2024.10.08 (Tue)

理想的な会社の在り方とは(第72回)

​どうすれば「労働者に選ばれる職場」が作れるのか?厚生労働省の資料から読み解く

 厚労省の「雇用政策研究会報告書」によると、日本企業は慢性的な人手不足に陥っており、労働者に選ばれる職場環境に変えるべきとしています。どう変えれば良いのでしょうか?

日本が陥っている人手不足の3つのパターン

 厚生労働省は2024年8月、少子高齢化によって人口の減少が進む日本において、どのように労働力を確保するか、その見通しについてまとめた「雇用政策研究会報告書」という資料を発表しました。

 報告書によると、日本ではまさに人手不足が深刻化しており、たとえば労働の需要量に対して、労働者の供給量が追いついていない「労働需要超過型の人手不足」や、求人と求職のミスマッチによって生じる「摩擦的な人手不足」 、職場環境や労働条件が労働者の制約に対応していないため人材が不足する「構造的な人手不足」など、類型的な人手不足に陥っているといいます。

 人口が減少する中、企業はどのように労働力を確保すべきなのでしょうか? 同資料から読み解きます。

企業は今や、労働者を「選ぶ側」ではなく、労働者から「選ばれる側」である

 同報告書によると、約15年後の2040年には、日本の総人口は現在の約9割まで落ち、65歳以上の人口がおよそ35%を占める“超高齢化社会”を迎えるといいます。

 2040年の労働力人口については6,791万人(うち就業者は6,734万人)と予想されていますが、これは経済成長と労働参加が同時に実現できたシナリオによって算出されたものです。現在から一人あたりの実質成長がゼロ、かつ労働参加も現状から進まないと仮定した場合、労働力人口は6,002万人、就業者は5,768万人まで減少する見通しです。

 報告書では、経済成長と労働参加が進展するシナリオを現実にするためには、働き方や職場環境、労働市場のインフラを最適化し、多様な個人の労働参加を促進し、経済成長のために新たなテクノロジーを通じた付加価値の向上することが重要としています。このほかにも、省力化に対する投資、従来の働き方を見直すことによる業務効率化や長時間労働の是正といった取り組みを同時に行っていくことで、労働生産性の向上が見込めるといいます。

 報告書ではさらに、労働者に対する雇用政策についても、従来のやり方から転換する必要があると主張しています。

 これまでの雇用対策といえば、再就職のための職業訓練や雇入れ助成など、「労働者が企業に雇われる力」や「労働者が雇用されやすい環境整備」に力点を置いた政策が中心でした。

 しかし、労働人口が減り、人手不足が続いている現状、企業は労働者を“選ぶ側”ではなく、労働者から“選ばれる側”に、その役割が転換してきています。そのため企業は「労働者から選ばれる力」や「労働者が活躍しやすい環境整備に着目した政策」を、より積極的に展開していくことが重要としています。

労働者から選ばれる企業になるための3つの取り組みとは

 労働者から選ばれるための具体的な取り組みとして、報告書では【1】多様な個人の労働参加、【2】新たなテクノロジーを活用した労働生産性の向上、【3】労働市場のインフラ整備を挙げています。

 【1】の「多様な個人の労働参加」とは、ミドル・シニア世代の人材活用や外国人労働者の対応、家庭の事情に合わせた働き方など、さまざまな状況下にいる労働者に合わせて、職場環境を整備することを指します。

 【2】の「新たなテクノロジーを活用した労働生産性の向上」は、アナログな業務を、AIなどデジタルに変換するなどで、労働生産性を向上するというものです。ただし、雇用の代替を進めると、労働者が「雇用が奪われてしまう」と懸念を抱く原因となるため、キャリア形成支援・職業訓練を充実させることで、 労働者自身がテクノロジーに代替されないスキルを学ぶことも重要としています。

 【3】の「労働市場のインフラ整備」とは、労働者が自身のライフスタイルや価値観に適した、多様で柔軟な働き方が実現できるよう、労働市場のマッチング機能の強化や人材育成支援など、総合的な労働市場のインフラ整備を行うことを指します。言い換えれば、労働者側と企業側が労使双方で人材育成の意義や方向性の共通認識を持ち、労働者が自律的にキャリア形成を行う仕組みを企業内に構築していくことを表します。

外国人スタッフも日本人スタッフも面倒な作業をどのように改善したのか?

 すでにこれらの取り組みを行い、労働者から選ばれる企業へと転換している企業も存在します。

 報告書の参考資料に掲載されている「さくらCSホールディングス株式会社」では、高齢者向けグループホームの運営のため、外国人人材の活用を進めたものの、スタッフは日本語に不慣れなため、毎日の記録の作成に時間がかかっていました。この作業は紙媒体で記録するため、日本人のスタッフにとっても記入に時間が掛かっており、毎日1~2時間ほど要していたといいます。

 そこで同社では、ケア記録作成用のスマートフォンアプリを自社で開発。サービス利用者の氏名やサービス提供日時といった、 定型的な事項の入力は選択式にし、記述式の欄は特記事項など最小限にとどめ、かつ音声入力に対応するなど、記録作成時の負担を抑える仕組みに変更しました。

 多くの職員がスマホの操作に慣れていることもあり、アプリは従業員に受け入れられ、ケア記録の作成にかける時間が大幅に短縮。勤務後にケア記録作成の業務を行うケースは、現在ではほぼ見られないといいます。さらに、業務の生産性に取り組んでいることが業界で話題となり、新卒の採用も安定して行えているといいます。

 人手不足に悩む企業は多いかもしれませんが、企業が労働者から「選ばれる側」に回っている今、かつてのような「選ぶ側」の求人のままでは、優秀な人材が申し込んでくる可能性は低いままでしょう。

 誰でも働きやすく、かつ労働生産性も高く、労働者自身がスキルを学べるような労働環境であれば、たとえ労働人口が少ない時代であっても、一定の求人は確保できるでしょう。人手不足に悩んでいるのであれば、この雇用政策研究会報告書に目を通し、自社の労働環境を改善してみてはいかがでしょうか。

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