2024.03.29 (Fri)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第47回)
訪日客が日本のファンになる鍵は「AI」にあり
訪日外国人観光客が増加していますが、さらなるインバウンド需要の増加を目指すためには、訪日客の満足度向上が求められます。その鍵となるのが「AI」です。
訪日外国人観光客はコロナ前に戻っている
訪日外国人観光客が急増しています。
JNTO(日本政府観光局)によると、2024年1月の訪日客数は2,688,100人で、前年同月比で79.5%増。コロナ前の2019年1月と、ほぼ同数を記録しました。
加えて、2023年の累計訪日客数は約2,506万人で、コロナ禍以降、4年ぶりに年間2,000万人を超えました。インバウンドの需要は、コロナ禍以前の水準にまで回復傾向にあると見られています。
日本政府も、経済成長のけん引役として、インバウンド需要のさらなる成長に期待をしています。岸田文雄首相は2023年11月、2030年の訪日客数を、2023年の3倍の6,000万人、訪日旅行の消費額を15兆円まで増加させる目標を掲げています。
「日本のファン」を増やすためには、観光客の不満を解消する必要がある
しかし、このような高い目標が掲げられる一方で、言語、文化、宗教など、多様化する訪日客のニーズを、彼らを受け入れる側である日本のインフラや観光地が対応できず、旅行者が不満を抱く恐れがあります。
観光庁の資料によれば、旅行者が日本を訪問した際には、「案内板が日本語のみで書かれており、意味が分からない」「スタッフとコミュニケーションが取れない」「飲食店で自分の食生活に合ったメニューが提供されていない」「災害が発生したり、病気になった場合にどうしたら良いか分からない」など、さまざまな不満を抱く可能性があるとしています。
同資料では、政府が掲げた目標を達成するためには、外国人旅行者が我が国に入国してから出国するまでの間の旅行環境を“世界最高水準”に高め、地方部も含めた旅行体験の満足度を一層向上し、旅行者を日本の強力なファン層とする必要がある、としています。
とはいえ、日本のすべての観光地が、先に挙げたような不満を解消するような対応ができるわけではありません。特に、過疎化が進む地方都市では、観光業で働く優秀な人材を確保することも困難でしょう。
そこで、解決の鍵となるのが「AI」です。たとえば、多言語の翻訳に対応可能なAIチャットボットを導入すれば、多言語が話せるスタッフを雇うことなく、外国人観光客への対応が可能です。さらに、定型的な観光案内や質疑応答など、一人ひとりの興味関心に応じた観光スポットの提案にも活用が可能なため、観光客の満足度の向上にも貢献できます。
外国語が話せなくても、AIチャットボットがあれば対応できる
すでにこうした多言語に対応したAIは、日本の観光地でも導入や実証実験が進みつつあります。
まずは、沖縄県における観光案内所の検証事例です。那覇市と北谷町にある観光案内所では、訪日客対応をするスタッフ不足の解消や、窓口対応の効率化を目的に、多言語対応可能なAIチャットボットの活用検証が行われています。
同観光案内書では、観光情報や観光相談所に寄せられた相談などのデータをAIにインプットし、チャットボットで自動回答できるよう設定し、LINEなどのメッセージアプリやブラウザで、チャットボットにアクセスできる環境を構築しています。
検証段階では、訪日客による利用率はさほど高くなく、相談の対応に必要な収集データの分析にも課題があったといいます。今後は継続的な利用普及の取り組みや、データ集計項目の整備などで、改善に取り組んでいくといいます。
不動産・リゾート事業者である東急は、北海道の観光案内を効果的に行うために、函館空港の観光案内所にAIコンシェルジュ端末を設置しています。この端末では、多言語に対応したAIチャットボットや自動音声対話、新千歳空港の外国人観光案内所とのリモート通話で観光案内を行い、人員や言語対応力に課題のある案内所をフォローします。
このAIコンシェルジュ端末では、訪日客の滞在期間や興味関心など、複数の条件を選択すると、自動的におすすめの観光コースなどが提案される「たび診断」という機能も搭載しています。同社では東京・渋谷にも同様のAIコンシェルジュ端末を設置し、東京の訪日観光客にも北海道旅行をアピールしています。
現在、訪日客が訪れる観光地のタクシー会社や駅窓口などでは、多言語対応を目的とするAI翻訳機やAIアバター接客の導入・実証が進んでいます。
観光産業がAIを積極的に取り入れ、訪日客へのサービス向上を図り、AI活用がスタンダードになれば、増え続けるインバウンド需要のニーズに対応することは十分に可能です。政府が掲げる「2030年の訪日客数6,000万人」をクリアすることも、夢ではないかもしれません。
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