2024.07.11 (Thu)
理想的な会社の在り方とは(第64回)
元従業員こそ優れた人材である。アルムナイ採用の可能性
「アルムナイ採用」という言葉をご存知でしょうか。これは退職した元従業員(アルムナイ)を再雇用するというもので、大手企業や地方自治体も相次いで導入しています。しかし、なぜ一度は会社を離れた従業員を、わざわざ再雇用する必要があるのでしょうか? アルムナイ採用の意義とメリットを、企業の導入例とともに紹介します。
大手企業も地方自治体も導入「アルムナイ採用」とは
アルムナイ(alumni)とは、英語で「卒業生」「同級生」を意味します。転じて、退職した自社の元従業員を表す言葉としても使われます。
このアルムナイを、積極的に再雇用しようとする「アルムナイ採用」が、ビジネスシーンでは徐々に導入されつつあります。
たとえば自治体では、千葉県が2023年9月より、やむを得ない事情で退職し、かつ県職員として勤務経験3年以上、県退職後10年以内のアルムナイを対象とした「職員再採用選考(復職制度)」をスタート。東京都でも2024年4月から、転職や育児・介護などを理由に退職したアルムナイを対象に「都庁版アルムナイ採用制度」を開始しています。
一般企業でもアルムナイ採用を採り入れる企業は多く存在し、具体的には日本郵政、トヨタ、三菱ケミカル、双日、JR東日本などが実施しています。
復職を考える人材は優秀な可能性が高い
とはいえアルムナイは、何らかの理由で一度は会社を退職した存在であり、穿った目で見れば、再び会社を離れる可能性も無いわけではありません。それにも関わらず、なぜこれらの企業や団体は、アルムナイを積極的に雇用するのでしょうか?
理由にはいくつかのことが考えられます。たとえば、アルムナイはすでに社風や業務を知っているため、会社に順応するための時間がさほど掛からない点、企業がわざわざ新しい人材を新規開拓する必要がない、というのもメリットでしょう。
しかしそれ以上に、アルムナイは実は優秀な人材である可能性が高いというのも大きなメリットといえそうです。
経済産業省が2022年5月に発表した「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」という資料では、アルムナイについて「他社で得た経験や知見に基づいて、再び自社に貢献をしたいという目的意識が明確な人材は、経営人材としての活躍も期待される」と高く評価しています。
資料ではさらに、企業に対し「経営者経験を持つ人材を一人でも多く確保するため、自社を卒業し自ら経営者となったような人材を迎え入れることも見据えて、アルムナイと中長期的に優良な関係を築く」ことを勧めています。
まとめると、「以前在籍した会社に戻りたい!」と考えるアルムナイは優秀な人材である可能性が高く、そうした人材を確保するためにも、企業はアルムナイと良い関係を築き続けるのが得策、ということがいえそうです。
アルムナイ同士の交流用サイトを開設した企業も
企業がアルムナイと良い関係を築くためには、どのようにすれば良いのでしょうか? さきに挙げた、アルムナイ採用に取り組んでいる企業の例を紹介します。
日本郵政では、顧客と地域を支える共創プラットフォームの一環として、グループ横断のアルムナイネットワークを構築し、元従業員との協業・コラボレーションや中途採用を推進しています。
同社の発表によると、この施策は人的資本経営を前提とした人的リソース充実のための改革の一つであり、アルムナイに対して社内の最新情報を提供したり、業務委託や副業を通じ、中長期的に優良な関係を構築していく方針を打ち出しています。これにより、国内最大級規模の従業員を有する日本郵政グループならではの多様な人材を活用し、企業価値の向上を目指していくとしています。
トヨタ自動車は、同社を自己都合退職したアルムナイ人材の採用に取り組んでいます。トヨタ自動車はアルムナイ採用の対象者を「自身のキャリアアップ(転職・学業等)のために自己都合退職した人や、やむをえない事情による退職した人」と定義し、社外で得た経験や学びを再び生かしてほしいと呼びかけています。
同社はさらに、アルムナイ同士の交流ができるコミュニティサイトを運営。自社との縁があった多様な人材がつながることで、新たな気づきや価値が育まれることを期待しています。
三菱ケミカルでは、専門性を持った人材確保のため、アルムナイを戦略的に実施。社外でスキルを養成し、同社で成果を上げようというアルムナイを「目的意識の明確な人材」として、歓迎しています。
双日でも、アルムナイとの人的ネットワーク形成のためし、各種プロジェクトへのアドバイスや事業創出のサポート、セミナーや講演会を実施。同社をよく知る外部人材として、アルムナイの採用に取り組んでいます。
アルムナイが「復職したい!」と思えるアプローチができるか
これらアルムナイ採用に取り組む企業に共通するのは、アルムナイに対し、コミュニケーションを継続的に行っている点です。人員が足りないから、かつての名簿を見直して、急いで電話を掛ける……といった場当たり的なものではなく、常にアルムナイが復職できるよう、企業側から積極的にアプローチをしている点が特徴です。
繰り返しになりますが、経済産業省のレポートがアルムナイを高く評価する理由は、「再び自社に貢献をしたいという目的意識が明確な人材」だからです。たとえアルムナイであっても、特にやる気がなかったり、企業側が無理やり復職させた場合、その従業員が高い成果を生む可能性は低いことが予想されます。
一度は袂を分かつ道を選んだアルムナイに対し、企業側はアルムナイが「復職したい!」と思うまで、継続的なアプローチを続けられるか否か、アルムナイ採用で成果を出すためには、企業の寛大な姿勢が求められるといえそうです。
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