2023.10.04 (Wed)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第27回)
「観光DX」は日本の観光業をどう変えるのか?
日本政府観光局によると、2023年7月の訪日観光客数は約232万人で、200万人を突破した6月から約12%も高い数値となります。国内旅行者の動きも活発化しつつある今、観光庁は旅行者の利便性向上や観光産業における生産性向上に向けた「観光DX」の取り組みを推進しています。その背景や意義、具体的な取り組みについて、事例を交えながら紹介します。
業務効率化だけじゃない!「観光DX」が目指すもの
一言で「観光」といっても、観光業には旅行会社や旅館・ホテル、バスやタクシーなどの運輸業、お土産品や名産品の製造業など、幅広い業種が含まれます。では、観光DXでは、何をデジタル化し、何を変えていくものなのでしょうか?
観光庁では観光DXについて、観光事業者にデジタルツールを導入することで、業務の効率化を図るだけでなく、ITソリューションによって収集された多様なデータの分析・利活用をするなど、各地の観光におけるビジネス戦略の再検討や新たなビジネスモデルの創出といった変革を行うものとしています。
特にここ数年は、新型コロナウイルス感染症の影響により、観光需要が大きく減少しました。観光業に関係する各企業も、ビジネスがうまく回っていないことが想定されます。観光庁では、観光業がこうした状況から脱却するためには、観光地が抱える課題の解決に向け、地域や関係事業者と連携を図りつつ、観光DXに取り組んでいくことが重要である、としています。
観光業は、人口減少が進む日本において、国内外との交流を生み出す地方創生の切り札になり得ます。観光DXによって、旅行者の消費が拡大し、再来訪も促進され、観光産業各社の収益性や生産性が向上すれば、地域の活性化にも貢献でき、たとえ地方都市であっても、持続可能な経済社会を実現することも可能になります。
観光庁が掲げる観光DXの4つの取り組み
観光庁では、観光DXに対する具体的な取り組みとして、「旅行者の利便性向上・周遊促進」、「観光産業の生産性向上、労働環境の改善」、「観光地経営の高度化」、「観光デジタル人材の育成・活用」の4点を挙げています。
1点目の「旅行者の利便性向上・周遊促進」は、たとえば観光対象地域や観光関連事業者が、旅行者がよく利用するOTA(旅行サイト)などのウェブサイトに情報の掲載を推進し、オンライン上で旅行者が求める情報が提供し、利便性の向上を狙います。さらに、アプリなどで旅行者の現在地や、各旅行者の志向に応じたレコメンドを提供できるような取り組みを推進し、周遊促進・消費拡大につなげるとしています。
2点目は「観光産業の生産性向上、労働環境の改善」です。具体的には、売上やコスト、予約、在庫管理における業務効率化が進んでいない観光・宿泊事業者に対し、デジタルツールの導入やレベニューマネジメント(需要に応じ宿泊料金を変動させ、収益を最大化すること)などの取り組みを推進。さらに、業務効率化により創出された資源を活用することで、さらなるデジタル投資や労働環境の改善を目指します。
3点目の「観光地経営の高度化」では、DMO(観光地域づくり法人)などによるDX推進が盛り込まれた経営戦略の策定を促進し、それらの戦略の策定に役立つ研修・補助事業による支援も実施します。加えて、観光地経営を行うための判断材料を整理・集約し、意思決定に活用するために、CRM(顧客関係管理)やDMP(データを蓄積・管理するプラットフォーム)などの導入を推進し、各地で実施した施策の効果検証を行う地域を拡大していきます。
4点目の「観光デジタル人材の育成・活用」では、外部の専門家や企業による伴走支援を通じて、経営やデジタルに関するノウハウの獲得を図り、さらに新規人材の採用を強化することによって、外部から得たノウハウを長期間定着させる取組も推進していくといいます。
しまなみ海道で導入された観光DXとは?
すでに日本の各地では、こうした観光DXの具体的な取り組みがスタートしつつあります。その一例が、瀬戸内海を挟み、広島県尾道市と愛媛県今治市をつなぐ「しまなみ海道」です。
しまなみ海道の周辺地域では、サイクリングを核とした観光地づくりが行われていますが、これまで事業者間の連携が十分ではなく、来訪者情報や行動履歴といったデータの把握ができていませんでした。中には複雑な予約・決済システムを採用している事業者もあり、旅行者の利便性が上がらず、周遊促進・消費拡大が図れないという課題がありました。
そこで同地域では、スマートフォンのアプリによる、レンタサイクルの予約システムを導入。アプリでは利用者に対する地域からの情報発信や、電子マネーによるレンタサイクル利用料金のデジタル決済機能も搭載されています。
このアプリにより、旅行者の利便性と満足度を高めることで、域内周遊・リピーターの来訪を促し、観光消費の拡大につなげることを目指しています。さらにアプリで収集されたデータを蓄積・活用して、観光地経営の改善につなげることも狙っています。
観光DXはただ観光客を増やすだけではなく、訪れた人々の利便性の向上や対象地域の課題解決を同時に行うことで、地域の活性化や持続可能な経済社会を実現しようとするものです。観光DXが進むことで、コロナ禍でダメージを受けた日本の観光業も回復していくことでしょう。
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