2023.09.08 (Fri)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第25回)
健康のDX「パーソナライズド・ニュートリション」
「パーソナライズド・ニュートリション」(Personalized Nutrition)という言葉をご存知でしょうか。これは日本語では「栄養のパーソナル化」という意味で、要は健康データなどをもとに一人ひとりに最適な食事や栄養を提供することを指します。特に海外では成長が著しい分野であり、国内でも大企業やスタートアップが積極的に参入している領域の一つです。その背景にあるニーズや、具体的なパーソナライズド・ニュートリションのサービスについて紹介します。
市場規模434億ドル。予防ニーズの増加でさらなる成長も
パーソナライズド・ニュートリションは、一人ひとりの体質や栄養バランスに合わせた栄養改善を行っていくことを指します。米国の調査会社によると、パーソナライズド・ニュートリションのグローバル市場規模は、2022年の時点で434億ドルと評価されており、2030年にかけて年間平均成長率15%で拡大すると予測されています。
この市場成長の大きな要因のひとつが、消費者の健康意識の高まりです。新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、世界的に“予防”に対するニーズが増加し、より健康的なライフスタイルが求められるようになりました。
さらに、データやテクノロジーの活用が生活に浸透してきたことも、パーソナライズド・ニュートリションに影響していると予想されます。
食品製造会社のDiana Foodが実施した調査では、イギリスの成人の70%が「自分たちのライフスタイルが長期的な健康にどのような影響を与えているかを理解したい」と回答しており、さらに中国の成人の72%が「個人情報と健康データを共有することで、よりパーソナライズされたヘルステック商品・サービスが提供されると信じている」と答えています。
ヘルスケア領域では、PHR(Personal Health Record=生涯型電子カルテ)など、個人のデータを活用した製品・サービスが増加しています。消費者の側は、より良いサービスを受けるため、個人のデータを提供することに前向きなようです。
AIが不足している栄養素を特定し、最適なサプリを提案
パーソナライズド・ニュートリションでは、どのようにユーザーの健康をサポートするのでしょうか? 世界で実際にリリースされているサービスを例に紹介します。
シカゴとヘルシンキに本社を置くRevieve社は、「AI Nutrition Advisor」というパーソナライズド・ニュートリションのサービスをスタートしています。これはAIがユーザーのパーソナルデータをもとに、健康や美容、ウェルネスへの関心や目標、嗜好などを分析し、さらに顔写真のフェイシャルデータから不足している栄養素を分析し、一人ひとりに合わせた最適なビタミンや美容サプリメントをレコメンドするというサービスです。
国内では株式会社ユカシカドという会社が、尿で栄養推定吸収量や栄養バランスを測定するパーソナル栄養検査キット「VITANOTE」を展開しています。さらに、その検査結果をもとに、個別最適化されたサプリやプロテインを提供するサービスも行っています。このVITANOTEは、経済産業省主催のビジネスコンテストで最優秀賞を受賞しています。
このほかドリコス株式会社では、ウェアラブルデバイスや体組成計などで取得したパーソナルヘルスデータを管理するソフトウェアを開発。そのデータを元に、必要な栄養素を自動的に提供する“世界初のオーダーメイドサプリメントサーバー”を、ジムなどの施設に提供しています。
大手企業も続々参入
ここまでは主にスタートアップ企業のサービスを中心に紹介しましたが、近年は大手企業も、パーソナライズド・ニュートリションによるヘルスケア領域に参入し、PHRを活用したサービスを展開するケースも出てきています。
たとえば味の素では、血液中のアミノ酸濃度バランスから、さまざまな疾病リスクを評価し、生活習慣に起因する疾病の発見や予防の機会創出をサポートする「アミノインデックス」という健康チェックサービスをスタートしています。
お菓子メーカー大手のカルビーでは、さまざまな質問項目の回答から日々の食生活や身体の状態を分析し、一人ひとりに合わせた食事を宅配する“パーソナライズ宅配食サービス”として「OMA MESHI」(おまめし)を展開しています。
IT企業でもパーソナライズド・ニュートリションへの取り組みは進んでいます。富士通では、PHRの情報を蓄積・活用するためのプラットフォーム「Healthcare Personal service Platform」を構築。さらにNTTデータでは、企業の健康経営を支援するシステムと個人の生涯健康管理を支援するシステムが一体となった健康管理クラウドサービス「Health Data Bank」を開発しています。
誰もが「自分の身体は自分が一番良く知っている」と考えがちですが、パーソナライズド・ニュートリションのようにデータを活用することで、これまでは気付けなかった身体の状態に気付き、改善することが可能になります。
パーソナライズド・ニュートリションのような「デジタル技術を活用した予防・健康づくり」は、日本政府が未来の健康づくりに向けた基本コンセプトとして掲げた方針とも合致しています。パーソナライズド・ニュートリションに関連したサービスは、今後も増えていくことでしょう。
連載記事一覧
- 第1回 出張が不要になる?新技術「ホロポーテーション」 2016.07.15 (Fri)
- 第2回 AIがオフィスの空気を管理すれば生産性は上がる? 2016.08.29 (Mon)
- 第3回 目は口ほどにものを言う、「感情認識」の新ビジネス 2016.09.28 (Wed)
- 第4回 仕事中の危険を未然に防ぐ「バイタルデータ」とは 2016.10.14 (Fri)
- 第5回 社会インフラを激変させる可能性を秘めた仮想通貨 2017.10.03 (Tue)
- 第6回 企業が仮想通貨で資金調達する時代は到来するか? 2018.03.26 (Mon)
- 第7回 東大廣瀬教授が語る「本気のVRが企業教育を変える」 2021.02.19 (Fri)
- 第8回 建設業界で注目のDX「デジタルツイン」とは 2021.09.14 (Tue)
- 第9回 中小企業こそDXに向く。町工場・今野製作所の挑戦 2021.12.10 (Fri)
- 第10回 小売業の広告販促DX「リテールメディア」の始め方 2021.12.10 (Fri)
- 第11回 「小売業再建のプロ」が語る、利益率UPのヒント 2022.03.01 (Tue)
- 第12回 年4億円コスト削減を達成した地方製造業のIoT活用術 2022.03.04 (Fri)
- 第13回 「幻の日本酒」が安定供給できた裏にデータ活用あり 2022.06.27 (Mon)
- 第14回 いまどきの企業PRに不可欠、Twitterスペースとはなにか 2022.11.15 (Tue)
- 第15回 雇用確保につながる可能性も、覚えておきたい「給与のデジタル払い」2022.12.21 (Wed)
- 第16回 なぜ世界の小売店が「リテールメディア」に参入しているのか?2023.03.06 (Mon)
- 第17回 経済効果は2兆円!女性の悩みを解決するフェムテックとは2023.03.06 (Mon)
- 第18回 バブル期京都でDX実現! 24時間稼働の無人工場2023.03.15 (Wed)
- 第19回 どうする「2024年問題」物流DXの課題と事例2023.03.30 (Thu)
- 第20回 なぜ企業や自治体が「VTuber」を起用するのか? 2023.03.30 (Thu)
- 第21回 未来を予測し先手を打つ。「AI需要予測」の活用術2023.03.30 (Thu)
- 第22回 顧客の本音を読み解く「センチメント分析」の活用法2023.03.30 (Thu)
- 第23回 「気象ビッグデータ」が売上増とロス削減に貢献する2023.03.30 (Thu)
- 第24回 消費者から信頼感を得るには、トレーサビリティ向上が不可欠2023.04.28 (Fri)
- 第25回 健康のDX「パーソナライズド・ニュートリション」2023.09.08 (Fri)
- 第26回 「Web3」がもたらすビジネスや社会への影響とは2023.09.08 (Fri)
- 第27回 「観光DX」は日本の観光業をどう変えるのか?2023.10.04 (Wed)
- 第28回 大手企業も導入「リーガルテック」で何が変わる?2023.10.04 (Wed)
- 第29回 情報漏えいの原因を解析「デジタルフォレンジック」2023.10.04 (Wed)
- 第30回 関東大震災から百年、災害対策はどう進化したのか?2023.10.04 (Wed)
- 第31回 ITに疎くてもDXはできる!老舗食品企業の挑戦2023.11.22 (Wed)
- 第32回 極地でも高速通信「スターリンク」の可能性2023.12.21 (Thu)
- 第33回 インフラの「老朽化」は、最新技術でメンテナンスできる2024.01.24 (Wed)
- 第34回 新たな個人データ収集方法「ゼロパーティデータ」とは2024.01.24 (Wed)
- 第35回 2024年4月から限定解禁「ライドシェア」の可能性2024.01.24 (Wed)
- 第36回 AIが奪うのは仕事ではなく電力?生成AIのエネルギー事情2024.02.09 (Fri)
- 第37回 トークン経済で市場に好循環は起こるのか?2024.03.01 (Fri)
- 第44回 バス運行を効率化「AIオンデマンド交通」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第45回 生成AIとの対話が成長を促す「AIコーチング」2024.03.29 (Fri)
- 第46回 広告に続々登場「AIタレント」の弱点とは2024.03.29 (Fri)
- 第47回 訪日客が日本のファンになる鍵は「AI」にあり2024.03.29 (Fri)
- 第48回 脳と機械が繋がる「ブレインテック」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第49回 打ち上げが本格化。民間企業の宇宙ビジネスの今2024.03.29 (Fri)
- 第50回 バイヤーもサプライヤーも歓迎!?「自動交渉AI」2024.03.29 (Fri)
- 第51回 医療・建設業界で導入が進む「自律型ロボット」とは2024.03.29 (Fri)
- 第42回 6G、7Gで世界はどう変わるのか?「Beyond 5G」の可能性2024.03.22 (Fri)
- 第43回 脱炭素の効果はブロックチェーンで証明できる2024.03.29 (Fri)
- 第38回 総務省が認可「Wi-Fi 7」とは何か?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 総務省が発表「モバイル市場競争促進プラン」とは?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 インボイスにも対応「IT導入補助金2024」を解説2024.03.29 (Fri)
- 第40回 文章生成AIの理想的な使用法とは?東京都がガイドラインを公開2024.03.29 (Fri)
- 第41回 新たなテクノロジー「光の半導体」とは何か?2024.03.29 (Fri)
- 第52回 訪日観光客が増えるとトラブルも増える!?オーバーツーリズムをどう解決するか2024.05.22 (Wed)
- 第53回 ウェブアクセシビリティが義務化。どう対処する?2024.07.11 (Thu)
- 第54回 決済時間を1/2に短縮「タッチ決済」が普及中2024.07.12 (Fri)
- 第55回 なぜEUは、生成AIを規制しようとしているのか2024.07.12 (Fri)
- 第56回 2024年10月につくば市でスタート「インターネット投票」とは?2024.08.08 (Thu)
- 第57回 7月実施完了。デジタル庁の「フロッピーディスク」使用規定撤廃の方針とは2024.08.08 (Thu)
- 第58回 Googleが動画作成ツール「Google Vids」をテスト開始。どんなツール?2024.08.08 (Thu)
- 第59回 「パーソナルAI」が、ビジネスを代行する時代が来ている2024.08.13 (Tue)
- 第60回 多言語対応や旅行プラン作成も!観光業での生成AI活用法2024.08.13 (Tue)