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2024.03.01 (Fri)

理想的な会社の在り方とは(第43回)

自然を軽視する企業は評価されない?「TNFD」の考え方

 国際的なタスクフォース「TNFD」から、企業活動が自然に与える影響の開示に関する提言が発表されました。企業は今後、どのような情報を開示していくべきなのでしょうか?

多くの企業は自然リスクを無視している!?「TNFD」の提言

 「TNFD」というワードをご存知でしょうか?これは、金融機関や投資家が適切に投資の判断ができるよう、企業が自然環境や生物多様性に及ぼすリスクと機会の開示を促すための国際的なタスクフォース(特別チーム)です。TNFDは「Taskforce on Nature-related Financial Disclosures」の略で、日本語では「自然関連財務情報開示タスクフォース」と訳されます。

 TNFDは2021年に発足し、その後、2023年の導入を目指し、様々な準備が行われていました。そして2023年9月に“最終提言”として、自然関連のリスク管理と情報開示に関する内容が発表されました。

 この提言では、TNFDが推奨する情報開示の項目として、「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクト管理」「測定指標とターゲット」の4つが柱になると定義されており、その中に14の開示推奨事項が設定されています。例えば「戦略」の項目では、企業のビジネスモデルや事業戦略・財務計画において、自然への依存や影響、リスクと機会を分析することが示されています。

TNFDの開示提言(4つの柱と14の開示推奨事項)環境省の資料「TNFD v1.0の概要紹介 (https://www.env.go.jp/content/000174924.pdf)」より引用

この14の開示推奨事項には、ほとんどの項目において「自然」に対するリスクやインパクトに関する情報を開示する旨が含まれています。というのもTNFDでは、自然を「陸」「海」「淡水」「大気」の4つの領域から構成される「自然資本」とし、すべての経済活動がこの自然資本によって成り立っていると捉えています。そのため、企業が持続的に経営を行うためには、自然資本との依存・影響の関係に取り組むことを重視しています。

 TNFDの最終提言の冒頭でも、「気候変動リスクと環境リスクは、世界の経営陣が対峙する今後10年間で最も重大なリスクとして認識されているにもかかわらず、ほとんどの企業や投資家、金融機関は、自然に関する依存関係、影響やリスクを理解しておらず、戦略や資本配分の決定において自然を十分に考慮していない」と触れられています。

すでにTNFDに基づいた情報開示を行う日本企業も

 TFNDが企業に自然資本との関係を開示することの必要性は理解できる一方で、企業がしかるべきデータを取得し、ステークホルダーが納得できる情報開示を行うことは、簡単なことではありません。

 TNFDでは企業が情報開示を進める手順として、「LEAP」と呼ばれるアプローチを提唱しています。

 LEAPとは、「Locate(発見)」「Evaluate(診断)」「Assess(評価)」「Prepare(準備)」の頭文字をとった造語で、まずは自然との接点を発見し、依存と影響を分析し、分析結果をもとに企業にとってのリスクと機会を評価し、達成すべき指標と目標を設定して、情報開示に向けて準備をする……といったステップを示しています。

 実はすでに、このLEAPアプローチを踏襲し、TNFDが推奨する内容に基づく情報開示する日本企業も出ています。

 たとえばキリンホールディングスは、TNFDが推奨する評価ツール「ENCORE」を利用し、バリューチェーン全体における依存と影響の評価・把握を行いました。

 このENCOREは無料で利用できるツールで、自社のビジネスがどの生態系サービスにどの程度依存しているのか、どの程度インパクトを与えているかが確認できます。同社はENCOREの評価を踏まえ、原料生産地であるスリランカの紅茶農園に対象を絞り、LEAPの「L(Locate)」にあたる生態系の調査を実施。その結果、農園が固有種の多数生息している熱帯雨林に位置していること、水の利用や化学肥料・農薬の利用を通じて生産地の自然に影響を与えていることがわかりました。

 KDDIは、生物の生息状況を地図上にフィルタリングして表示するサービス「BiomeViewer」を利用し、自社の通信拠点周辺の環境を対象に、植物の外来種・希少種の分布を推定・評価。特定された拠点を対象に現地調査を行い、実際の植物の生息状況を確認することを検討しています。このBiomeViewerも、TNFDが推奨するツールです。

 資生堂は、生物多様性のリスクがチェックできる無料オンラインツール「生物多様性リスクフィルター」と、日本の生き物分布を可視化するツール「J-BMP」を用いて、生産拠点周辺に生息する絶滅危惧種を把握。ミツバチの減少が懸念されるフランスの工場では、農薬の使用中止と、ハチの巣箱の設置などの対策を講じています。

 加えて同社はスタートアップ企業と連携し、海洋環境を解析する「環境移送技術」を利用して、自社製品の化粧品成分が海洋生態系に対して与える影響を評価することも発表しています。

無料ツールで、自社のビジネスが自然に与えるインパクトを調べてみよう

 自然環境や生物多様性との関係把握や分析に活用できるツールには、上記のほかにもさまざまなものが存在します。たとえば、膨大な生物の音源アーカイブを用いて生態系の変化を知ることができるオープンソース「Arbimon」も存在します。

 こうしたツールを利用すれば、TNFDが求める基準をクリアした情報開示ができるようになり、自社が金融機関や投資家から「自然に対して積極的に取り組んでいる企業」「持続可能な企業」と高い評価を受けることも可能です。資金提供も受けやすくなり、ビジネスはより円滑に進んでいくことでしょう。逆に、TNFDをいつまでも無視し続けると、「自然を軽視する企業」として、企業価値が落ちていく恐れもあります。

 TNFDに基づいた情報開示は、必ずしもやらなければいけないわけではありません。しかし、このまま気候変動が加速した場合、やがては全企業に義務化される日が訪れる可能性もあります。まずは本記事で紹介したツールで、自社の業態や生産プロセスが自然にどのような影響を与えているのかを調べてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

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