2025年4月1日利用分より、フレッツ 光ネクスト(一部サービスタイプ)の月額利用料を改定します。詳細はこちら別ウィンドウで開きますをご確認ください。

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2023.03.15 (Wed)

テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第18回)

バブル期京都でDX実現! 24時間稼働の無人工場

 HILLTOP株式会社は、30年以上も前の1980年代に、24時間の無人稼働工場を構築しました。なぜそのようなことができたのでしょうか? 同社相談役の山本昌作氏に聞きました。

1980年代に24時間365日稼働の無人工場を実現

 京都府の南部、緑茶の名産地で知られる宇治市に、HILLTOP株式会社というものづくり企業が存在します。医療や航空、造船、産業機器、半導体、宇宙、ロボット、化学・バイオなど、幅広い業界の部品加工を手掛けています。

 同社は「多品種」「単品」「無人加工」のアルミ切削加工が特徴で、簡単なプログラムを入力するだけで、機械がプログラムに従って自動で作業を行います。しかも工場は無人で、24時間365日の稼働に対応。そのためルーチンワークを行う作業員はおらず、従業員はプログラマーやデザイナー、開発担当者などで構成されています。

 同社のこの生産管理システムは「HILLTOPシステム」と名付けられており、実は今から30年以上も前の1985年に完成、稼働しています。

 なぜHILLTOPは、「DX」や「スマートファクトリー」という言葉がなかった1980年代に、そのような自動生産システムを搭載した“DX工場”を構築できたのでしょうか? 同社の相談役を務める山本昌作氏に、HILLTOPシステムができるまでの顛末と、製造業のDXを進めるための秘訣を聞きました。

「何も考えずに手を動かせ」が許せない!

 HILLTOPは1961年に、わずか3名の従業員を擁する工場として誕生しました。当初は「山本鉄工所」という社名で、幼少期に全聾(ろう)となった山本氏の兄が将来働き口に困らないよう、両親が開業したのがきっかけです。

 山本鉄工所のメインとなる業務は、自動車メーカーの孫請けによるアルミ部品の切削加工でした。製造工程は、同じ部品を数千個、流れ作業で作り続けるというもので、山本氏は当時の様子を「油まみれの工場で、誰もが暗い顔をして働いていた」と振り返ります。

 当時の山本鉄工所にネガティブな印象を抱きながら育った山本氏は、将来は家業を継ぐのではなく、商社に入社することを決意。実際に商社の内定を取り付けることに成功するも、母からの懇願を受け、家業を継ぐ道を選びます。

 大学卒業後、山本鉄工所のスタッフとして入社した山本氏は、はじめは先輩従業員からかけられた「何も考えずに手を動かせ」という言葉に従っていたものの、徐々に何も考えることなく働くことに耐えられなくなったといいます。

 「当時の私は、“人間は考える葦(あし)じゃないのか。私は何をやっているのだろう!”と、何度も自問自答しました。怠惰な時間を送るだけの『労働』が許せませんでした」(山本氏)

 山本氏はさらに、山本鉄工所のメインビジネスである自動車メーカーの孫請け業務についても問題視しました。山本鉄工所は自動車メーカーから度々コストダウンを迫られており、このまま受託し続けていれば、長い目で見れば経営が立ち行かなくなることを危惧していました。

 入社から4年経った1981年、山本鉄工所のビジネスを根本から変えることを決意した山本氏は、当時経営を仕切っていた両親を説得。受託業務の8割を占めていた自動車メーカーからの依頼を受けないことを決定しました。

「大量生産」を「多品種少量生産」に切り替えた一枚の図面

 家族と従業員が生活できるだけの安定した収益を得ていた山本鉄工所ですが、自動車メーカーからの依頼を断ったため、その分の売上を別の案件で埋める必要があります。山本氏は新たな顧客を開拓するため、さまざまな企業を訪問したといいます。

 そんな日々を送る中、山本氏の考え方を変える出来事が起こります。某メーカーを訪問し、ある図面を受け取ったものの、どのように作業をすればよいのか、図面からはまったく見当もつきませんでした。

 当時は背水の陣でした。「『問題ありません!』と回答して持ち帰りましたが、正直なところ、これまで扱ったことがないタイプの図面で、こればかりは帰りの車の中で図面を助手席に置いて、えらいことをしたなと思いました。

 複雑で入り組んでいるため、どのような技術を有する職人が必要なのか、何の機械を使えばいいのかわからず、図面の前で頭を悩ませました。しかし、自動車メーカーの孫請け業務から離れたい一心で知恵が働き、結果として会社の利益にもつなげることができました。

 この時に“大量生産をしているだけでは、新しいものを作り出せない。もっと別の生産の形を作り出さなければ”と考え、大量生産を止め、『多品種少量生産』への挑戦を決意しました。さまざまな品種を少しだけ生産できれば、多種多様なニーズに応えられるうえ、在庫が膨大になるリスクも抑えられます」(山本氏)

 大量生産から多品種少量生産に切り替えるために、山本氏がまず手を付けたのは、職人の勘や経験に依存していた自社の技術をデータベース化することでした。属人化している技術を定量化することで、自社で何ができるのか、何ができないのかが把握できるようになります。

変革に非協力的な職人たちは、なぜ翻意したのか?

 山本氏はさらに、自社で抱える職人に対し、作業に取り掛かる際にシナリオ(工程表)を書くことも指示します。このシナリオは、再度同じ業務を受注した際の作業効率を省くためのものです。

 しかし、山本氏が指示を出しても、職人は誰一人として耳を貸しません。これまではシナリオがなくても作業は進められていたため、職人たちはシナリオ作りをすることに価値があるとは考えていませんでした。

 そのような状況の中で、山本氏は日々職人と交渉を繰り返し、職人が自らシナリオを書くまでそばに居座り続けました。

 「ビジネスを転換するためには、自社が持つ情報の整理整頓が重要だと考えていました。モノづくりを人の記憶に頼ることは非効率です。多品種少量生産に取り組むのであれば、一度請け負った業務をデータ化した方が再現性も高くなります。人間はもっとクリエイティブなことに取り組むべきだと考えていましたし、その取り組みを通じて付加価値が生み出せれば、自ずと企業価値も上がるはずだと信じていました」(山本氏)

 職人たちは、当初は嫌々シナリオ作りに取り組んでいましたが、再度同じ作業を行った際に、シナリオがあることで以前よりもはるかに効率的に生産できることを実感。以後、シナリオ作りに協力的な態度を取るようになりました。山本氏も職人たちが作成したいくつものシナリオをデータ化し、システムに組み込めるようになりました。

こうして生まれたのが、冒頭で触れたオリジナルの生産加工システム「HILLTOPシステム」です。

HILLTOPを支える「HILLTOPシステム」 工場が見えるオフィスでプログラミングに取り組む社員

 同システムは以降も度々アップデートし続けていますが、山本氏は「HILLTOPシステムの軸になる『究極の合理的なモノづくり』という思想だけは変えないようにしています」と語ります。

ストライクゾーンを外す経営者であれ

 大量生産から多品種少量生産へと完全に舵を切った山本鉄工所は、多くの受託業務に対応することで業績を伸ばしていきました。2014年には、現社名であるHILLTOP に変更。米国法人ではNASAやウォルト・ディズニーなどの発注も舞い込むようになったといいます。

 こうしたHILLTOPの発展の歩みを支えているのが、同社が理念として掲げ続けている「5%理論」です。

 「5%理論とは、『利益の5%は面白いことに使おう』という考え方です。この理論には、大損をしても構わないから、会社として新しいことに挑戦する、という狙いが込められています。挑戦してこそ人材を育てることができ、人材が育つことで、会社も発展します。ストライクゾーン、つまり得意分野だけを仕事にしてもイノベーションは生まれません。ストライクゾーンを広げる挑戦の先に成功があります」

既存の機械とワークフローを維持したままでは、DX化は進まない

 山本氏は日本のモノづくり業界の未来について、今後も大量生産を続けるのであれば、世界によって淘汰される可能性があるとしながらも、一方でその淘汰から逃れる方法もあると指摘します。

 「大手自動車メーカーを始めとして、大量生産を行っている工場はどんどん海外へ拠点を移しています。この流れは止められないでしょう。いつまでも大量生産にしがみついていては、日本のモノづくりは淘汰されていくことが予想されます。

 日本の製造業の経営者は『これから何を作るのか』を真剣に考え、自社でしか実現できないモノづくりに挑戦すべきです。大量生産から抜け出し、多品種少量生産に注力する製造業者が増えることで、日本は「多品種少量生産の国」という、世界でも唯一無二の存在に成り得ます」

 最後に山本氏は、製造業におけるDX、スマートファクトリー化を進めることは、従業員を育てることにもつながると評価します。

 「私は製造業におけるDX・スマートファクトリー化の目的を、『人を育てること』と考えています。DXによって、単純なルーチン作業に埋没している従業員を開放することで、新しい仕事に挑戦できる人材が増え、その従業員が挑戦し続ければ成長し、結果として会社の収益向上につながっていきます。こうした考え方を、私は『善循環』と呼んでいます。

 DXを『既存の機械とワークフローを変えることなく、どう利益を上げるか』という程度の認識でいると、DXどころか、生き残りも厳しくなるでしょう。経営者が勇気を持って、リスクを取る決断をすべきです。結果的にその決断は、善循環を生むきっかけになると確信しています」(山本氏)

HILLTOP株式会社
相談役
山本 昌作(やまもと しょうさく)

立命館大学経営学部を卒業後、HILLTOPの前身である山本鉄工所へ入社。1985年、職人の技術の定量化により独自の生産加工システム「HILLTOPシステム」を開発し、24時間稼働の無人工場を実現。関西IT戦略会議「関西IT活用企業百選」最優秀賞を二度受賞。その他、経済産業省「がんばる中小企業300社」、日本管理学会「ものづくり大賞」など数々の賞にも選定されている。

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