2024.08.13 (Tue)
テクノロジーでビジネスの現場が変わる!(第59回)
「パーソナルAI」が、ビジネスを代行する時代が来ている
資料作成やツール開発など、生成AIを活用することによって、業務を効率化しているという人もいるかもしれませんが、最近では生成AIにユーザー自身の行動パターンを学習させ、まるで自身の分身のように振る舞う「パーソナルAI」に、業務を代行させる企業も登場しています。本記事では、パーソナルAIの概要と、ビジネスでの活用事例を紹介します。
生成AIが、自分の代理人となる時代がそこまで来ている
文字でコマンド(命令)を入力するだけで、文章や画像を作り出す「生成AI」は、今後のビジネスにおいてスタンダードに活用される可能性を秘めています。電子情報技術産業協会が発表した「JEITA、生成 AI 市場の世界需要額見通しを発表」によると、国内における生成AI市場規模は今後も拡大する見通しであり、2023年は1,188億円のところ、2030年には1兆7,774円にまで成長していくとされています。
現在の生成AIの活用範囲も多岐にわたっています。総務省が公表している「業務における生成AIの活用状況(他の業務)」では、企画のアイデア出し、プログラミング、チャット対応など、幅広い業務が挙げられています。
上記のような活用方法からさらに発展し、ユーザーの言動や行動パターンといったパーソナルデータを学習させ、ユーザーの代理で自律的に業務を実行し、意思決定につながる提案、あるいは意思決定そのものを行う生成AIである「パーソナルAI」が登場しています。
さらに、このパーソナルAIに画像処理と言語処理技術を組み合わせ、デジタル上にユーザーの人格を再現し、他者とコミュニケーションを取りながらの対話を可能にしたタイプのパーソナルAIも開発されています。
従業員へのコーチングや面接も代行可能に!パーソナルAIの活用事例
パーソナルAIを活用する企業は、すでにいくつか存在しています。
まずは生成AIの開発を行うSELFの事例です。SELFでは、コンシューマー向け会話AIアプリ「SELF」を開発しています。このアプリではSELF-AIエンジンを用いて、ユーザーとの会話内容を記録し、パターンを分析したうえで課題解決の提案を行います。
さらに、SELF-AIエンジンを、企業における若手社員のフォローや1on1に活用できるようにした「AIコーチ・マイコ」というツールも登場しています。AIコーチ・マイコはSELFと同様に、ユーザー個人の目標・性格・状況を踏まえ、個別最適化した行動目標に沿ったコーチングが可能です。マネジメント層である社員の代わりとして、社員一人ひとりに合わせたサポートを自動的に行います。
パーソナルAI技術によるデジタルクローンを開発・運用するオルツでは、資料作成のような定型業務だけでなく、取引先への事業説明や採用面接といった業務の一部を、スタッフのデジタルクローンに代行させています。
オルツのデジタルクローンをさらに応用し、企業が新たな取り組みを試みる事例も見られます。医療人材ビジネスを展開するエムスリーキャリアでは、オルツのデジタルクローンを活用した求人サービスとして、クローンマッチングの実証実験を開始しています。これは、求職者と求人者のクローン同士がユーザーの代理として仮想面接を実施し、そこで得られた情報からマッチングを行うものです。これにより、求職者・求人者双方の面接機会を拡大し、必要な人材が適切な場所や働き方を見つけられるようになると期待されています。
パーソナルAIと正しく付き合うポイントは?
このようにパーソナルAIはビジネスシーンで活用できる可能性を持つ一方、情報処理推進機構が公表している「セキュリティ関係者のためのAIハンドブック」によると、ビジネスシーンで生成AIを使う際には、大きく2つの課題があるとしています。
まずは、AI倫理に関する課題です。面接や相談といった対話が必要な業務にパーソナルAIを用いた場合、AIがユーザーの発言として、意図しない出力をする可能性があります。場合によっては、パーソナルAIが人道的、倫理的に反する発言をしてしまう恐れもあります。
総務省の「AI事業者ガイドライン」では、意図しない挙動を起こさないためのAIの学習方法や、意思決定を行う前のプロセスが確認できる「具体的なアプローチ検討のためのワークシート」が公開されています。パーソナルAIを開発する際は、開発段階から綿密に方針設計をすることが求められます。
次に、パーソナルAIが出力した結果の根拠を、AI自身が説明できるかという課題です。AIは時に、学習した内容から推論して結果を出力することがありますが、その結果に対する根拠を説明することが難しい場合があります。内容に責任を持つためにも、出力内容について根拠を説明できるAIを運用することが望まれます。
パーソナルAIがいかに有用であったとしても、上記のような特性がある以上、完全に人間の手を入れずに運用をするには難しい部分もあります。しかし、ユーザー側が適切なリテラシーを身に付けたうえで運用方針を整備し、時代に合わせた学習を正しく行えば、パーソナルAIはビジネスにおける強い味方となってくれるでしょう。
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