2024.03.29 (Fri)
理想的な会社の在り方とは(第45回)
「2024年問題」解決のカギは◯◯を省くことにあり
「2024年問題」という言葉をご存知でしょうか。これは2024年4月からスタートする、建設/物流・運送/医療業界における「時間外労働の上限規制」を発端とする諸問題のことを指す言葉です。一体、2024年にどのような問題が起こるのでしょうか?そして、どうすれば問題が解決できるのでしょうか? 解説します。
2024年4月から、一部の業界で時間外労働の新ルールが開始
2024年問題とは、2024年4月から建設/物流・運送/医療業界にてスタートする、時間外労働の上限規制によって起こりうるさまざまな問題を指す言葉です。
時間外労働の上限規制については、すでに大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月からスタートしています。この上限は働き方改革法によって定められたもので、過度の残業をなくすことで、働く人たちの健康を確保する狙いがあります。
ただし、先に挙げた建設業や運送業(トラックドライバーやバス・タクシードライバーなど)、医療(医師)については、業務の特殊性や取引慣行の課題が考慮され、上限の適用は5年間延期されていました。
そして、新ルール開始からちょうど5年目となる2024年4月を迎えつつある今、前述の業界でいままさに対応に向けた準備が進みつつある状況となっています。
時間外労働の上限は、業界によって異なる
時間外労働の規制の内容は、業界ごとに異なります。
たとえば建設業の場合は、時間外労働は月45時間以内、年360時間以内に規定されています。臨時的にこの上限を超える場合であっても、1カ月45時間を超える残業については年間6回まで、時間上限は年間720時間まで、休日労働と合わせて1カ月100時間未満、2~6カ月間で平均80時間以内に抑える必要があります。
医師の場合、年960時間が上限となります。月単位に換算すると、1カ月80時間に抑える必要があることになります。ただし、救急医療や臨床・専門研修、地域の医療提供体制を確保する必要があるなど例外的なケースでは、上限は年間1860時間まで(月換算で155時間)となります。
物流・運送業の場合、トラックドライバーの上限は年間960時間となり、加えて年間の拘束時間は、従来の3,516時間から、原則3,300時間に制限されました。このほか、休息時間の取得は「8時間以上」から「11時間が基本(下限は9時間)」に変更されました。
バス・タクシーの運転手も対象となり、1日の拘束時間は原則13時間、最大でも15時間以内とし、休息時間も1日11時間以上(下限は9時間)取得することが義務づけられています。
時間外労働の上限規制が、サービスの低下を招く!?
しかし、時間外労働が制限されるということは、裏を返せばこれまでは残業(時間外労働)で対応していた業務ができなくなることになります。
特に物流・運送業界では、時間外労働の制限による悪影響が懸念されています。ドライバーの労働時間が減ることで、業界全体の輸送能力も落ち、2024年以降に「モノが運べなくなる」事態が起きる可能性も懸念されています。国が主催する「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、時間外労働制限に対して何も対策を行わなかった場合、営業用トラックの輸送能力が、2024年には14.2%、2030年には34.1%不足すると試算しています。
輸送能力が減少するということは、運送業を営む事業者の売上や利益も減ることが懸念されます。その結果、ドライバーの収入も減少したり、ドライバーになろうとする担い手も減る可能性があります。
悪影響を受けるのは、運送業者だけではありません。たとえば荷主(荷物の送り主)が発送を依頼する際も、運賃が引き上げられたり、業者側から輸送を断られるなどで、従来のような荷物のやりとりが行えなくなる恐れがあります。消費者側も、“翌日配達”や“送料無料”といった便利な宅配サービスが利用できなくなる可能性もあります。
建設業界、医療業界でも、物流・運送業界と同様に、労働力不足やサービスの低下が懸念されています。このように、時間外労働時間の上限のスタートに端を発する、さまざまな負の連鎖こそが、2024年問題の本質となります。
2024年問題を解決するカギは「ムダ」を省くこと
2024年問題は、どうすれば解決できるのでしょうか?厚生労働省はそのための重要なポイントとして、現場で働く人の“ムダ”を省くことを挙げています。
たとえば同省の「はたらきかたススメ」というサイトでは、トラックドライバーの年間労働時間が全業種の平均と比べ400時間程度も長い状況にあることを指摘し、事業者と荷主で協力し、ドライバーが決められた時間内で効率よく業務を行うよう協力することを要請しています。
さらに建設業についても、長時間労働の原因が「著しく短い工期」にあると指摘。工事の発注・受注の際に、適正な工期で契約を締結することを心がけ、4週8閉所(建設現場における週休2日制のこと)のような、工事現場で働く方の休日数も考慮した工期を採用すべきとしています。
医療の現場においては、「医師の働き方改革」というサイトにて、医師の長時間労働や労務管理ができておらず、業務が医師に集中している点を指摘。医師の労務管理を徹底し、かつ看護師に医師の業務の一部を移管する「タスクシフト/タスクシェア」を進めていくべきとしています。
2024年問題への対応に苦慮しているビジネスパーソンは多いかもしれませんが、裏を返せば、それはドライバーや医師など、一部の人に業務の負荷が掛かっていたことの証明ともいえます。時間外労働の上限規制のスタートをきっかけに、これまでの業務を見直し、一部の人に重くのしかかっていた負荷を軽減していくことで、現場の労働環境は徐々に改善していくことでしょう。
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