2023.10.04 (Wed)
(第35回)
増える「ビジネスケアラー」介護離職を防ぐカギは
仕事をしながら家族の介護にあたる「ビジネスケアラー」の増加に伴い、企業側も従業員の仕事と介護の両立支援という課題に取り組む必要があります。本記事では、高止まりする介護離職の現状とその経済インパクトを踏まえ、両立支援に取り組む先進企業の実践事例を紹介。さらに介護リスク軽減のカギとして期待されるテック活用の可能性を探ります。
ビジネスケアラーは増えているが、介護休業制度の利用率は低い
加速する高齢化に伴い、仕事をしながら家族の介護に従事する「ビジネスケアラー」の数は増加の一途をたどっています。経済産業省の調査によると、2020年におけるビジネスケアラーの人数は262万人で、2030年には318万人まで増加すると予想されています。さらに、介護離職などによる経済損失は、2030年には約9.1兆円にのぼると試算されています。
介護を理由に離職する「介護離職」の人数も、毎年約10万人にのぼっており、中でも管理職層に多い50~64歳の割合が高くなっています。一方で、介護休業等制度の利用率は低く、総務省の調査(2017年)では、介護休業制度の利用率は1.2%、介護休暇制度は2.7%にとどまっています。
このように介護休業制度の利用が伸び悩む一因として、厚生労働省の資料では、制度に関する周知の低さや、制度を利用しにくい・相談しづらい職場の雰囲気があることを挙げています。従業員からすれば介護と両立しながら今まで通り仕事を続ける意向があるものの、介護を理由として休業や勤務時間の調整を申し出ることで仕事が制約されるのではないかといったキャリアへの不安も、制度利用の伸び悩みの一因になっていることが予想されます。
「介護予備軍」の教育に取り組む企業も
従業員の介護離職を防ぐために、仕事と介護の両立支援に取り組む企業の動きも増えています。
ハウス食品グループは、2021年から全社員にオンラインを主とした介護研修を行っています。同社は介護離職の多くが、介護保険制度や外部のサービスなどに関する知識や心構えがないままに介護の物理的・心理的負担を抱え込むことから生じているとして、介護予備軍のための情報サポートを重視しています。オンライン教育プログラムでは、親の年齢や家族構成などから、介護開始までの年数など時間的・経済的負担が可視化され、それに必要な準備が学べるものとなっています。
大成建設でも、介護に関するパンフレットの配布や、従業員の家族も参加できる介護セミナーの実施など従業員への情報提供に注力し、部下が上司に相談しやすい環境づくりにつなげています。その結果、10年間で介護休暇取得者数が2倍に伸びたといいます。
これ以外の企業でも、休暇・休業制度やフレキシブルな勤務形態の導入による介護者支援が導入されています。
AIやIoTで介護を見守るサービスも登場
働く人の介護需要の増加、そして深刻な介護人材の不足を背景に、AIや見守りセンサー、ロボットなどの技術活用で在宅介助者の負担を軽減するサービスも多様化しています。
KDDIでは、高齢者の健康状態や生活状況の変化について、ケアマネージャーに代わって聞き取る対話AIシステム「MICSUS」を開発しました。同システムは、介護の専門家の知見データを取り込んでおり、300万におよぶデータからなる言語モデルで、利用者の曖昧な発話表現の聞き取りにも対応。画像や音声などを総合的に判断し、利用者の感情を推定します。同システムをぬいぐるみに搭載した実証実験では、ケアマネージャーの面談と記録にかかる業務時間を約7割短縮することに成功したといいます。
見守りセンサーとスマホアプリの連動によって高齢の家族の見守りをサポートする商品やサービスも多様化しています。例えば、冷蔵庫のドアの開閉で利用者の行動を検知し、動きがないなどの異変をアプリで通知する「まもりこ」などもその一つです。
ケアテックカンパニーの「aba」は、介護者にとって最も負担の大きい排せつ補助に着目。ベッドに敷いたセンサーで、においをもとに排せつを検知し、介護者にアプリで通知します。さらに蓄積されたデータにもとづき利用者の排せつパターンを可視化し、排せつタイミングを自動予測することで尿便漏れの減少につなげるなどして、排せつ補助の負担軽減をサポートしています。
このほかにもAIやVR技術を活用した介護テックの実証実験は数々行われています。導入コストなど実際の利用シーンにおける課題はまだ多く残されていますが、高齢化社会でビジネスを続けていくためには、どれも欠かせない取り組みといえるでしょう。
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