2024.03.29 (Fri)
理想的な会社の在り方とは(第57回)
DX加速のカギ「リスキリング」を進めるヒント
「リスキリング」という言葉を、ビジネスシーンで耳にしたことがある人は多いでしょう。リスキリング(Reskilling)とは「学び直し」のことで、特にデジタルリテラシーの学び直しのことを指します。なぜ、リスキリングが必要なのか、企業がどのようにリスキリングを行っているのかについて解説します。
2030年、デジタル人材が79万人不足する?
リスキリングという考え方が生まれた背景には、少子高齢化などに伴う労働人口の減少があります。
2019年に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」という資料によると、2030年にはIT分野で活躍する人材は最大約79万人不足すると予想されています。この深刻なIT人材の需給ギャップを埋めるため、従業員のデジタルスキルの習得のため、リスキリングが求められているというわけです。
特に、管理職層や現場リーダー層の多くを占める40代~50代従業員のリスキリングは重要です。管理職層が十分なデジタルリテラシーを持っていなければ、DXの必要性や目的が社内に浸透せず、DXの導入が遅々として進まないことが予想されます。
とはいえ、社内でリスキリングを定着させることは簡単ではありません。学習支援制度や学習ツールを導入してみたものの、結局一部の従業員の活用にとどまることは十分に起こり得ます。たとえ学習意欲があったとしても、普段の仕事と並行して学習を行うことは、簡単なことではありません。
すでにリスキリングを導入している企業もある
とはいえ、一部の企業では、すでにリスキリングを推進し、成果を出している企業も存在します。そうした企業は、どのようにして従業員のリスキリングを後押ししているのでしょうか?
ANAホールディングスでは、2023年度から中高年従業員のキャリア開発を目的とした新たな学習制度を開始しました。
同制度は50~58歳の従業員を対象にしており、コンサルタントが従業員とともに、今後のキャリアの目標や希望に合わせた学習プログラムを作成。デジタルスキルの学習をはじめ、社会保険労務士や応用情報技術者、会計士といった専門的資格も取得できるよう支援しています。この制度では、コンサルタントが半年間の伴走支援を行うため、従業員が「どこから学び直しをすれば良いか分からない」という悩みを解消する仕組みとなっている点が特徴です。
ヤンマーホールディングスでは、デジタルツールを駆使して業務に活用している少数の従業員を集めたコミュニティの輪を、ほかの従業員にも広げるオンラインコミュニティを、2022年に立ち上げました。
このコミュニティでは、デジタル初心者でも気軽に質問ができる場をつくり、全てのレベルの従業員が受講できる学習プログラムを展開。その結果、営業職の中高年従業員が業務効率化のアプリを開発するなど、デジタルリスキリングの成果が徐々に出ているといいます。
ソニーグループは、2017年に50歳以上の従業員を対象とするキャリア支援制度「キャリア・カンパス・プログラム」を開始しました。新たな分野への挑戦を支援するものとして、業務時間の2割まで別の業務に充てられる制度や、新たなスキル習得にかかる費用の最大10万円補助などを盛り込んでおり、後者はこれまで約700人が利用しているといいます。
加えて2021年からは従業員と中小企業、自治体をマッチングし、経営改善や地方創生の支援に参加させる「シニアインターンシップ」を開始するなど、従業員の学びの場を社外まで広げています。
政府もリスキリングに注力。助成金もスタート
政府もリスリキングついて、積極的な取り組みを行っています。たとえば2024年度予算では、デジタル分野の職業訓練を受けた中高年向けの人材派遣制度を試験的に始めることを発表しています。
たとえば厚生労働省では、企業が従業員に職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるため職業訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度「人材開発支援助成金」に、2022年末から「事業展開等リスキリング支援コース」というコースを新設しました。
このコースでは、新規事業立ち上げなど、新たな事業展開を行う際に必要となる知識や技能を従業員が習得する際、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。
同コースで助成金を受け取るためには、OFF-JT(Off The Job Training、職場を離れた教育訓練)により実施される訓練であること、実訓練時間数が10時間以上であることなどの要件をクリアする必要があります。助成率は最大で経費の75%で、助成限度額は、1人1訓練当たり最大50万円です。
同省ではこのほかにも、株式会社パソナに委託して運営している「キャリア形成・学び直し支援センター」の名称を「キャリア形成・リスキリング支援センター」に変更。企業や団体だけでなく、個人や学校関係者から、リスキリングに関する相談を受け付けています。これまであまりリスキリングについて取り組んでいなかった企業も、国の助成金や事業を利用することで、金銭的な負担を抑えつつ、スムーズにリスキリングが進められるはずです。
まだまだDXに取り組めず、アナログなビジネスを続けている企業も多いかもしれませんが、「そうか、リスキリングという方法もあるのか」と興味を持つことも、DXへの立派な第一歩といえるでしょう。
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