2024.08.08 (Thu)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第56回)
2024年10月につくば市でスタート「インターネット投票」とは?
茨城県つくば市では、2024年10月の市長選・市議会選に「インターネット」投票を導入することを明らかにしています。不正アクセスなど、トラブルの心配は無いのでしょうか?
「投票は投票所で」がスタンダード
数年に一度のタイミングで、必ず行われるもののひとつが「選挙」です。たとえば衆議院議員を選ぶ選挙や、各都道府県・市区町村の首長・議員を選ぶ選挙は、最低でも4年に1度のタイミングで実施されます。
有権者が選挙で投票を行う場合、有権者自身が投票所へ足を運ぶ必要があります。総務省のサイトでも、「選挙は、選挙期日(投票日)に投票所において投票することを原則としています」と明記されています。これは、期日前投票でも同じです。
例外として、名簿登録地以外の市区町村に滞在している人や、指定された病院や老人ホームに入院・入所している人、身体に重度の障害がある人などを対象とした「不在者投票制度」や、国外に住んでいる人を対象とした「在外選挙制度」なども存在しますが、基本的には本人が投票所に足を運び、投票用紙に候補者や政党名を書くのが、日本におけるスタンダードな投票のスタイルです。
しかし、投票所に足を運ばなくても投票ができる「インターネット投票」が、茨城県のつくば市でスタートしようとしています。
つくば市がインターネット投票の実証実験をスタート。トラブルは?
つくば市では、2024年10月に実施される市長選挙・市議会議員選挙にて、インターネットによる投票を実施することを予定しています。
同市が公表している資料「つくば市が目指すインターネット投票について」によると、インターネット投票の対象となるのは、投票所への移動が困難な不在者投票の対象者で、投票には事前に申請が必要となり、かつ投票は期日前の期間に限られるといいます。
同市ではこれまで、数回のインターネット投票の実証実験を行っています。2021年には市内の中学校における生徒会選挙にて、生徒に投票用のアプリがインストールされたスマホを貸与し、本人確認を行ったうえで投票を実施。誰が投票したのかという記録と、誰に投票したのかという投票内容を分けて管理することで、「誰が誰に投票したのか」ということが分からない仕組みを採用したといいます。
さらに2022年11月には、市内の一部の地域に住む、16歳以上かつマイナンバーカードを保有する約1万4千人の住民に対し、インターネットを活用した模擬住民投票を実施しました。
この模擬住民投票では、市が対象となる住民にはがきを送付し、それを受け取った住民が、はがきに記載されているQRコードをスマートフォンで読み取ることで、ネット投票が可能になります。投票の際には本人確認のため、同じくはがきに記載されている16ケタの投票人登録用コードと、メールアドレス登録時に送られる10ケタの投票用コード、マイナンバーカードの個人用認証コードの入力が求められます。
模擬投票の結果、投票資格を持つ約1万4千人のうち10%に当たる1,506票が投票され、投票期間中に特にトラブルは発生せず、不正アクセスやデータの改ざん、不正投票は確認されなかったといいます。
模擬住民投票にて住民に届けられたはがきには、 |
地理的・身体的な制約から、投票所に足を運べない人がいる
つくば市がこのようにインターネット投票に意欲的に取り組む背景には、同市が抱える問題が存在します。
地方創生推進事務局が公開している「公職選挙におけるインターネット投票の実施」という資料によると、つくば市には市内全域を網羅する公共交通機関が無く、自家用車が無いと移動が困難であり、投票所までの移動手段も無いといいます。実際、同市が2020年に実施した市長選挙・市議会議員選挙では、マイカーを持たない20代、または身体的な理由から移動が困難な80代以上の投票率が非常に低く、投票率は“過去最低”の51.6%を記録しました。
この結果を受け、同市は「一部の年代層の投票率低下は、民主的な意思決定に問題がある」と判断、投票所以外でも投票を可能とするインターネット投票の導入に取り組んでいるというわけです。
インターネット投票にはマイナンバーカードが必須
現在のスケジュールでは、2024年10月の市長選挙・市議会議員選挙にてインターネット投票が行われる予定です。
しかし、2022年の模擬住民投票と同方式で実施される場合、つくば市のすべての住民がインターネット投票が利用できるわけではありません。なぜなら、ネット投票にはマイナンバーカードが必要になるからです。
総務省の調査によると、つくば市の人口に対するマイナンバーカードの保有枚数率は76.5%です(2024年6月末時点)。約20%以上の住民がマイナンバーカードを持っていないため、一部の有権者は従来通り投票所に足を運んで投票する必要があるでしょう。
インターネット投票では、「本当に選挙権を持っている人物の投票なのか」という信憑性に加え、「誰が誰に投票したかが分からないよう、無記名で投票する」という“秘密投票”の原則も保証する必要があります。乗り越えるべきハードルは高いものの、もし実現できれば、これまで投票所に足を運べず、投票を断念せざるを得なかった人の意思も、投票結果に反映されることになります。
より多くの有権者の声を集めるという点で、インターネット投票は民主主義をより進化させる投票方法といえるかもしれません。
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