2024.03.29 (Fri)
理想的な会社の在り方とは(第49回)
介護離職が増加中。仕事と介護を両立する方法とは
「介護離職」をする人が増加傾向にありますが、介護休業などの社会保障制度を利用することで、仕事と介護の両立は可能です。介護離職を防ぐさまざまな制度を紹介します。
2015年に「介護離職ゼロ」を目指したはずが、増えている
介護を理由に仕事を辞める「介護離職」が増加しています。
総務省統計局が2023年7月に発表した資料「令和4年就業構造基本調査」によると、直近1年で介護・看護のために離職した介護離職者の数は10万6,000人で、2017年の調査と比べて7,000人増加しています。
同資料によると、現在介護をしている人の数は約629万人で、2012年調査の約557万人、2017年調査の約628万に続いて増加傾向にあります。さらに、働きながら介護をしている有業者、いわゆるビジネスケアラーは約365万人と、こちらも増加しています(2012年調査は約291万人、2017年調査は約346万人)。
日本政府は2015年に発表した「一億総活躍社会」の取り組みの一環として、団塊の世代が70歳を超える2020年以降も、その子供たちである団塊ジュニア世代が、介護しながら仕事を続ける「介護離職ゼロ」という方針を掲げていました。しかしながら、それから数年経った現在、残念ながら介護離職者はゼロになるどころか、逆に増加しています。ただでさえ少子高齢化で労働力が減少する中、介護離職者が増えることで働く人がさらに減少していけば、日本経済が停滞することが懸念されます。
「介護休業」と「介護休暇」は何が違うのか?
介護離職の発生を抑え、仕事と介護を両立するためには、国や自治体が実施しているさまざまな社会保障制度を利用することが重要です。
たとえば「介護休業」制度もそのひとつです。介護休業は育児・介護休業法に基づいた制度で、2週間以上にわたって常時介護が必要な「要介護状態」の家族を持つ労働者が取得できます。対象となる家族は、配偶者(事実婚含む)/父母/子/配偶者の父母/祖父母/兄弟姉妹/孫です。休業期間は家族1人につき通算93日までで、休業する2週間前までに、書面にて会社側に申請します。
介護休業を取得した労働者は、「介護休業給付金」を受給することが可能です。給付額は、休業期間中に会社から賃金が支払われていない場合と、支払われている場合で異なり、賃金が支払われていない場合、「休業開始時賃金の日額×支給日数×67%」が受給可能です。
もし介護休業時にも会社から賃金が支払われている場合、支給額は休業開始時賃金の日額の80%を超えないよう調整されます。そのため、休業時に賃金の80%以上を受け取っている場合、介護休業給付金の支給はありません。
介護休業に似た制度として「介護休暇」もあります。これは介護休業と同様、家族が要介護状態にある労働者が取得できる休暇で、対象家族が1人の場合は年5日まで、2人以上の場合は年10日まで取得できます。
介護休暇の取得をする際は、必ずしも書面で申請する必要なく、口頭でも可能です。ただし、介護休暇中の給与については法的な決まりは無く、支払う/支払わないは会社の方針や就業規則によって異なります。
企業が労働者からの申し出を断るのはパワハラ
休業や休暇だけでなく、勤務時間に関する支援制度も存在します。
育児・介護休業法では、企業は家族が要介護状態にある労働者のために、1日の所定労働時間を短縮したり、労働者が個々で勤務しない日を設定するなど、短時間勤務の制度を設けることを求めています。労働者は対象家族1人につき、利用開始の日から連続する3年以上の期間で、2回以上の短期間勤務が利用できます。
企業が短期間勤務を導入できない場合、フレックスタイム制度、時差出勤制度、介護サービスの費用の助成のうち、いずれか1つ以上の制度を講じる必要があります。
法定時間外労働や時間外労働、深夜労働についても、家族が要介護状態にある労働者が申請した場合、企業は当該労働を免除する必要があります。いずれも開始予定日の1カ月前までに、労働者側から書面で企業に請求する手続きが求められます。
もし労働者から介護休業や介護休暇取得の申請があった場合、企業がそれを拒否したり、取得を理由にその労働者を解雇するなど不利益な扱いをすることは、育児・介護休業法で禁止されています。厚生労働省の資料でもパワーハラスメントとして認定されています。
家族が困難な状態に陥った場合、離職が頭をよぎる瞬間は、誰しもあるはずです。しかし、今回紹介したような制度を利用すれば、働きながらも介護をすることも十分可能です。企業がこうした制度の利用を積極的に社内に呼びかけていくことで、従業員が介護離職という選択肢を簡単に選ぶこともなくなり、ビジネスも安定していくことでしょう。
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