2025.01.30 (Thu)

理想的な会社の在り方とは(第78回)

人事を客観的に判断する「ピープルアナリティクス」の可能性

「ピープルアナリティクス」とは、従業員の属性データや行動データを収集・分析・可視化する手法のことです。最近は、人材データの集約や人事の課題の把握、データ活用に向けた意識改革に活用する企業も見られます。どうすればピープルアナリティクスを活用できるのでしょうか?

データ分析で人事を最適化「ピープルアナリティクス」とは?

 「ピープルアナリティクス」は、会社に属する従業員を分析することを指します。

 具体的にいえば人事において、人材の採用や異動配置を考える際に、勘や経験に頼らず、客観的に意思決定するために使われます。各従業員のデータを分析して活用することで、会社が抱える“人材に関する課題”を解決するための考え方です。

 ピープルアナリティクスの収集対象となるデータは幅広く、性別・年齢などの属性データから、資格保有などのスキル情報、労働時間などの勤務データ、チャットやメールなどのデジタルデータなど、多岐にわたります。企業によっては、従業員との面談時の声色や表情などのデータも収集するケースもあります。これらのデータを収集し、分析可能な状態に整えることが、ピープルアナリティクスにおけるデータ活用の第一歩になります。

 日本企業151社を対象に調査を行ったPwCコンサルティングの「ピープルアナリティクスサーベイ2022調査結果」によると、人材データを活用・分析している、または取り組む予定があると回答した企業は2017年の46%に対し、2022年は56%と増加傾向にあります。さらに、今後自社の経営層に対して人材データ分析の結果を提供したいと回答した企業は74%にのぼります。

 ピープルアナリティクスにおいて今後活用意向の高い情報については、ワークスタイル情報やパルスサーベイ(従業員の満足度を、短期間で繰り返しチェックする調査方法)が上位に挙がりました。背景にはリモートワークの普及といった働き方の変化があり、個々人の状況把握のためにデータ活用が重視されていることが推察されます。

社内の人材を調べたら、同じタイプばかり採用していた!

 すでに企業によるピープルアナリティクスの導入例は存在します。導入の目的は企業により異なりますが、いずれのケースも客観的な判断に活かしたいという姿勢が見られます。

 たとえば総合電機メーカーの日立製作所は、「ピープルアナリティクス」を人事を刷新する手法として捉え、イノベーションの創出という経営課題を解決するために活用しています。

 同社は社内の人材をタイプ別に分類したところ、そのうちの65%が特定の1タイプに集中し、多様な人材が確保できていなかったといいます。

 同社は人材のポートフォリオ(組織における人材の構成内容)を変更するために、ピープルアナリティクスを導入。人材募集への応募者や社員のデータを分析し、社内のハイパフォーマーへのインタビュー結果も加えて、採用のためのポートフォリオを再設計。これまでに社内にあまりいない“尖った”人材を採用するために、選考手順も大胆に変更したそうです。

 ピープルアナリティクスの導入後は、これまでにはなかったタイプの人材の比率が上昇し、イノベーションの創出に役立っているといいます。

 ソフトバンクは、精度の高い人材配置を実現するためにピープルアナリティクスを活用した性格フィットスコア(配属候補先への性格的なマッチ率)を取り入れています。従来の判断軸であった経験やイメージに、デジタルツールで得られた数値の示唆や視点を足しています。現在は検証段階ということもあり、最終的には人による意思決定を行っているといいます。

 DeNAが社内にピープルアナリティクスのチームを設置したのは早く、2017年のことでした。同社は従業員に対し、やりがい評価や振り返りのアンケート(月に一度実施)、自身の所属する組織があるべき状態になっているかをチェックする組織状況アンケート(半期に一度実施)を実施し、記名式でデータを収集。マネージャーが従業員へのフォローやコミュニケーションの参考として活用しているといいます。

人事データを公正に取り扱う人材の育成も必要

 「ピープルアナリティクス」がさまざまな企業に浸透しつつある中、収集した人事データをどのように取り扱うかという点も重要です。

 一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会は、2021年度より人事データ保護士の資格制度をスタートさせました。

 資格設立の背景には、従業員の権利を阻害せずにデータ活用が進められてほしいという協会の意向があります。同資格制度は、人材データが誤って利活用されないよう、人事データに関する基礎的な法律の知識を備え、公正な取り扱いができるような担当者を育成することを目的としています。同法人では「人事データ利活用原則」も策定しており、目的明確化や適正取得、セキュリティ確保などの9つの原則を挙げています。

 このようにデータの扱いには十分な注意が必要ですが、これまでは可視化しづらい人材の情報がデータで把握できるという点で、ビジネスにメリットをもたらす可能性があります。会社を成長させる新たな手法として、ピープルアナリティクスをビジネスに採り入れてみるのもよいかもしれません。

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