2023.06.13 (Tue)

理想的な会社の在り方とは(第33回)

DE&I推進がもたらす、イノベーション創出と人材確保

 近年、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I/DEI)」をCSRの一環として、あるいは経営戦略として推進する企業が増えています。本記事では、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの概要と推進ポイント、およびダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの実践を効率的に実現するテクノロジーについて紹介します。

不平等や格差の是正に欠かせない、「公平性(Equity)」の概念

 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(以下、DE&I)とは、「多様性(Diversity)」と「公平性(Equity)」、「包括性(Inclusion)」を戦略的に推進することを示す言葉です。「DE&I」や「DEI」と略されることもあります。

 もともと「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という概念があり、さまざまな企業がD&Iを推進していました。しかし、実際にはジェンダーや人種、年齢、バックグラウンドなどの違いによる社会的な不平等や格差が生じており、単に多様性を尊重して平等に機会を提供するだけでは解決できない認識が広がります。そこで、一人ひとりの特性や状況に合わせた環境を提供することにより、情報や機会、リソースへのアクセスを公平に保証する「公平性」という概念が加えられるようになったのです。

DE&I推進の企業メリットは、イノベーション創出や人材の維持・確保

 2019年に北米で1,115社を対象に実施した調査では、回答者の65%が「DE&Iは組織にとって戦略的に優先度の高い事項である」と答えています。日本でも、経団連が2020年に発表した調査において273社のうち3分の2以上が「D&I推進は経営に良い影響がある」と回答しており、DE&Iに対する企業の関心は高まっていると考えられます。

 DE&Iを推進すると、企業にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。ここでは、「イノベーションの創出」、「優秀な人材の維持・獲得」のふたつの観点から解説します。

(1)イノベーションの創出

 イノベーションを起こすためには、これまで社内で蓄積したノウハウだけでなく、革新的なアイデアが求められるケースもあります。似たような経歴や価値観を有する人材が集まる組織よりも、年齢や性別、価値観、経歴などの異なる多様な人材が集う組織のほうが、多角的な視点・角度での意見交換が活発になりやすいため、革新的なアイデアが生まれる可能性は高いと考えられます。実際に経営コンサルティングファームであるボストン・コンサルティング・グループが実施した調査でも、経営層の多様性の度合いが平均よりも高い企業は、イノベーションによる売上の割合が高いことが判明しています。

(2)人材の維持・獲得

 従業員一人ひとりの事情を考慮したうえで働きやすい環境を整備することにより、仕事と育児・介護の両立、家族の転勤など、ライフステージの変化が生じても退職せずに柔軟な働き方ができるようになり、離職率の低下や定着率の向上が期待できます。また、DE&Iへの取り組みを社内外に発信することで「DE&I推進に積極的な企業」というイメージが広まり、人材の獲得、採用活動の効率化も見込めます。特に若年層はDE&Iへの関心が高い傾向にあり、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、Z世代(1990年代後半から2010年代前半に生まれた世代)の65%以上が「働き方の多様性や従業員の多様性などのD&Iの推進をより重要視するようになった」という調査や、Z世代の過半数がD&Iに消極的な企業に対してネガティブな印象を抱くという調査結果も出ています。

企業のDE&Iを推進するICT活用事例

 企業のDE&I推進に向けて、テクノロジーやICTサービスを活用するケースが出てきています。たとえば、一般社団法人MASHING UPはDE&I推進の鍵を握るリーダー層の理解促進のため、スマートフォンアプリでDE&Iを学べるラーニングプログラム「MASHING UP LEARN」を提供しています。アプリでのeラーニングだけでなく、ワークショップ開催や取り組み実績を可視化する広報活動サポートにも対応しており、こうしたサービスを企業は導入することで、効率的にDE&Iを推進していくことができます。

 三井化学も女性の管理職登用の壁となるバイアスの認識をめざし、部長層と管理職層に向けてアンコンシャスバイアスのeラーニングツールを導入しました。部長や女性従業員本人の中にある思い込みを認識してもらうことで、意識改革に取り組んでいます。

 武田薬品は、育児や介護などと仕事を両立する多様な働き方を体験できる社内向けアプリと体験型プログラムを自社開発しました。たとえば、業務中に育児・介護・家族の病気などが発生し、実際に業務を中断・調整して帰宅する体験をしてもらうことで、DE&Iの理解と働き方改革を推進しています。

 PwCの調査では、DE&Iに取り組むグローバル企業CEOの85%が「(DE&Iの)戦略によって最終業績が改善した」と答えています。また、財務情報からは見えにくい企業価値への貢献も期待されており、ESG投資を重んじる国内外の投資家からの注目を集められる可能性が高まります。DE&Iは「やらないことがリスク」とも言われる現代では、事例に挙げたようにICTを有効活用することでより効率的に推進できます。企業のイノベーション創出や人材の維持・確保につながるDE&Iの活動を、ぜひ自社に取り入れてみてください。

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