2024.03.29 (Fri)
理想的な会社の在り方とは(第56回)
ビジネスは「逆算」で考える。リーン・マネジメントとは
消費者ニーズが目まぐるしく変わる中、企業が成長し続けるためには、常に顧客を理解することが求められます。そんな中、顧客のニーズを起点として、最小限のリソースで最大限の価値を生み出す「リーン・マネジメント」という経営手法が登場しています。リーン・マネジメントとは何なのか。本記事では、その概要と企業の実践事例を紹介します。
リーン・マネジメントとは、ビジネスを「逆算」すること
リーン・マネジメントとは、商品やサービスが顧客の手に届くまでの全プロセスにおいて、「ムリ・ムダ」を排除することで、最小限のリソースで最大限の顧客価値を生み出す経営手法を指します。「リーン(Lean)」とは、英語で「脂肪がなく、身のしまった」を意味する言葉です。
リーン・マネジメントの基礎となったのが、トヨタ自動車の生産システムです。戦後の厳しい資源不足の中、トヨタは顧客が求める製品を必要な分だけ作るため、顧客からサプライヤーまでの生産プロセスをさかのぼり、各ステップで必要とするものを明確にすることで、非効率的な作業やムダをなくした生産手法を確立しました。
リーン・マネジメントに似た手法としては、「アジャイル(アジャイル型開発)」も存在します。両者は、商品やサービスの提供までのプロセスを止めることなく、問題の検証と改善のサイクルを迅速・柔軟に回すという点では同じですが、アジャイルは最小限のリソースでプロトタイプを作ってから、顧客の反応や問題に応じて品質改良していくものです。
一方のリーン・マネジメントは、顧客の求めるベストな品質から“逆算”して最適のプロセス・リソースを決めていくという点で異なります。このプロセスを繰り返し、継続的な改善を図っていくことがリーン・マネジメントの核です。
荷物の管理にも、難民の受け入れにも、リーン・マネジメントが効く
製造業を中心に発展したこのリーン・マネジメントは、金融や小売、運輸など幅広い分野で、生産性を上げる経営手法として導入されています。実際にどのように導入されているのか、その実践事例を紹介します。
物流大手のフェデックスは、品質起点のマネジメント(Quality Driven Management)を掲げ、荷物の発送から届くまでのプロセスの効率化を図っています。具体的には、配送上のトラブルにより荷物の遅延が発生した場合、その時点で顧客に通知し、リカバリーの提案をする仕組みを構築しました。常に顧客に最新情報が届くことで、荷物に対する不安が軽減されたことで、問い合わせなどへの対応も抑えられたといいます。
加えて輸送機のメンテナンスに必要なリソースを最適化し、運航再開までにかかる時間を短縮するなど、「荷物を迅速に確実に届ける」ための方法をアップデートしています。
米銀行のBank of Americaは、24時間365日金融取引を行えるモバイルアプリや、ブロックチェーン技術を活用した決済システムなど、最新テクノロジーを活用したサービスを次々導入し、業務の効率化を図っています。アプリ一つで顧客が口座開設からローン申請まで行えるようにしたことで、承認プロセスにかかる時間も大幅に短縮され、結果的に顧客満足の向上につながったといいます。
ビジネスシーン以外でも、リーンマネジメントの活用例があります。
スウェーデンの移民局は2008年、大量の難民受け入れへの対応を迫られたのを機に、リーン・マネジメントを導入しました。難民認定にかかる時間の短縮というゴールを起点に、難民申請の受付から審査、認定、通知までを一つのプロセスとして設定。業務の整理を行ったところ、平均267日を要した認定までの時間が半分以下に短縮しました。
これに伴い、認定を待つ難民の生活補助にかかる経費も大幅に削減されました。この事例をロールモデルとして、同国の公的セクターではリーン・マネジメントが広く導入されているといいます。
顧客のニーズは何か? そのニーズにどう応えるか?
先述した通り、リーン・マネジメントのプロセスは顧客のニーズに根ざした価値の定義から始まり、その測定、分析、改善の継続のサイクルによって成立するものです。
近年ではこのプロセスの最適化自体にAIを導入し、業務やサービスの改善を図っている企業も増えてきています。例えば、製薬会社ジョンソン・エンド・ジョンソンは、AI活用による製造プロセスの改善で、5億ドルの経費の削減に成功したといいます。
生産性・効率性の向上を狙うのであれば、顧客が何の価値を求めていて、どのようにそれに応えるのか、見つめ直すことから始まります。その目標に向け、最短距離で、最小限のコストで到達するのが、リーン・マネジメントです。
もし、現在の業務の煩雑さやコストの多さに頭を悩ませているのであれば、顧客の求めているものを起点にビジネスを再構築するリーン・マネジメントを試してみてはいかがでしょうか。
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