2024.07.12 (Fri)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第54回)
決済時間を1/2に短縮「タッチ決済」が普及中

クレジットカードの「タッチ決済」の普及が進んでおり、最近では鉄道やバスなどの公共交通機関でも使用が可能です。タッチ決済を採用するメリットは、どこにあるのでしょうか?
決済時間を1/2に短縮!
クレジットカードを使ってショッピングをする際、ひと昔前までは、レジに設置されたカードリーダーにカードを挿し込んだり、スワイプする(通す)のが一般的でした。
しかし最近では、カードを端末にかざすだけで決済が完了する「タッチ決済」が普及し始めています。
このタッチ決済は、クレジットカードやデビットカードの表面に「))))」のような4本の波型のマークが付いているカードが利用可能です。端末にワンタッチするだけで処理が完了するため、カードを端末に挿す/通す場合と比べても、素早い決済が可能になります。「VISAカード」で知られるビザ・ワールドワイド・ジャパンのリリースによると、決済時間は従来に比べ1/2に短縮できるとしています。
出典:日本クレジットカード協会
タッチ決済自体は、10年前から存在していた
このタッチ決済は、ここ数年で生まれたものではありません。VISA社によると、タッチ決済に対応したカードを同社が日本で初めて発行したのは2013年5月と、今から10年以上も前のことだったといいます。
それから約6年後の2019年6月には、タッチ決済対応カードの発行枚数が1,000万枚を突破。さらに2023年3月末には、発行開始から10年目のタイミングで、1億枚を突破したといいます。つまり、2019年~2023年までの約4年間の間で、カードの発行枚数が約10倍に増えたことになります。
同社のリリースによると、タッチ決済の魅力の上位に「スピーディ」「おつり/サインの手間がない」「清潔」が挙がっており、タッチ決済がコロナ禍で求められた日常生活の変化に適合した決済手段であるとしています。
鉄道やバスなど、公共交通機関もタッチ決済で利用できる
このタッチ決済で特に注目すべき点が、鉄道やバスなど、公共交通機関における運賃の支払いでも対応し始めているという点です。
たとえば東急電鉄では、同社線内におけるタッチ決済での乗車サービスの実証実験を行っています。カードで切符を購入することなく、専用の改札機にクレジットカードをかざすだけで乗降車が可能になります。このタッチ決済を用いた乗車サービスは、京王電鉄や名古屋鉄道、南海電気鉄道や西日本鉄道など、大手の鉄道会社およびバス会社でも導入されています。
中には、すでに普及している交通系ICカードを廃止し、タッチ決済に切り替えるケースも登場しています。熊本市内を中心に走る熊本市電では、2026年4月より全国交通系ICカードを廃止することを決定。現金以外の支払いは、現在導入済みのタッチ決済、およびQRコード決済のみとする方針を明らかにしています。熊本市は廃止の理由に、機器の更新にかかる費用負担を削減する狙いを挙げています。
交通系ICカードとタッチ決済は、何が違うのか?
なぜ公共交通機関は、タッチ決済による乗車サービスを進めようとしているのでしょうか?理由にはさまざまなことが考えられますが、大きな理由のひとつに、訪日観光客への対応が考えられます。
日本クレジットカード協会のサイトによると、海外ではすでにタッチ決済が決済手段の主流になっている国もあるといます。タッチ決済による乗車サービスを導入することで、訪日観光客のスムーズな鉄道・バスの利用を促す狙いがあるとも読み取れます。
しかし交通系ICカードと比べた場合、タッチ決済は利便性の面で劣っている面もあります。
たとえば東急電鉄の場合でいえば、他社線の駅での利用には対応していません。そのため、東急田園都市線が直通運転をしている東京メトロの駅では、タッチ決済での降車はできません。
加えて、一部の駅ではタッチ決済に対応していないケースもあります。京王電鉄では2024年3月よりタッチ決済の乗車サービスを開始しましたが、スタート時点では、利用は新宿や調布、府中や高尾山口などの主要駅に限られ、味の素スタジアムに最寄りの飛田給駅や、JR線との乗換駅である稲田堤駅では対応していません。ただし、2024年度内には、全駅でタッチ決済に対応することが予定されています。
すでに誕生から20年が経っている交通系ICと比べると、公共交通機関におけるタッチ決済の利便性は、現時点では残念ながら劣っているといえます。しかし、採用する交通事業者が増え、改札にも読み取り端末が増えていけば、やがては交通系ICと同等に利用できるようになるでしょう。世界中のあらゆる支払いがタッチ決済で可能になる日も、そう遠くはないかもしれません。
連載記事一覧
- 第1回 出張が不要になる?新技術「ホロポーテーション」 2016.07.15 (Fri)
- 第2回 AIがオフィスの空気を管理すれば生産性は上がる? 2016.08.29 (Mon)
- 第3回 目は口ほどにものを言う、「感情認識」の新ビジネス 2016.09.28 (Wed)
- 第4回 仕事中の危険を未然に防ぐ「バイタルデータ」とは 2016.10.14 (Fri)
- 第5回 社会インフラを激変させる可能性を秘めた仮想通貨 2017.10.03 (Tue)
- 第6回 企業が仮想通貨で資金調達する時代は到来するか? 2018.03.26 (Mon)
- 第7回 東大廣瀬教授が語る「本気のVRが企業教育を変える」 2021.02.19 (Fri)
- 第8回 建設業界で注目のDX「デジタルツイン」とは 2021.09.14 (Tue)
- 第9回 中小企業こそDXに向く。町工場・今野製作所の挑戦 2021.12.10 (Fri)
- 第10回 小売業の広告販促DX「リテールメディア」の始め方 2021.12.10 (Fri)
- 第11回 「小売業再建のプロ」が語る、利益率UPのヒント 2022.03.01 (Tue)
- 第12回 年4億円コスト削減を達成した地方製造業のIoT活用術 2022.03.04 (Fri)
- 第13回 「幻の日本酒」が安定供給できた裏にデータ活用あり 2022.06.27 (Mon)
- 第14回 いまどきの企業PRに不可欠、Twitterスペースとはなにか 2022.11.15 (Tue)
- 第15回 雇用確保につながる可能性も、覚えておきたい「給与のデジタル払い」2022.12.21 (Wed)
- 第16回 なぜ世界の小売店が「リテールメディア」に参入しているのか?2023.03.06 (Mon)
- 第17回 経済効果は2兆円!女性の悩みを解決するフェムテックとは2023.03.06 (Mon)
- 第18回 バブル期京都でDX実現! 24時間稼働の無人工場2023.03.15 (Wed)
- 第19回 どうする「2024年問題」物流DXの課題と事例2023.03.30 (Thu)
- 第20回 なぜ企業や自治体が「VTuber」を起用するのか? 2023.03.30 (Thu)
- 第21回 未来を予測し先手を打つ。「AI需要予測」の活用術2023.03.30 (Thu)
- 第22回 顧客の本音を読み解く「センチメント分析」の活用法2023.03.30 (Thu)
- 第23回 「気象ビッグデータ」が売上増とロス削減に貢献する2023.03.30 (Thu)
- 第24回 消費者から信頼感を得るには、トレーサビリティ向上が不可欠2023.04.28 (Fri)
- 第25回 健康のDX「パーソナライズド・ニュートリション」2023.09.08 (Fri)
- 第26回 「Web3」がもたらすビジネスや社会への影響とは2023.09.08 (Fri)
- 第27回 「観光DX」は日本の観光業をどう変えるのか?2023.10.04 (Wed)
- 第28回 大手企業も導入「リーガルテック」で何が変わる?2023.10.04 (Wed)
- 第29回 情報漏えいの原因を解析「デジタルフォレンジック」2023.10.04 (Wed)
- 第30回 関東大震災から百年、災害対策はどう進化したのか?2023.10.04 (Wed)
- 第31回 ITに疎くてもDXはできる!老舗食品企業の挑戦2023.11.22 (Wed)
- 第32回 極地でも高速通信「スターリンク」の可能性2023.12.21 (Thu)
- 第33回 インフラの「老朽化」は、最新技術でメンテナンスできる2024.01.24 (Wed)
- 第34回 新たな個人データ収集方法「ゼロパーティデータ」とは2024.01.24 (Wed)
- 第35回 2024年4月から限定解禁「ライドシェア」の可能性2024.01.24 (Wed)
- 第36回 AIが奪うのは仕事ではなく電力?生成AIのエネルギー事情2024.02.09 (Fri)
- 第37回 トークン経済で市場に好循環は起こるのか?2024.03.01 (Fri)
- 第44回 バス運行を効率化「AIオンデマンド交通」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第45回 生成AIとの対話が成長を促す「AIコーチング」2024.03.29 (Fri)
- 第46回 広告に続々登場「AIタレント」の弱点とは2024.03.29 (Fri)
- 第47回 訪日客が日本のファンになる鍵は「AI」にあり2024.03.29 (Fri)
- 第48回 脳と機械が繋がる「ブレインテック」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第49回 打ち上げが本格化。民間企業の宇宙ビジネスの今2024.03.29 (Fri)
- 第50回 バイヤーもサプライヤーも歓迎!?「自動交渉AI」2024.03.29 (Fri)
- 第51回 医療・建設業界で導入が進む「自律型ロボット」とは2024.03.29 (Fri)
- 第42回 6G、7Gで世界はどう変わるのか?「Beyond 5G」の可能性2024.03.22 (Fri)
- 第43回 脱炭素の効果はブロックチェーンで証明できる2024.03.29 (Fri)
- 第38回 総務省が認可「Wi-Fi 7」とは何か?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 総務省が発表「モバイル市場競争促進プラン」とは?2024.03.29 (Fri)
- 第39回 インボイスにも対応「IT導入補助金2024」を解説2024.03.29 (Fri)
- 第40回 文章生成AIの理想的な使用法とは?東京都がガイドラインを公開2024.03.29 (Fri)
- 第41回 新たなテクノロジー「光の半導体」とは何か?2024.03.29 (Fri)
- 第52回 訪日観光客が増えるとトラブルも増える!?オーバーツーリズムをどう解決するか2024.05.22 (Wed)
- 第53回 ウェブアクセシビリティが義務化。どう対処する?2024.07.11 (Thu)
- 第54回 決済時間を1/2に短縮「タッチ決済」が普及中2024.07.12 (Fri)
- 第55回 なぜEUは、生成AIを規制しようとしているのか2024.07.12 (Fri)
- 第56回 2024年10月につくば市でスタート「インターネット投票」とは?2024.08.08 (Thu)
- 第57回 7月実施完了。デジタル庁の「フロッピーディスク」使用規定撤廃の方針とは2024.08.08 (Thu)
- 第58回 Googleが動画作成ツール「Google Vids」をテスト開始。どんなツール?2024.08.08 (Thu)
- 第59回 「パーソナルAI」が、ビジネスを代行する時代が来ている2024.08.13 (Tue)
- 第60回 多言語対応や旅行プラン作成も!観光業での生成AI活用法2024.08.13 (Tue)
- 第61回 GoogleもMicrosoftも参入。「生成AI検索」は何が凄いのか2024.09.24 (Tue)
- 第62回 Googleの生成AI「Gemini」は、ChatGPTと何が違うのか?2024.09.24 (Tue)
- 第63回 DX人材は生成AIにどう向き合うべきか?経産省がデジタルスキル標準を改訂2024.10.08 (Tue)
- 第64回 能登半島地震で被害を受けた通信インフラはどのように回復したのか?2024.10.08 (Tue)
- 第65回 政府が世界から誘客する「デジタルノマド」とはどんな人たち?2024.10.08 (Tue)
- 第66回 まずは何から"生成"する?総務省が生成AIの入門書を発表2024.10.08 (Tue)
- 第67回 Web会議の新たなパートナー。耳を塞がないヘッドホンが登場2024.10.08 (Tue)
- 第68回 行政こそ生成AIが効く!都城市に「自治体DX」の進め方を聞く2024.10.09 (Wed)
- 第69回 なぜコープさっぽろは、AIに"人間らしい"要素を求めたのか2024.10.09 (Wed)
- 第70回 Officeの買い切り版が新発売。サブスク版とは何が違うのか?2024.11.21 (Thu)
- 第71回 携帯電話の番号に「060」が開放された理由とは2024.11.21 (Thu)
- 第72回 自動車内でWi-Fiが使い放題のサービスが登場2024.11.22 (Fri)
- 第73回 根拠を元に回答を生成「Perplexity」(パープレキシティ)の魅力2024.11.22 (Fri)
- 第74回 Wi-Fiの電波が1km先まで届く!?「Wi-Fi HaLow」とは2024.11.22 (Fri)
- 第75回 誤差はセンチメートル級。衛星測位システム「みちびき」が導く未来2024.12.20 (Fri)
- 第76回 市場拡大中!AIで進化する音声認識技術の今2024.12.24 (Tue)
- 第77回 ブランドイメージ向上に効果あり。「香りマーケティング」の今2024.12.24 (Tue)
- 第78回 図表を自動で作成する生成AI「Napkin.ai」が登場2024.12.27 (Fri)
- 第79回 Googleの新ルール「サイト評判の不正使用」とは何か?2024.12.27 (Fri)
- 第80回 水道の老朽化が進行中......解決のカギはAIにあり2024.12.27 (Fri)