2023.01.30 (Mon)
理想的な会社の在り方とは(第30回)
国内企業も続々実施、企業の長期的な成長に必要なSXとは
SDGsの達成やカーボンニュートラルの実現に向けて企業の意識変革が進む中で、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)が注目されています。本記事では、SXが提唱された背景やSXの概要、SXを推進するためのポイント、企業のSX事例などをご紹介します。
企業と社会のサステナビリティを同期化させることが必要
近年は、テクノロジーの発達にともない新たなビジネスモデルが続々と生まれています。一方で、気候変動、コロナ禍、紛争、エネルギー問題などが重なって、ビジネスの不確実性が増していることから、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代とも言われています。さらに、SDGsの達成やカーボンニュートラルの実現など、世界全体で取り組まなければならない課題も存在します。このような時代を生き抜くため、企業に対しては利益追求だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)の視点をもちつつ、長期的な視点で事業に取り組むことが求められています。こうした状況を背景に、SXが注目を集めています。
SXとは、企業が「稼ぐ力」とESGの両立を図るため、経営の在り方や、投資家との対話の在り方を変革するための戦略指針です。経済産業省が2020年8月に中間取りまとめを行った「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」の報告書の中ではSXが示されており、問題解決の方向性についても述べられています。
SXの推進に必要な3つのポイントとは
前述の報告書の中で、SXを推進するために次の3つのポイントを示しています。
1点目は、自社の強みやビジネスモデルを中長期で持続化・強化し、事業ポートフォリオ・マネジメントやイノベーションなどに対する種まきなどの取り組みを通じて、企業のサステナビリティを高めていくことです。
2点目は、不確実性に備えて、社会のサステナビリティをバックキャスティング(あるべき未来を描き、そこから逆算して現在行うべき活動やその優先順位を決める思考方法)し、企業の稼ぐ力の持続性・成長性に対する中長期リスクとオポチュニティ(事業機会)双方を把握して具体的な経営に反映させていくことです。
3点目は、不確実性が高まる中で企業のサステナビリティを高めていくために、将来に対してのシナリオ変更がありうることを念頭に置き、企業が投資家と共同して中長期的な価値創造ストーリーを磨き上げ、企業経営のレジリエンス(適応力)を高めていくことです。
そして、企業経営のレジリエンス強化に欠かせないのが、米カリフォルニア大学バークリー校ハース・ビジネススクールのデイヴィッド・J・ティース氏が提唱した戦略経営論である「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」です。ダイナミック・ケイパビリティには次の3つの力が求められます。
・感知(センシング):脅威や危機を感知する能力
・捕捉(シージング):機会をとらえ、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力
・変容(トランスフォーミング):競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力
これら3つの力を獲得するためには、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が必要です。企業のSXは、DXが前提となると言っても過言ではないでしょう。
さまざまな事業領域でSXが進んでいる
国内外でSXに取り組む企業はすでに現れています。ある一般消費財メーカーは、消費者が持参した容器に洗剤を充填できる機器を開発。プラスチック容器を削減しながら、自社の製品を購入してもらうようにしました。
また、傘のシェアリングサービスを展開する企業は、使い捨て傘をできるだけ減らす取り組みを進めて、各地に傘スポットを設置。スマートフォンアプリで傘を低コストで利用できるようにして、環境負荷の低減を図りました。
ほかにも、ある流通小売企業は、オリジナル商品で使用する容器包装を2030年までに50%、2050年までに100%、環境配慮型素材にすることを目標にしています。同企業の店舗では、生鮮食品などの量り売りなど販売方法を工夫するなど、プラスチック使用量の削減に取り組んでいます。
いまや企業にとってSXは「やったほうがいいもの」ではなく、「やらねばならないもの」になっています。不確実性が増す時代のなかで企業が長期的に成長していくには、SXを推進して企業と社会のサステナビリティを同期化させることが必要なのです。
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