「高齢者」というのは、法律では65歳以上のことを指します。しかし、これは1956年に定義された年齢です。
近年では、高齢者の定義を75歳以上に見直すことで、65歳以上の人たちがまだまだ社会で活躍できる環境を整え、高齢化社会を明るく活力的にしようという提言がなされました。なぜ今、高齢者の定義が10歳も上がることが検討されているのでしょうか。
高齢者の定義が「65歳~」から「75歳~」に変わる?
2017年1月5日、日本老年学会と日本老年医学会は、これまで65歳以上が高齢者と定義されていた年齢を、75歳に見直すべきであるとする提言を発表しました。65歳以上を高齢者と定義した1956年に比べて、医療が進歩して生活環境も改善されたことで、現在の65歳は、以前よりも“若い”と判断したためです。
両学会は2013年に作業部会を設置し、65歳以上の体力や知力に関する健康データを解析してきました。その結果、脳卒中死亡率や要介護認定率などが年々低下しており、身体能力や知力が機能的に上昇していることがわかりました。
その結果を踏まえ、65歳から74歳までを「准高齢者」と区分し、社会から支えられる側ではなく、社会の支え手として捉え直すことを提言しました。両学会は、「准高齢者」の人たちが、まだまだ仕事をしたりボランティアに参加したりするなどによって、明るく活力のある高齢化社会を作っていく必要性を訴えています。
上昇し続ける「健康寿命」とは?
上記で述べた、1956年に65歳以上を高齢者と定義された理由については、当時の国連の報告書に倣ったものだと言われています。当時の先進国諸国では、60歳以上、あるいは65歳以上を高齢者と定義している例が多かったためです。
1956年当時の日本人の平均寿命は、男性が63.59歳、女性が67.54歳でした。しかし、2015年には男性が80.79歳、女性が87.05歳といずれも大幅に伸びています。これだけ平均寿命が変化したにもかかわらず、高齢者の定義は変わっていないことは確かに不自然です。
また、介護の必要がなく健康的に生活できることを表す「健康寿命」の平均も、2013年には男性が71.19歳、女性が74.21歳と、ともに70代となっています。その上、2016年に厚生労働省が行った意識調査では、何歳から高齢者になると思うかという質問に対し、最も多かったのは70歳以上で41%でした(「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」結果 p8)。
さらに、2013年に内閣府が行った「何歳ごろまで仕事をしたいですか」という意識調査では、最も多かった回答では「働けるうちはいつまでも」が29.5%で、次いで多かったのが「70歳ぐらいまで」の23.6%でした(「平成 25 年度少子高齢社会等調査検討事業報告書」p13)。
IT化が進めば65歳以上でも働ける?
以上のように、社会から支えられる側となる高齢者の定義は、医学的・生物学的見地からも、また人々の意識上からも、現在の65歳以上とはズレが生じていることがわかります。環境的にも、IT化が進められている労働環境であれば65歳以上の体力や知力でも十分に働けるとも考えられます。
一方で、今回の提言が、段階的に引き上げられている厚生年金の支給年齢などの社会保障制度に影響を与える可能性もあります。
両学会は今回の提言を行うに当たり、高齢者の定義を75歳以上に引き上げることで65歳から74歳の就労やボランティア活動を後押ししたいとしながらも、社会保障の枠組みには直接結びつけないように慎重な議論が必要だとの立場を取っています。
とはいえ、健康寿命が70歳代まで高まっていることを鑑みれば、社会保障制度になんらかの修正が施される可能性もあると考えた方が良いでしょう。実際に新聞などのメディアでは、定年が70歳代まで引き上げられること、年金が70歳代から支給されることが取り沙汰されています。
高齢者75歳時代のキャリアプランを考える
定年や年金支給のタイミングがどうなるかはわかりませんが、ここで重要になるのが、自ら「准高齢者」となったときのための準備を自らしておくことです。自営業でないかぎり、現在の仕事を好きなだけ続けられるという人は少ないでしょう。
その意味では、50歳代前半くらいまでに、現在の仕事を継続できるか、できないとすれば新たにどのような仕事に自分の能力を発揮し、キャリアを活かせるか、予め対策を立てておくことが、「准高齢者」「高齢者」の人生を充実したものにするために必要といえるでしょう。たとえば、早い段階で副業や新しい趣味を始めておくことや、人脈を広げておくことも有効かもしれません。
高齢者75歳時代が見えてきた今、各自がより長期的なキャリアプランを考え直す時代になったと言えます。
【参考】『高齢者の定義と区分に関する、日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループからの提言』
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