
会議で意見を求められたとき、異業種交流会で自己紹介をするとき、取引先でプレゼンテーションをするときに「もっと短時間で相手の心に響くようなことが話せたらいいのに」と思ったことはないでしょうか。
日常だけでなくビジネスシーンでも必須なのが、制限時間内でいかに自分の言いたいことを相手に伝えるかというスキルです。本記事では、山田ズーニー氏の著書『あなたの話はなぜ「通じない」のか』にある、短時間で自分の言いたいことをわかりやすく伝える方法について説明します。
聞き手と共通する「問い」を立てよう
大学の講義やテレビの教育番組で講師を務める文章表現・コミュニケーションインストラクターの山田ズーニー氏は著書で、生きてきた背景も、好みも、考え方も異なる者同士が会話をしたとき、自分の言いたいことを相手にわかってもらうためのコツは「意見」と「なぜ」を打ち出すことにあるとしています。
たとえば、「明日の10時までに資料を仕上げてほしい(意見)。明日の13時からの会議でその資料が必要だから(なぜ)。」というように、自分が言いたいことを裏付けるための確かな根拠があれば、相手がどんな人でも話は通じるのだそうです。
また、山田氏は「意見」と「なぜ」の中身を充実させるには、まず相手と共通する「問い」を立てることが重要であると述べています。
たとえば、「早くプロの技を身につけて1人で仕事がしたい」と考えている部下と、「まず1年間は上司や先輩の下で働いてもらいたい」と考えている上司がいるとします。この場合、両者の考え方はまったく違います。そんな2人が「新人教育をどうするか」をテーマに話し合いをする場合、お互いがいくら「私はこう思う」と主張し合っても議論は平行線のまま先に進みません。
こうした平行線の議論を避けるためには、お互いが共有できる、共通の「問い」をできるだけ多く立てることが必要です。そこで山田氏は、数多くの「問い」をネタ切れすることなく立てるためには「問い」の視野を広げる必要があるとして、「空間軸」「時間軸」「人の軸」というテーマを掘り下げるための3つの軸を提唱しています。
「空間軸」とは、世間や国外などで現状がどのようであるかという、場(空間)を軸に問いを立ててみることです。空間軸の問いは以下のようなものになります。
・今業績を伸ばしている「ベンチャー企業」では、どのような新人教育が行われているか
・「欧米諸国や、隣国である中国、韓国」と、日本の社員教育にはどのような違いがあるか
・「日本社会」では、社員教育がどう考えられているか
「時間軸」とは、過去から現在、未来へ続く時の流れを軸に問いを立ててみることです。以下のような問いが時間軸のものになります。
・自社は「創業時から現在まで」、どのような経緯をたどってきたのか
・「5年後、10年後、20年後」に仕事を通して実現したいことは何か
・自分の「入社当時と現在」で、仕事の方針はどのように変わったか
最後の「人の軸」は、「自分は」「相手は」「人は」という観点の持ち主を軸に問いを立ててみることです。以下のような問いが「人の軸」のものになります。
・「自分」が、新人だったときに受けた社員教育で最も印象に残ったことは何か
・「○○さん」は、どのような性格でどのような時代を生きてきた人なのだろうか
・「人」は、何に対してやりがいを感じるものなのだろうか
「問い」を立てることに困ったら、この3つの軸を使って視野を広げてみましょう。そうすることで、相手と共通して理解できる「問い」が見つかりやすくなるそうです。
「決めて、打ち出す」を繰り返す
人に自分の話を面白いと思ってもらうためには、自分にしか話せない、他人にとって聞く価値のある話をしなくてはなりません。そのためには、自らの経験や知識をフルに活用して、自分なりに「この人のことはこう思う」「この出来事を私はこう見た」と決めて、打ち出すことが大切であると山田氏は述べています。
たとえば、「Aさんは優しい人だ」と言っても、Aさんがどう優しいのか、なぜ優しいといえるのかがよくわかりません。そこで、人の興味を引きそうな「問い」に対して、自分の判断が正しいかを考え抜いて「決め」を打ち出し、その根拠を周到に用意するという順を踏むことが大切になります。
たとえば、「Aさんの長所(論点)は、来客にきめ細やかな配慮ができるところだと私は思います(決め)。夏の暑い日には、冷たいお茶とともに冷たいおしぼりもそっとお出ししていますし、冬の寒い日には、あらかじめ部屋を暖房で温めておいて、温かいお茶をお出ししています。足の悪いお客さまには、ご案内するときにお部屋まで手を貸すことも忘れません(根拠)」と言えば、説得力も増すのではないでしょうか。
また論点を決めるときに一番大事なのは、「あなたが心から話したいことを選ぶことだ」と山田氏はいいます。人前で話すことは頭を使うし勇気もいることだから、自分の力量で話せる範囲で、本当に聞いてもらいたいことを選び取ることがよいのだそうです。
「いつ」「だれが」「何を」「どうする」を明確に
論理的に話すためには、「いつ」「だれが」「何を」「どうする」を明確にすることが大切です。たとえば、「Bさんは仕事熱心な人だ」という内容を考えてみると、「仕事熱心」の意味は上司と新人との間でニュアンスが違っていることがあります。
かつて「モーレツ社員」という言葉が流行した時代に生きた上司にとっては「仕事熱心」とは「始業時間より早く来て、終電の時間ギリギリまで長時間働くこと」なのかもしれません。一方、平成生まれの新人にとっては「限られた時間内でやるべき仕事をこなしながら周りのフォローも忘れないこと」かもしれません。
感覚の違う者同士が話をするときは、お互いが誤解することのないよう、「仕事熱心」の意味をより細かく分析し、「いつ」「だれが」「何を」「どうする」を具体化させて話をすることが話を通じやすくするコツだといえるでしょう。
「なかなか自分の言うことを相手にわかってもらえない」と感じている人は、自分の主張したいことはひとまず置いておき、自分と相手との間に共通しそうな「問い」から会話をスタートしてみることをおすすめします。そうすれば、相手も話を受け入れやすくなり、今までより円滑にコミュニケーションが取れるようになるでしょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年1月18日)のものです。
【参考書籍】
山田ズーニー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』ちくま文庫
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