テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第32回)

極地でも高速通信「スターリンク」の可能性

<2025年9月11日改定>
 衛星を使ったインターネット通信は、極地で通信ができる一方で“遅い”というマイナス面がありました。しかし、その常識を覆す「スターリンク」というサービスが登場しています。

衛星インターネットは、極地でも使えるものの遅い

 インターネット通信は、基本的には通信ケーブルが敷設されている場所や、無線電波を発する基地局の周辺以外では利用できません。しかし、「衛星」を使ったインターネット通信(以下、衛星インターネット)であれば、たとえば海上や山間部、住民が少ない離島のような極地であっても、通信を行うことが可能です。

 衛星インターネットでは、地上に設置された無線基地局(地球局)と、宇宙空間に浮かぶ人工衛星の間、さらに人工衛星と地上の端末(アンテナ)との間で通信を行うことで、ケーブルが無い場所でのインターネット通信を可能にします。

 衛星インターネットにはこのようなメリットがある一方で、通信速度が遅いというデメリットも存在します。

 2010年度に総務省が公表した「衛星インターネットサービスの現状」という資料によると、衛星インターネットサービスにおける下りの伝送速度は、最低で2.4kbps、最大でも8Mbpsとなっています。当時は既に最大1Gbpsの光回線が普及していたことを考えると、非常に遅い数値といえます。

 とはいえ「衛星インターネットは遅い」というのは、過去の話となりつつあります。なぜなら、高速で大容量の通信を可能とする、ブロードバンドの衛星インターネットサービスが誕生しているからです。

「スターリンク」で、空からブロードバンドが届く

 ブロードバンドの衛星インターネットサービスの代表的な存在が「Starlink(以下、スターリンク)」です。

 このスターリンクを運営するのは、アメリカの著名な実業家であるイーロン・マスク氏が設立した「スペースX(正式名称:Space Exploration Technologies Corp.)」社です。同社は宇宙空間に衛星を4000機以上も投入しており、その衛星が、地上のユーザーが所有する無線通信端末と各国の地球局を無線通信で結ぶことで、ケーブルが無い地域でのインターネット通信を可能にしています。

 なぜスターリンクは、衛星インターネットにも関わらず、高速の通信が可能なのでしょうか? その背景には、スターリンクの衛星が「低軌道周回衛星」であることが挙げられます。

 従来の衛星インターネットでは、地球から数万kmも離れた場所にある、数機~数十機の衛星を利用して通信を行っていました。しかしスターリンクでは、同社が打ち上げた、地球から約550kmの高さにある4000機以上もの低軌道衛星を利用します。地球により近く、しかも宇宙空間に多数散りばめられた衛星を利用するため、これまで以上の高速通信が可能になりました。

 スターリンクの伝送速度の目安は、同社のホームページで、マップ形式にて公開されています。2025年9月の時点では、日本全域において下り(ダウンロード)は「192~323Mbps」、上り(アップロード)は「22~41Mbps」となっています。

 NTT東日本のフレッツ光のページによると、メールやチャットのやり取りには「上り/下りともに1Mbps」、Webサイトの閲覧には「下りが1~10Mbps以上」、動画の閲覧には「下り25Mbps」、Web会議や動画配信には「上り/下りともに最低3Mbps、標準以上の画質で利用するには15Mbps」、オンラインゲームは「上り/下りともに最低30Mbps、動きの激しいゲームの場合には100Mbpsが必要」としています。

 この数値とスターリンクの伝送速度を見比べると、オンラインゲーム以外の要件はほぼ満たしていることになります。そのため、スターリンクをビジネスシーンで導入しても、ほぼ問題なく使用できることが予想されます。

 なお、スターリンクは通信の遅延の低さを特徴としており、同社ホームページでは「26~36ms」と、100msを切る数値となっています(2025年9月時点の日本における数値)。

能登半島地震で活躍。災害対策として導入するケースも

 スターリンクは米スペースX社のサービスですが、日本の通信会社もスターリンクを活用したサービスを展開し始めています。

 たとえばNTTドコモビジネスでは、2023年10月末にスターリンクを活用した新サービス「Starlink Business」の提供を開始しました。

 NTTドコモではStarlink Businessの用途として、企業や自治体が災害時における事業継続性を高めるためのバックアップ回線や、山間部の建設現場における遠隔監視ソリューションや農業など一次産業向けのIoTソリューション、海上での高速データ通信として活用できるとしています。

 2024年1月に発生した能登半島地震以降は、災害対策の一環として活用されるケースが目立っています。

 同地震では携帯電話の基地局が使えなくなったり、光ケーブルが寸断されるなどの被害を受けましたが、避難所にStarlinkが設置されたことで、被災者はそのような状況であっても、無線通信を使用することができました。現在では多くの自治体が、災害対策の一環としてStarlinkを導入しています。

 従来の衛星インターネットについて「遅いのが当たり前」「ケーブルが無いところでも通信ができるだけで十分」というイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、スターリンクはその常識を大きく覆すサービスとなります。極地で高速なインターネットが必要な場合には、スターリンクが助けになることでしょう。

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