールが、ビジネスの現場に採り入れられつつあります。AIはどのように未来の需要を予測するのでしょうか。また、どのようなシーンで活用されているのでしょうか。
AIの需要予測は、従来の勘や経験に頼った予測と何が違うのか
AI需要予測とは、売上や販売実績、顧客情報といった過去のデータ、気象情報や交通量などの周辺データをAIが学習・分析することで、将来の需要を予測する手法です。
需要予測自体は、目新しい概念ではありません。これまでもさまざまなデータを基に売れ行きを予測し、商品の仕入れ計画や発注作業、人員配置は行われてきました。しかし、モノが売れるまでのプロセスにはあらゆる要因が複雑に絡み合うため、予測精度は決して高いものではありませんでした。
予測が外れた場合、欠品による販売機会の喪失や、緊急発注による仕入れ価格の増加、過剰在庫による廃棄ロス増加などの悪影響を受ける恐れがあります。加えて、需要予測の担当者の作業負荷が増えることで、担当者が肉体的・精神的なプレッシャーを過剰に抱えるというデメリットも考えられます。
しかし、AIを活用した需要予測であれば、担当者の作業は軽減されるうえ、勘や経験に頼る必要もなくなるため、業務の属人化が解消できます。
AIの需要予測は「業務効率化/販売機会の増加/マーケティングの高度化」をもたらす
AI需要予測を活用することで、いくつかのメリットが生まれます。以下に3点に分けて紹介します。
1. 業務効率化
従来は担当者が担っていた需要予測をAIが代替することで、発注業務などの負荷が軽減され、作業者は他の業務にリソースを割けるようになります。さらに、高精度な予測結果に基づいて過不足のない仕入れや在庫、人材配置などを実現することで、より効率的な企業運営が可能になります。
2. 販売機会の増加/廃棄ロスの削減
データに基づく高精度な需要予測ができるようになると、これまで欠品によって発生していた販売機会の喪失が改善され、販売機会が増加し、顧客満足度の向上にもつながります。さらに、膨大なデータをAIが分析することで、今まで気が付かなかった新たなニーズやビジネスチャンスを発見する可能性もあります。
それ以外にも、過剰在庫の改善や廃棄ロスの削減、人員配置の最適化なども可能になるため、利益率の向上も期待できます。特に廃棄ロスの削減は、持続可能な社会づくりへの貢献という観点でも大きな価値をもたらすでしょう。
3. マーケティングの高度化
AI需要予測はマーケティング領域でも有効活用できます。たとえば、新商品の販売計画やキャンペーン計画を策定する際、いつ、どの媒体にどのようなキャンペーンを打ち出すのか、どのエリアにどんな販促を展開するのかといった戦略を、根拠のある予測値に基づいて判断できるようになります。結果的に、精度の高いマーケティング施策が期待できます。
すでに多くの企業がAI需要予測で成果を出している
AI需要予測は、業界を問わず活用できる汎用性の高さも魅力のひとつです。
たとえば、小売・流通業では発注業務や在庫管理に活用できる一方で、農業や製造業における生産計画に活かすこともできます。宿泊施設などの観光業やテーマパークなどのエンターテイメント業では、AI需要予測で予約数・来場者数の増減が予測できるため、繁忙期と閑散期で価格を変えるダイナミックプライシングも導入しやすくなるでしょう。
実際にAI需要予測をビジネスに活用している事例を3つ紹介します。
ホームセンターを経営するグッディは、10人以上の仕入れ担当者が独自の方法で年間約900件の仕入れ計画を策定していました。しかし、予測のロジックが属人的で勘や経験に頼るところが多く、実際に過剰在庫の発生によって仕入れ先への返送などの在庫管理業務が発生していました。
そこで同社はAI需要予測を導入し、過去の売上や天気情報をもとに将来の売上を予測したところ、在庫最適化によって在庫管理業務が大幅に減少。さらに、仕入れ担当者もAIの予測結果に基づく議論ができるようになり、経営層との対話の精度も向上したといいます。
資生堂は、新製品の需要予測にAI技術を活用しています。同社は売上や在庫などのデータだけでなく、研究所が保有するデータ、人口動態や世帯年収などの外部データも含めた大量のデータをAIに学習させることで、需要予測の精度を向上しています。さらに、予測値を解釈して他部署に分かりやすく伝える「デマンドプランナー」という役割を配置することで、AI需要予測を単なる予測で終わらせずに、営業やマーケティングに活かす取り組みに注力していいます。
“人流”のAI需要予測を実現しているのが、NTTデータの「BizXaaS MaP® 人流分析」です。このソリューションでは、人口分布統計、GPSなどの複数のデータ、地理空間データを複合的に処理することで、建物単位、道路単位での人流を分析・予測します。これにより、特定エリアの絶対人数推計や性別・年代・居住地割合などの属性、今後の人流予測がリアルタイムで把握できるようなりました。
この人流予測の情報を飲食店が入手できれば、リアルタイムの街の人出が把握できるようになり、仕込み量の調整や、閉店間際の割引率が最適化でき、利益率向上やフードロス削減といった効果も期待できます。
このように、AI需要予測は業界を問わず活用が可能です。現代は先の読めない時代ですが、だからこそAIを活用した精度の高い予測が価値をもちます。もし、まだアナログな需要予測を行っているのであれば、AIに切り替えてみてはいかがでしょうか。
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