
人の寿命が長くても80年くらいと想定されていた時代は、多くの人が「高校や大学を出て就職し、60歳もしくは65歳で引退したら、あとの十数年から20年は悠々自適な生活を送ることができる」と考えていました。人生80年という考えです。
しかし、現代では人口のおよそ半数が100歳以上生きる時代になりつつあります。寿命が80年から100年に延びるとなると、前述の考え方は通用しません。
ここでは、「人生100年」時代が到来しつつある現在において、人生を無理なく、かつ充実して過ごす方法について考えたいと思います。本記事では、ロンドン・ビジネススクール教授で人材論・組織論の世界的権威であるリンダ・グラットン氏と、ロンドン・ビジネススクール経済学教授であるアンドリュー・スコット氏の共著『LIFE SHIFT』にある、目には見えない「無形資産」と、お金などの「有形資産」のバランスを取るライフプランの重要性について説明します。
人口の半数が100年以上生きる時代
リンダ氏たちの著書によると、先進国で2007年に生まれた子どものうち、半数以上が100歳以上生きると予想されているといいます。つまり、その子どもたちは60歳や65歳で仕事を引退しても、約40年間の人生が残ることになるのです。
人生80年とされていた時代には、人生のステージを「教育」「仕事」「引退」の3つに分けたライフプランを考えてきました。しかし、そのような考え方も変わりつつあります。その変化に対応するライフプランを、リンダ氏たちは著書で説明しています。これからの人生100年時代では、仕事で複数のキャリアを持つ、また人生のステージを前述の3つに分けるのではなく、「マルチステージ化する」とう考えにシフトするべきと述べています。
たとえば仕事においても、キャリアを積むステージ、スキルを身に付けるステージ、見分を広めるためのステージといったように、より細分化します。また細分化したステージを加齢とともに一方通行するのではなく、行き戻りしながら生きるようになるというのです。
100年の人生に必要な3つの「無形資産」
人生100年時代の生活を過ごす基本として、食べていくのに困らないだけの生活資金が必要です。そのため、身体が元気なうちはしっかり働いて、金銭などの有形資産を蓄えることが大切となります。この考えは、人生80年時代とは大きく変わりません。
しかし、有形資産を蓄えたとしても、趣味やスキルといえる生活を豊かにするものがない、もしくは気兼ねなく何でも相談できる友人が1人もいないといった状態では、長い人生が無味乾燥したものになってしまいます。そこで、有形資産だけでは手に入らない「無形資産」を築くことが、人生100年時代で極めて重要な意味を持つとリンダ氏たちは述べています。
無形資産とは、数値で測れない資産のことです。リンダ氏たちはそれが3種類に分類されるとしています。
1つ目は「生産性資産」。スキル・知識や人脈・人間関係、評判などのことを指します。仕事でキャリアアップを実現するには、高いスキルや知識を身に付けることが重要なのは言うまでもありません。その上に、強固な信頼関係で結ばれた仕事仲間がいれば、その仲間の知識を取り込みながら生産性を高めたり、イノベーションを促進したりするのにも役立ちます。
2つ目が「活力資産」です。リンダ氏たちは、幼馴染や学生時代の友人といった、長期にわたって深く結ばれたネットワークが、人生に活力を与えるとしています。著書でも「人生100年時代では、感情のこもった強い友人を維持することは一層難しくなる。しかし同時に、そうした友人関係の価値はますます大きくなる」と説明されており、昔なじみの友人たちが人生を豊かにする資産と考えていることがわかります。
3つ目が「変身資産」です。変身資産とは、新しいステージへの移行を成功させる能力のことです。別の言い方をすれば、不確実性への対応能力ともいえます。
人生100年時代には、さまざまな要因で、人生のステージを変えざる得ないこともあるでしょう。たとえば、不況による人員整理や倒産などで、強制的に会社員というステージを降りなければならなくなることもあれば、部署異動や転職によって新たに学び直すステージに移ることもあるでしょう。
ステージを移行するときには、少なからず不安や困難がつきまとうものです。しかし、今の自分と将来の可能性を分析しつつ、新しい経験へ挑戦する姿勢を持っていれば、人生のいつでもステージの移行が行えます。
年齢を重ねてから新しい経験をするのは勇気がいることです。しかし人生が100年となれば、60歳を過ぎても新しい経験に挑戦することが必要になるでしょう。
無形資産を形成するライフプランを立てる
繰り返しになりますが、人生100年時代を生き抜くためには有形資産が必要です。しかし、80歳や90歳までフルタイムで働くことは現実的ではありません。無理なく、そして充実した人生の100年間を過ごすためには、自分の状況に合わせて、有形資産と無形資産の両方に目を向けたライフプランを設計することが求められるのです。
たとえば、大学を出て最初の5年間は働いて有形資産を蓄えたのち、いったん休職してスキルを高めるために資格スクールで勉強する。その後、資格を活かせる企業に転職する。結婚して子どもが産まれたら、家庭に軸足を移す。子どもがある程度成長すれば、軸足をまた仕事に戻し、有形資産を蓄える。60歳で定年を迎えたあと、再雇用制度を利用して週3日ほどのパートタイムで75歳くらいまで働く。これはあくまで一例であり、一時的にフリーランスとなって在宅勤務するのもよいでしょう。
その際、重要なのは1本の柱となるアイデンティティをしっかり持つことです。学生時代などの早い段階で、自分がどのような生き方をしたいのかについて考え、一貫性を持たせたライフプランを組み立てることをリンダ氏たちはすすめています。
たとえば、海外事業部のある企業に入社し、英会話スクールで勉強をしながら働き、のちに海外の大学へ留学して国際ビジネスについて学ぶ。帰国後に海外事業部へ異動し、数年後に海外で駐在業務に就き、その後帰国・退職して輸出入を扱う企業を立ち上げる、といった具合です。このように、さまざまなステージに移行しても、一貫性のあるライフプランは実現できます。
人生80年だった時代に比べ、今は働き方の選択肢も豊富にあります。複数の選択肢から自分に合ったものを選び取りながら、有形資産・無形資産をバランスよく獲得できるライフプランを組み立てましょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年3月2日)のものです。
【参考書籍】
リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT』東洋経済新報社
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