2023.05.30 (Tue)
(第32回)
Z世代の知見生かす「リバースメンタリング」の効果
近年デジタル化推進やダイバーシティ経営の必要性が叫ばれるなかで、「リバースメンタリング」と呼ばれる人材育成制度への関心が高まっています。リバースメンタリングとは、上司や先輩従業員が若手従業員に助言や指導をする従来のメンター制度の構図を逆転させ、若手従業員がメンターとして上司や先輩従業員に対して助言や提案を行うというものです。本記事では、リバースメンタリングが職場環境にもたらす効果について、導入事例とあわせて紹介します。
リバースメンタリングが注目されるワケ
リバースメンタリングが人材育成制度として誕生したのは、1990年代末。米国ゼネラル・エレクトリックの元CEOジャック・ウェルチ氏が、当時普及しつつあったインターネットについて、新しいテクノロジーに詳しい若手従業員から管理職がノウハウを学ぶ制度をつくったのが始まりとされています。
いまリバースメンタリングが再注目されている背景には、生まれたときからインターネットがあり日常的にSNSに触れているZ世代(1990年代後半から2010年代前半に生まれた世代)の労働市場への参入があります。デジタル化による業務改善を推進するなかで、世代間のデジタルに関するスキルや知識の格差を解消するための手立てとして期待される側面が強いようです。
若手やマイノリティの価値観や視点を積極的に取り入れていくことを基本スタンスとするリバースメンタリングは、優秀な人材を確保し、ビジネスを成長させていく有効なスキームとして注目されているのです。
企業における社内バイアスへの取り組み事例
国内外の企業では、リバースメンタリングをどのように導入しているのでしょうか。
三菱マテリアルは、デジタル戦略の一環として、若手従業員が経営層の指導役を務めるメンタリング制度を導入しました。メンターとなる20~30代の若手・中堅従業員を公募し、月1~2回、経営幹部1人に対して二人一組で、職業観や企業の組織風土など幅広いテーマで意見交換を行ってコミュニケーションを強化。オンラインツールを活用し、海外拠点の外国人従業員の参加も促進しているそうです。
5年間で従業員900名弱のメンタリング参加の実績をもつ資生堂は、管理職と若手従業員が利害関係なく自由に意見交換できるように、他部門の従業員同士を組み合わせ、一年で交代することを基本としています。その主な目的は、若い世代の価値観や消費傾向などをヒアリングし、マーケティング戦略や業務改善に生かすことです。実際に若手によるSNSの使い方に関する助言がきっかけとなり、社内コミュニケーションツールにSNSが導入されたといいます。
英国では、異なる文化背景をもつ従業員で構成される信用管理会社ローウェルが、世代間のギャップだけでなく、女性や民族的マイノリティ、外国移民など過小評価されやすい人々の意見や価値観に対する理解を深めるためにリバースメンタリングを活用。彼らをメンター、経営陣をメンティーとすることで、これまで見過ごされてきた彼らの生活意識が経営判断で考慮されるようになったといいます。
効果的なメンタリングには工夫と配慮が必要
リバースメンタリングのメリットは、ベテラン世代が若い世代の価値観やデジタルの知識を享受できるだけではありません。若手層にとっても、自身の考えや価値観が上司・先輩や経営層に認知されることで、仕事に対する自信やエンゲージメントが向上するなど、双方に好影響が生じることが期待されます。
この効果を十分に得るためには、少しの工夫と配慮が必要です。ひとつは、メンタリングの明確な目的や課題を設定することです。あるコンサルティング会社では、各ペアにメンタリングプログラムの成果として、働き方改善のアイデア提出を課題にしたところ、業務のデジタル化やチームビルディングなどに関する新しいアイデアが多く生まれたといいます。
また、若手従業員が目上の従業員や経営層のメンターを務めるのに、緊張やプレッシャーを感じることも大いに予想できます。そこでメンターを二人一組にしたり、メンティー側に傾聴のルールを理解してもらったりするなど、メンター側の心理的負担を軽減することも欠かせません。そして何よりも大事なのが、助言する側もされる側も先入観を持たずに相手を尊重する姿勢です。
人材育成制度は、多様化していく働き手の価値観に合わせてアップデートしていくことが不可欠といえます。新たな突破口として、リバースメンタリングを取り入れてみる価値がありそうです。
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